シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

執着

あのとき推していた人は、今もここで生きている

ここから書くことは『「推し」で心はみたされる?~21世紀の心理的充足のトレンド』よりも未来の出来事、「推し」の最盛期から時間が流れた後のことや、「推し」に相当する人と別れた後についてです。 先日、拙著について相次いで感想をいただきました。あり…

『「推し」で心はみたされる?』についてのアジコさんへの手紙

orangestar2.hatenadiary.com アジコさんこんにちは。 このたびは『「推し」で心はみたされる?~21世紀の心理的充足のトレンド』をお読みいただき、ありがとうございました。 ブログの文章、拝見しました。 読み、アジコさんが慣れ親しんでいる「推し」や「…

「後藤ひとりと喜多郁代はよくできたナルシスト」って説明した時の話

昔、ある編集者さんと「いいね」や「推し」について喋っていた時に、「『いいね』も『推し』も有害なんじゃないですか?」といった質問をいただいたことがありました。 「そんなことはありません。有害になってしまう人もいるけど、ほとんど無害な人もいるし…

「無限労働中年になれた」が勘違いだった話

年齢とともに気持ちが変わり、ライフステージも変わる。すると、生活や趣味や働き方も変わる。そういうことに関心をずっと寄せていた私にとって、2023年という時は「オレ、無限に働ける中年になれたのでは?」と思える一年でした。 その気持ちを書いたのが『…

感情移入の願望器としてのフリーレン、ぼっちちゃん、魔法少女

俺は「フリーレン=自分がまだ年老いたり死んだりするところをリアルに想像できない10代の人間をマンガ的に変換したキャラ」だと思っているので、大食いの描写もじつに理にかなったものであるように感じる。— Rootport (@rootport) 2023年12月17日 『孤独の…

介護されたい高齢オタクを引っかける釣り針がすごい──『葬送のフリーレン』

これから書くことは『葬送のフリーレン』評ではない。なぜなら『葬送のフリーレン』という厚みのある作品の全体像をうんぬんするものでなく、作品のごく一部、作品に仕掛けられている数ある釣り針のひとつに注目し、「これは介護されたい高齢オタクが釣られ…

「都合のいい偶然だけ持って来い」

偶然は、きらいですか。 - 犬だって言いたいことがあるのだ。 偶然はきらいですか、というブログタイトルを読んだ時、私は脊髄神経の早さでこう思った──「都合のいい偶然だけ持って来い」 あらゆるものを見通す弥勒菩薩の視点でみれば、この世には偶然はなく…

主人公に卓越をみずにいられない──『東京最低最悪最高!』

bigcomics.jp (はてなブックマークでの反応:[B! 漫画] 週スピ&月!スピ読切・【読切】東京最低最悪最高!/鳥トマト) 月曜の朝に、この『東京最低最悪最高!』が目に飛び込んできた。現実を忠実に模写した漫画ではあるまい。ただ、読者がぶら下がれそう…

「蛙化現象」は健全か不健全か

orangestar2.hatenadiary.com “蛙化現象”について、アジコさんが漫画+文章を描いてらっしゃった。漫画パートでは昔からの意味である「好きな相手が自分のことを好きだと知った瞬間に恋が醒める」が記されているけど、文章パートでは最近の意味である「相手…

娑婆ウォッチ「萌えや推しはどこまで宗教で、どこから宗教ではないか」

オタクは昔も今も色々なキャラクターに親しんできた。「俺の嫁」的に自分のことを受け止めてくれる存在として愛好してきた側面もあれば、「推し」的にリスペクトの対象、あこがれの対象としてみてきた側面もある。鉄オタ、軍オタ、そしてフィギュアを大切に…

「推し」とナルシシズム

【推しの子】 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)作者:赤坂アカ,横槍メンゴ集英社Amazon 最近、いや数年前から「推し」という言葉をよく耳にする。10~25年以上前にオタク界隈で流行っていた「萌え」に比較すると、「推し」には公言しやすさがあり、あしざ…

40代になってからも限界はみえない。それでもできることは減っている。

2023年度のGWも終わって、何というでないけれどもくたびれている。このままギアを落とさず5月をやっていくのかーと思うと気分が晴れない。五月病など、あってはならないことだ。 仕事と原稿と家庭に忙殺される日々を振り返って、思う。ああ、すごくできるこ…

Q:思春期において、承認欲求とどう向き合えば良いのか?

つい先日、こんな質問を読者のかたからいただきました。 1.「承認欲求を持つことは悪いことか」 2.「思春期の年頃において、承認欲求とどう向き合っていけば良いのか」 このブログを長らく読んでいる人には答えの見える質問かもしれませんが、そうでない…

自分の物語でなく、東京という物語を生きることの功罪

「東京をやっていこうとしている」人たちの一喜一憂 | Books&Apps 昨日、books&appsさんに「東京をやっていこうとしている」人たちについての文章を寄稿した。「東京をやっていく」という表現は不自然かもだが、東京のイメージに沿って生きようとしている人…

承認欲求モンスター、それは短所か長所か

ぼっち・ざ・ろっく! ちょこのせ プレミアムフィギュア 後藤ひとりセガAmazon 昨日の『ぼっち・ざ・ろっく』の感想の続き。というか正月に書き損ねた話でもあったので書いてしまおう。 「承認欲求モンスター」についての話だ。 昨日の感想文のなかで 『ぼっ…

ゲームで高まるエモーションのかけがえなさ──スプラトゥーン3と思秋期

スプラトゥーン3 -Switch任天堂Amazon 9月9日、待ちに待った『スプラトゥーン3』がリリースされて、家族総出でプレイしている。ファミ通によれば、発売から三日間で345万本が売れたのだという。しかも国内に限った数だから怖ろしい。 そんなスプラトゥーン3…

50代がさっぱりわからない

ゆうべ、文章をなにも書かなくなった夢を見た。無気力な、何をすればいいのかわからなくなった未来の自分が、消極的に、もっと本業に取り組むかと呟いているのが物悲しかった。もちろんこんなのは本業に精力的に取り組む人々には当てはまらない、私の文脈内…

形骸と形式になり果てた夏でも、夏は夏だ

ニイニイゼミがおそるおそる鳴き始めて、2022年の夏が幕を開けた。 梅雨が本当に明けたのか半信半疑だし、いきなり猛暑なので、20世紀の思い出の夏とはだいぶ違う。そんな夏でも夏は夏だ。私は夏が好きだ。透明すぎる直射日光と深緑の山。そして青い海と生き…

リングフィットアドベンチャー無しでは保てない身体になっている

例年、本格的な夏の頃には体重が落ちてくるのだけど、今年はなかなか落ちてこない。なぜだろう? と思って生活を振り返ったら、リングフィットアドベンチャーをやっていなかったことに気が付いた。 リングフィット アドベンチャー -Switch任天堂Amazon 私は…

ロボットやアリとして「現代人らしく生きる」ということ

anond.hatelabo.jp 冒頭リンク先の文章は、結婚や子育てをするでなく、仕事→給料→趣味という生活のうちに自己実現が欠如している、その実存的悩みを吐露したものだ。 文中から察するに、結婚や子育てが自己実現の一環をなし、実存的な悩みを解決してくれるよ…

残り時間を気にしながらいつも走っている

president.jp 4月に入ってからいろいろ忙しいため、しばらく読むのを後回しにしていたけれども、読んで得心するものがあった。そうか、私はこれを読むのを怖がっていたわけだ。 リンク先の文章は『裸の大地 第一部 狩りと漂白』という書籍からの抜き出しであ…

そろそろ「東京らしいこと」をしたい

なぜ東京人は書く必要のない細かい地名をイチイチ書くのか はてな匿名ダイアリーに「なぜ東京人は(中目黒、などの)細かい地名を言うのか」という文章がアップロードされているのを見かけて*1、シンプルに、ああ、東京行きてぇなぁと思った。ずいぶん長いこと…

生きに生きて40歳、俺らは結構長く生きた

pha.hateblo.jp phaさんのエッセイは、焼きたての手作り菓子のようで、そのようなエッセイにツッコミや言及を入れるのは野暮であり、無粋でもあるのだけど、寒くてどこにも出かけたくない気分だったので、これを書くことにした。 まずphaさんへの私信のよう…

50代で浮かび上がってくる承認欲求のヤバさ

togetter.com 正月明けに、「50代くらいになると何をやっても褒められなくて、不安になり、承認欲求をこじらせる人が多い」というtogetterを発見した。 本当だろうか? だとしたら世知辛い世の中だ、大変ですね、でも自分も無関係とは言えないな、などと思っ…

『ただしい人類滅亡計画 反出生主義をめぐる物語』の感想というか

ただしい人類滅亡計画 反出生主義をめぐる物語 (コルク)作者:品田遊コルクAmazon 週末、縁があって『ただしい人類滅亡計画 反出生主義をめぐる物語』を読んで楽しかったので感想文を書き残すことにした。 はじめはそれほど興味を感じなかった。この本は、人…

お盆を迎え、アンチエイジングに思いを馳せる

お盆が来たので、アンチエイジングとお盆についてボソボソ書きます。 究極のアンチエイジングとは子孫を残すこと。出産とは自分の遺伝子が入ったヴィークルを新車に乗り換える、ということ。新品のクルマがある人は古い方のクルマにガタがきたり見た目がオン…

アイデンティティのあり方、昭和→平成→令和を追う

何者かになりたい作者:熊代亨イースト・プレスAmazon 本を書いてしばらくすると、本で書き足りなかったこと・もっと強調すれば良かったことなど思いつきがちだ。6月に発売された何者かになりたいにしてもそうで、「自分はこういう人間である」を規定してく…

「日本スゴイ」や「ネトウヨ」にみる、アイデンティティの間隙

blogos.com リンク先はBLOGOSさん向けの書き下ろし記事です。拙著『何者かになりたい』の後半章に関連した、中年期~老年期のアイデンティティの話題を記しています。BLOGOS編集部さんから「中年の危機」に重心を置いて欲しいとリクエストいただいたので、そ…

「何者かになりたい」人に必要なコミュニケーション能力

何者かになりたい作者:熊代 亨イースト・プレスAmazon おかげさまで、熊代亨『何者かになりたい』が本日発売されました。若い人をメインの想定読者とした本ですが、後半パートの「中年期から先の何者問題」の箇所はアラサー・アラフォー世代によく刺さるよう…

「倍速視聴はオタクじゃない」わかった。じゃあ理想のオタクって何?

gendai.ismedia.jp 講談社ビジネスに掲載された『「オタク」になりたい若者たち。』という記事に批判が集まっているのをtwitterとはてなブックマークで見かけた。 記事曰く、現代の若者は普通がなくなった状況のなかで無個性を嫌い、オタクになりたがるのだ…