2010年代が終わろうとしている。
年末の片付けをしていたらアニメの録画やディスクがふきだまっている場所に捕まってしまった。中年になればアニメを見なくなるかと思いきや、そんなことはなく、素晴らしい作品に恵まれた10年だった。手が止まったついでに、心に残った2010年代のアニメを振り返っておこうと思う。
※私個人の好みに基づいたチョイスなので悪しからず。
ベスト6選
1.ゾンビランドサガ
- アーティスト:フランシュシュ
- 出版社/メーカー: エイベックス・ピクチャーズ株式会社(Music)
- 発売日: 2019/11/27
- メディア: CD
アイドルとゾンビと佐賀県、食い合わせが悪そうにみえて、ビックリするほど噛み合っていた作品。
私はアイドルもゾンビもジャンルとして好みではないけれど、つくりが丁寧で、やたら笑えて、それでいてアイドルものやゾンビものを見たような気分になってしまった。両方のジャンルに詳しい人にはまた違った風に見えるのかもしれないが、詳しくない人でも楽しめるつくりなのは間違いない。
中毒性のある主題歌も好きだが、あの、卒業式のようなエンディングテーマを聴いていると、アイドルとゾンビ、かりそめの命を与えられた者が前のめりに生き、やがて旅立っていく無常さがこみあげてきて胸がいっぱいになってしまう。2010年代の深夜アニメのなかで、一番子どもにウケが良かったのはこの作品で、去年の冬の我が家はゾンビランドサガの話でもちきりだった。
2.機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ
機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ Blu-ray BOX Flagship Edition (初回限定生産)
- 出版社/メーカー: バンダイナムコアーツ
- 発売日: 2020/03/27
- メディア: Blu-ray
ブログには傑作になり損なった、なんて書いたけれども2019年になってもオルガと三日月のことは忘れられない。鉄華団という名前の示すとおり、彼らは花を咲かせて散っていった。アトラたちが残されたとはいえ、それでも男たちは散っていったのだ。その顛末を、視聴者である私はまだ覚えている。
後半のゆるい展開、ガンダムという存在の取り扱い、マクギリスの結末に不満がなかったわけではない。それでも主要キャラクターがちゃんと立っていて、因果因縁の筋の通った作風は貫かれたと思う。「踏み外したことをやれば、そのけじめは支払わなければならない」という世界観を、オルガや三日月たちはガムシャラに走り続けた。彼らも作品そのものも不器用さが目立ったけれども、案外、そのせいで記憶に残るのかもしれない。
3.ガンダムUC
機動戦士ガンダムUC Blu-ray BOX Complete Edition (初回限定生産)
- 出版社/メーカー: バンダイナムコアーツ
- 発売日: 2019/02/26
- メディア: Blu-ray
初代ガンダムから始まる宇宙世紀系ガンダムの作品のなかで、心の底から楽しめた作品はこれで最後になるのかもしれない。ガンダムNTやガンダムORIGINといった最近の作品が、原作ファンのニーズを汲んで細かくつくられているのは理解できる。けれども、その細やかさが「くどい」と最近は感じるようになった。そういう変化が起こる直前に私はガンダムUCに出会ったので、ギリギリセーフ、ガンダムファンを喜ばせるための細かな配慮を喜んでいた。
ガンダムUCは宇宙世紀系ガンダムらしさがはっきりと示されている。と同時に、ガンダムというモビルスーツの特別さ、「ガンダムが戦局を変えていく」という手ごたえを感じさせてくれる作品だった。ストーリーや人間模様を楽しむ以上に、モビルスーツの細かなデザインや挙動、ガンダム史を追いかけるのが楽しい作品だったとも思う。
いや、細かな御託はいい。本当は、ひいきにしている脇役モビルスーツがすごく格好良かったので無理やり6選に組み込んだ([関連]:ああ、ジェガン!――俺が選ぶジェガン名場面ベスト5 - シロクマの屑籠)。これを外すなら、選外の『宇宙よりも遠い場所』をここに入れると思う。
4.シドニアの騎士
2010年代は、はじめの期待以上にロボットアニメがつくられた10年だったと思う。そのなかで一番恰好良くて、一番思い出に残った作品はシドニアの騎士だ。
『進撃の巨人』のように登場人物がバタバタ死んでいく作品もあるけれども、そうしたなかでは『シドニアの騎士』が自分の肌に合っていた。私はみずから剣をふるう主人公より、ロボットや戦闘機を操縦する主人公にシンパシーを感じるらしい。
メカニックがとにかく恰好良い。播種船のフォルムやヘイグス粒子砲の輝きを見ているだけでも幸せに生れる。、主人公・谷風たちが乗るロボット型戦闘機「衛人」の武骨にみえて華奢なデザインも、日本語でまとめられたコンソールも、実体弾の軌跡すら美しいのだから困ってしまう。3DCGをベースにした作品だからか、『シドニアの騎士』の戦闘機動は観ていて気持ち良く、今までのロボットアニメとは趣が違うと感じた。谷風周辺の人物描写も良かった。今、NHKのBSで再放送しているので、こういう作品が好きな人はそちらを。
5.君の名は
2010年代でいちばん売れたアニメ作品。と同時に『秒速5センチメートル』で打ちのめされた気持ちを精算してくれた尊いアニメ。
40年ほどアニメを観続けてきた人間の感覚だと、『君の名は。』は、会えそうで会えない男女の物語を綺麗なビジュアルでまとめた部分がウケた、と考えたくなる。でも、たぶんそうではないのだろう。
なぜなら、この作品は一定のアニメリテラシーを求めるというか、ストーリーのあちこちに時間遡行の要素があり、「三葉と瀧の時間が一致していない前提がわかっていないとわかりづらい」部分があるからだ。
にも関わらず、この作品はメチャクチャにヒットした。私自身、時間遡行の厳密さはどうでもいいと思いながら眺めていた。時間遡行が読み取れるリテラシーを、いまどきの視聴者は身に付けているのか? それともリテラシーが足りなくても引っ張っていける牽引力をこの作品が持ち合わせていたからか?
たぶん両方なのだと思う。アニメリテラシーの浸透した機の熟したタイミングに、しっかり整形された新海誠アニメが出てきて話題をさらった──それが『君の名は。』だったのだと思う。
6.魔法少女まどか☆マギカ
2010年代のはじめに突然現れ、当時のタイムラインを席巻したアニメ。久しぶりに観ると、魔法少女たちの豆腐のような顔立ちが気になるが、そんなのは些末なことでしかない。顔立ちに慣れる頃にはすっかり虜になっていて、魔法少女たちのファンになっていた。
この作品をきっかけとして魔法少女を歪んだ目で見るようになった人は多いと思う。そして魔法少女をもともと歪んだ目で見ていたベテランのアニメファンには最高級のエンターテイメントだったに違いない。はじめのうち、私は斜に構えて眺めようと努力していたが、マミさんが敗北し、さやかのソウルジェムが濁り始めた頃にはすっかりやられてしまって、毎週毎週テレビにかじりつくことになった。振り返ってみれば王道の展開だったのかもしれない。が、当時はそんなことを考えている余裕は無かった。気が付けば、魔法少女5名のねんどろいどを買い集めてしまっていた。
2010年代のアニメを一本だけ推薦しなさいと言われたら、私はこの『まどか☆マギカ』を推すと思う。少なくともアニメをよく見ている人にはこれを推挙したい。アニメをあまり見ていない人に勧めるなら『君の名は。』しかないだろう。広く受け入れられやすい素地を持ち、いまどきのアニメらしさを備えていて、知名度も優れているから、あれを第一とする人がいてもおかしくはない。
ともあれ、この6本は私には思い出深く、忘れがたい。やや偏ってはいるけれども、どれも人の心を動かす潜在力を持った作品だとも思う。2010年代のアニメを私が他人にお勧めするとしたら、間違いなくこのなかから選ぶ。
選外
挙げるときりがないけれども、選外の作品もいくつか。
・這いよれ!ニャル子さん
ニャル子さんがちゃんとかわいい。主題歌が作風によくフィットしていて、あらかじめ客層を絞っているのは好感が持てた。原作と同じく、くだらなさにしっかり振り切っていてバカみたいな顔をして眺めていられる。
クトゥルフだけどみんなかわいくなってしまうのは、現代日本文化だと思う。
・シュタインズ・ゲート
STEINS;GATE コンプリート Blu-ray BOX スタンダードエディション
- 出版社/メーカー: KADOKAWA メディアファクトリー
- 発売日: 2018/04/25
- メディア: Blu-ray
ゲーム原作のテイストをほとんど残しているのに意外にゴチャゴチャしていないというか、これも巧くアニメ化した作品だった。「世界線が変わり、萌えが無くなった秋葉原」のシーンをはじめ、アニメという媒体を存分に生かしていたと思う。2019年から見て、2000年代の秋葉原文化のタイムカプセルのように見えるのもポイント高い。
・宇宙よりも遠い場所
『ゆるキャン△』か、『宇宙よりも遠い場所』か、どちらか迷って最終的にこちらをここに。『ゆるキャン△』も、あれはあれでいいものだと思う。
こういう「女性キャラクター複数名がどこかに出かけるアニメ」は苦手意識があって敬遠していたのだけど、これらの作品を観て考えが変わった。良いものはやっぱり良いのだ。
あと、未婚十代の人がこの作品を見るのと、既婚四十代がこの作品を見るのでは、見え方がぜんぜん違うと思う。私は中年になってからこの作品に出会ったけれども、それはそれで良い出会いだった。
・侵略!イカ娘
深夜アニメなのに非常に子供向けっぽくつくられていて、それでいて手を抜いている感じがしなかった。うちの子どもも本作品が気に入っていたが、さしあたり「子供向けアニメらしきものを深夜に大人が見る」という目的に最適化された作品、だったのだろう。この作品の後に『スプラトゥーン』がリリースされたのも印象に残った一因だったのかもしれない。
・けものフレンズ
Kemono Friends: Complete First Season [DVD]
- 出版社/メーカー: Discotek Media
- 発売日: 2019/10/29
- メディア: DVD
二期ではインターネット上でさんざんな評価だったけれども、一期は紛れもなく良くできた何かで、単なるかわいい動物擬人化アニメでもなく、ミステリアスなSF近未来アニメとも言いきれず、手触りが独特だった。後発の『ケムリクサ』のほうが、その独特さ加減が現れていると感じるけれども、総合的には『けものフレンズ』一期のほうがまとまりが良く、とっつきやすかった。
・PSYCHO-PASS
職業上の理由から、「『サイコパス』なんて名前のアニメ、きっとあら探ししてしまうから視ないでおこう」と敬遠していたのが大間違い、市民のメンタルを厚生省が徹底的に管理する近未来ディストピアが舞台の、胸が熱くなる作品だった。『ハーモニー』同様、管理社会についてつい考えたくなる。
公安局刑事課の「つかみの良い」キャラクター造形のおかげか、重たいテーマでもすんなり受け入れられる気持ち良さがあった。シビュラシステムの核心に触れる一期はもちろん、意外にも二期もかなり面白く、現在オンエアー中の三期はなんと一話46分!作品からは潤沢な予算と気迫が感じられて頼もしい。どうか、2019年の締めくくりにふさわしい結末を迎えて欲しい。
2020年代も楽しんでいきましょう
10年間を振り返ってみると、ここに挙げた作品だけでもおなかいっぱいというか、本当にアニメがたくさんある時代なのだなぁと思う。日本のアニメは間違いなく生きた文化で、そのタイムリーな文化を満喫できることを幸運に思う。2020年代も楽しみたい。