シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。現在、忙しいうえブログは実験モードに移行しています。

イタリアの食堂で出てくるシャバシャバなワインの良さ

 

 
イタリアの食堂、それも気取らない食堂には、めちゃくちゃ安くてなんとなく旨い、シャバシャバしたしたワインが用意されている。グラスで2ユーロぐらい、カラフで頼んで5ユーロぐらいの、いわゆるハウスワインってやつだ。ランチのお供に最適で、後のコーヒーを飲む頃には酔いが抜け始めている。アルコール度数は10~11%ぐらいだろうか。あれは、とてもいいものだと思う。
 
フランスやスペインの食堂でも、ハウスワインを頼むと(良い意味で)シャバシャバとしたワインが出てきて、ざくざくと飲める。プロヴァンスのロゼなんかもいい。安くて、気取らない料理のお供としてうってつけで、午後の活動の邪魔にもならないワイン。あれはあれでいいものだと思う。
 
 

日本で手に入る安ワインは、シャバシャバしていないことが多い

 
今、日本で手に入る1000円ぐらいのワインの多くは、そういうワインではない。たとえばチリ産の「安くて旨いワイン」として知られているブランドの品を思い出していただきたい。
 
立派な香り。
しっかりとした風味。
果実味が迫ってくるようで、大柄、重量感もある。
アルコールの濃度は13.5%以上、14%を上回ることもある。
 
私のいうシャバシャバしたワインと、このチリ産の「安くて旨いワイン」を並べて飲んだら、印象に残るのはチリ産の「安くて旨いワイン」のほうだ。
 
ところが、こういう「安くて旨いワイン」はパワーが強すぎる。グラス一杯を飲み比べるならいいけれど、こんな風味の強いワインを飲み続けていると、やがて飲み疲れてしまう。味の輪郭もはっきりしまくっているから、料理も相手を選ぶ。濃い味付けの料理やバーベキューの時は困らないけれども、簡単な豚肉料理なんかはワインが蹴散らしてしまう。白ワインもそうで、和食のお供をさせたつもりが、ワインが出しゃばってしまったりもする。
 
これはチリ産に限った話ではなく、カリフォルニア産でもオーストラリア産でもよくあることだ。フランス産やイタリア産のワインでも珍しくない(フランスやイタリアでも、ここでいう「安くて旨いワイン」を作っているメーカーはある)。だから前知識なしに楽天市場で1000円ぐらいのワインを買うと高確率でこれに出くわす。あと、国内のトラットリアやビストロでも、このタイプの「安くて旨いワイン」がハウスワインとしてしゃしゃり出てくることが時々ある。ワインらしいワインには違いないし、香りも味もしっかりしている。でも重たいしザブザブ飲むには向かない。カラフでなんか注文したら大変なことになってしまいそうだ。
 
安いワインにやっすい仕事をしてもらいたい時、いまどきのよくできた「安くて旨いワイン」たちは色々な意味でオーバースペックになってしまう。
 
シャバシャバとしたワインそのものか、それに近いワインを日本で求めるとしたらどうなるか。
自分なら、候補として以下のようなワインを探す。
 
・キアンティと名前のついた赤ワイン(もっと高価なキアンティ・クラシコである必要はない)やモンテプルチャーノ・ダブルッツォと名前のついた赤ワイン
・ボジョレー(の赤ワイン)
・品種名がピノ・ブラン(フランス名)かピノ・ビアンコ(イタリア名)の白ワイン
・おなじく品種がアリゴテ、シルヴァネール、ヴェルメンティーノの白ワイン
 
それとトラットリアやビストロには必ずシャバシャバしたワインのひとつぐらいは候補にあるはずなので、店員さんに「きつくないワイン」「威圧感のないワイン」などを尋ねてみたらだいたい何か出してくれる(はずだ)。それと日本産の赤/白ワインも大丈夫なことが多いように思う。昔は、米麹みたいな変な風味の日本産ワインがよくあったけど、最近はそういうワインも少なくなった。日本産のワインは繊細なものが多い。シャバシャバした日本産の赤ワインを狙うなら、メルローやカベルネソーヴィニヨンといった名の知れた品種でなく、もうちょっとマイナーな品種が狙い目だと思う。
 
 

「ワインとして優れていること」と「今日のメシにふさわしいワインであること」

 
「シャバシャバとしたワインなんて要らない」という人は多いように思う。ワインが好きな人でも、シャバシャバとしたワインを遠慮したい勢は結構いるはずだ。「安くて旨いワイン」たちに比べて風味や香りが控えめで、かといって高級ワインに期待されるような繊細なあやを誇るでもないこれらのワインは、ワインコンテストをやれば確実に埋もれてしまう。
 
でも、ワインとして優れているからといって、今日のメシ・その場のメシにふさわしいワインとは限らない。
ものすごく濃い料理や、大ブルジョワのためのコース料理を年中食べているのでない限り、シャバシャバしたワインのほうがふさわしい場面はあるはずだ。気の置けないビストロのランチやいつものおうちごはんに、ふんぞりかえったようなワインは要らない。ときには邪魔にすらなる。
 
煎じ詰めると、シャバシャバしたワインの存在意義は、日常的な食事と一緒にワインを飲む嗜好があるかないか次第、なのだろう。ワインを単品で"鑑賞"したいとか、日常酒としてはワインを飲まずにビールや日本酒を選ぶ人には、シャバシャバしたワインの価値はたぶん無い。でも、ワインを日常の一部とみなし、気兼ねしない食事と調和させるなら、シャバシャバしたワインが占める場所があるように思う。