シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

丸善京都の熊代亨選書フェア@はてなブログ編

 

・丸善京都本店、『人間はどこまで家畜か』刊行記念・熊代亨選書フェア
 
ご好評いただいている『人間はどこまで家畜か』にまつわる本や問題意識が近い本を集めたフェアを、丸善京都本店さんで開催していただいています(ありがとうございます!)。そちらで紹介されている本については、京都丸善本店さんで実際に手に取ってみていただければと思います。
 
このブログでは、ぎりぎり選外になった本や、値段が高すぎたり難易度が高かったりして紹介をためらった本、諸事情から選外に漏れた本などをまとめて紹介したいと思います。
 
 

1.ちょっと重たいかもと思って紹介しなかった本

 
ヘンリック『文化がヒトを進化させた』

ハーバード大学の進化生物学教授が書いた刺激的な本。ヒトの進化が文化を創りだしたのは昔から言われていることですが、この本では、文化がヒトの進化に影響を及ぼした一面が広く論じています。ヘンリックの考えを私なりにまとめるなら「ヒトの文化と進化は共振している」となるでしょうか。ヒトの自己家畜化についても参考になることがたくさん書いてあり、たくさん参照させていただきました。
 
 
スティーブン・ピンカー『暴力の人類史(上)(下)』
スティーブン・ピンカーによる大著。発売された頃は「第二次世界大戦やホロコーストの惨劇を計算に入れてもなお、歴史的に一貫して人類の暴力は少なくなっている」という主旨について、論争が起こったように記憶しています。上下巻からなる分厚い本で読むには相応の覚悟が必要ですが、準備ができている人には大変エキサイティングな本のはずです。拙著『人間はどこまで家畜か』で一番引用している本はこれかもしれません。
 
 
ミシェル・フーコー『知への意志』
フーコーの参考書ではなく、フーコー自身の本の入口として入りやすいのは『監獄の誕生』ですし、規律訓練型権力についてはそれで良いのですが、生政治については『知への意志』でしょう。後半パートの生政治についての記述は、参考書を読んだ後ならわかりやすいかもしれません。でも、フーコーの本って色々なところに昆布出汁みたいに旨味がしみ込んでいて、読んでいるうちに「あれはそういうことだったのか!」と納得するフラグがいっぱい埋め込まれているので、はじめは参考書頼みに後半パートだけ読み、余裕出てきたら他も読んでみると良いように思います。
 
 
『カプラン臨床精神医学テキスト DSM-5診断基準の臨床への展開 第三版』 
これ、すごく良い教科書だと思うんです。DSMは最近、DSM-5からDSM5-TRになったので、これが最新ってわけではありません。でも、新しいことから古いことまでひととおりのことが書いてあって、少なくとも精神科医である私には読み物としても楽しめるので、暇な時にパラパラめくっています。とはいえ分厚いし、専門書だし、丸善京都さんで扱ってもらうわけにも……ということで選外になりました。
 
 

2.ぎりぎり選外&取り扱い等の理由から選外

 
テンニース『ゲマインシャフトとゲゼルシャフト(上)(下)』

『人間はどこまで家畜か』には、ゲマインシャフトとゲゼルシャフトという言葉が何度か登場しますが、これらはテンニースからの引用です。社会契約や資本主義について考える補助線として良いですし、ゲマインシャフトとゲゼルシャフトという概念を知っていると地域社会/社会契約について別の本を読む際にはわかりやすくなると思うので、地域社会や社会契約に関心がある人は一度は読んでおいたほうが良いと思います。
 
 
ユルゲン・コッカ『資本主義の歴史:起源・拡大・現在』
タイトルのとおり資本主義の歴史を記した本で、資本主義のシステムと思想がどのように発展して現代の資本主義にまで至っているのかが(この手の本にしては)簡潔にまとめられています。類書のなかではこれが一番オススメかなぁと思っていたりします。
 
 
ジェリー・Z・ミュラー『資本主義の思想史:市場をめぐる近代ヨーロッパ300年の知の系譜』
上の『資本主義の歴史』よりも分厚く、もうちょっと思想史っぽい顔つきをした本ですが、それだけに、資本主義をそれぞれの時代の思想家たちがどのように受け取っていたのかを見せてくれるのが面白くて、それらをとおして資本主義の辿ってきた足跡も透けてみえてくる、そんな本です。
 
 
吉川徹『ゲーム・ネットの世界から離れられない子どもたち: 子どもが社会から孤立しないために (子どものこころの発達を知るシリーズ 10) 』
ネット依存・ゲーム症については吉川先生から受けている影響が大きいのでこの本も選書にしようかと思いましたが、あまりに医療寄りな本なので最終的に選外としました。
 
 
佐々木俊尚『web3とメタバースは人間を自由にするか』
私なら「web3とメタバースは人間を透明な檻に閉じ込める!」と言いたくなりますが、利便性だって大きいわけで。佐々木俊尚さんのこの本は、私よりも冷静な筆致でIoT化が進んだ未来について論じています。
 
 
オルダス・ハクスリー『すばらしい新世界』
この手の作品のなかでは『ハーモニー』と『ある島の可能性』が選に残り、『すばらしい新世界』が選から外れました。ディストピア管理社会SFとしては『1984』と双璧をなしていますが、ディストピアとユートピアの紙一重っぷりを味わうならこちらでしょう。
 
 
沼正三『家畜人ヤプー』
タイトル的に『人間はどこまで家畜か』に一番近いのはこのSF作品。ですが、まあ、その、色々と事情をかんがみて外しました。以前に書いたヤプー評はこちらを。ヤプーに働いている生政治&規律訓練型権力と現代の私たちに働いている生権力の共通点を読んでいくと、「現代人はどこまでヤプーか」を考えながらの読書体験になるので良いですよ。
 
 
アニメ版『PSYCHO-PASS』
アニメのDVDという理由で選外になりました。作品のメインストーリーはおおむね刑事物語ですし、それはそれで面白いですが、厚生省に統治された管理社会がアニメとして映像化しているのが素晴らしすぎます。登場人物もそれぞれ味があって世界観とうまくマッチしています。私としては、榊原良子さんが声を当てている厚生省公安局局長を推したいです。
 
 

3.間に合わなかった本

 
グレーバー『万物の黎明』

ピンカーのライバル的存在のグレーバーによる大著。グレーバーはアナーキストで、そのアナーキストのグレーバーにとって、中央集権国家の役割を重視するピンカーの記述は批判の対象になるはず。だからピンカーを読むならグレーバーのこれも読むべきだと思うのだけど、そのグレーバーが書いた『官僚制のユートピア』を読んだ時に、ちょっと強引にアナーキズムに寄せすぎだと感じたので、読むのを後回しにしました。論の当否はともかく、面白い本だと予測しています。
 
 
ジョセフ・ヘンリック『WEIRD(ウィアード) 「現代人」の奇妙な心理 上:経済的繁栄、民主制、個人主義の起源』
心理学や進化心理学の好きな人にとって、WEIRDという言葉の意味はわかるはず。つまり「Western, Educated, Industrialized, Rich, and Democratic」な環境とそこで暮らす人々のことです。この本は、WEIRDな人間心理がどこまで普遍的なのか、WEIRDな環境や文化が人間にどう作用するのかを論じていて、刺激に事欠きません。テストステロンと男性の行動について等々、『人間はどこまで家畜か』で引用したかった記述もたくさんあります。でも、2023年12月発売だったので間に合いませんでした。
 
 

本と本を繋げる手がかりにしてください

 
これらの本は、私の頭のなかで繋がりあっているので、他の人においてもそうなる可能性があるかなと思っています。よろしければ本と本を繋ぐ手がかりにしてください。