シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

奥さん立てろやゴルァ

 
 

 こんなの楽勝じゃん!
 「両方です」って答えるに決まってるだろ?(クソリプ)
 
 
 ところで、私は90年代からインターネットが大好きで、ひいきにしている「ホームページ」がたくさんあった。なかにはずっと年上が書いているページもあって、彼らのホンネ丸出しな文章に私は毎夜ゾクゾクしていた。
 
 なかでも、ある妻帯者のホームページがお気に入りだった。
 
 その人のホームページには同業者を腐す文章がいつも陳列されていて、今のインターネットでいえば“口の悪いtwitter芸人”のようだった。「クズっぽいなぁ」と思いながらもリアルでは滅多に聞けない汚い言葉が待ち遠しくて*1、ネットサーフィンの巡回先としていつも気にしていた。
  
 が、彼にはささやかな美徳(?)もあった。
 
 彼はときどき奥さんの悪口も書くけれども、翌日には必ず反省文を掲載していた。
 
 「こんな口の悪い人でも、奥さん宛てには反省文を書くんだなぁ……。」と感心すると同時に、配偶者の悪口や不満をネットに開陳するのはそんなに悪いのか、とも思った。
 
 

  • 配偶者の悪口をSNSやtwitterに書く人がいる

 
 でも、それから二十年近い歳月を経てみると、彼の振る舞いが正しかったとわかる。インターネットに配偶者の悪口や不満を書くのは、とりわけ今では最低だ。どこの誰が読んでいるのかわかったもんじゃないし、配偶者はもとより、子どもや親族が見てしまう可能性もある。「アカウント身バレ問題」などという古めかしい考え方は、配偶者には通用しない。友達や会社の同僚にはアカウントを隠し通せるかもしれないが、配偶者にアカウントを隠し通すのは難しい。そもそも、配偶者にアカウントを隠すということ自体、揉め事の原材料のような雰囲気を漂わせているわけで、そんな事はすべきではないのだ。
 
 もし、夫(妻)がネットに不満や悪口を書かれているのを発見したらどんな気持ちになるだろうか?
 
 きっと残念な気持ちになるだろう。その書き込みによって家庭の円満が1%でも損なわれるのだとしたら、いかなる利益をも上回る損失と言わざるを得ない。
 
 まして、そうした不満や悪口が公衆の面前に書き込まれているのだから、それは市中でプラカードを持って「私の妻(夫)はこんなに残念です」とデモンストレーションをやっているにも等しい。配偶者に屈辱を与えているようなものだ。
 
 その行為は自分自身を貶めるものでもある。「私はこんな残念な配偶者を選びました」「しかも私は配偶者への不満や悪口書き散らしています」とアッピールしている人物を眺めて、「この人は素敵な人だなぁ」「この人は利口な人だなぁ」と思う人などいまい。
 
 配偶者への不満や悪口について、インターネット上で他人が注意や警告をしてくれる事は無い。なぜなら、現代社会では他人の家庭の事情についてツベコベ言うのはマナー違反だからだ。だからといって、ひとつひとつの態度を誰も何も見ていないかといったら、そんな事はない。黙っている人も、ギョッとしたり、「どういう事情なんだろう……」と考え込んだり、とにかく推測はする。しかし何を推測するにせよ、配偶者の不満や悪口を言う人を見かけて評価を向上させる人は少ない。まあ、不満や悪口をシェアしたい者同士なら心が通じ合ったと錯覚するかもしれないが……たぶんそれはパートナーシップの最適解ではない。
 
 今日のインターネットは20年前のホームページ時代と違って現実生活に直結しやすく、誰もが用いるインフラになっている。だから20年前に比べて配偶者の欠点を並べるのに適さない場所になっているはずなのだ。
 
 ところが、配偶者について(あるいは交際相手について)インターネットにアーダコーダ書きこむ人が本当にいたりするのだ。そんなことをして、一体誰にとってメリットがあるのか?
 
 人と人とが寄り添いあって夫婦となるのだから、不満や葛藤もあるだろう。だからといって、それを公衆の面前、しかもアーカイブとなって残る場所に記すのは浅慮と言わざるを得ない。どうしても不満や葛藤を吐きたいなら、SNSやtwitterよりずっと良い場所がオフラインにあるはずだ。そんなインターネットの使い方は、今すぐ修正されるべきだ。
 
 その点、ホームページ時代にも関わらず、奥さんの悪口に反省文を必ず添えていた彼は心得ていた部類だった。
 
 配偶者は、敵に回せば一生の敵だが味方につければ一生の友、かけがえのない人生の戦友だ。そんな、配偶者を貶めるようなことをインターネットにやすやすと吐いてしまう人とは、みずから一生の敵をつくりだしているようなものだ。これ以上馬鹿げたインターネットの使い方があるだろうか? そういう人間にはインターネットは早すぎる。
 

*1:注:現在のインターネットには口汚い言葉が溢れているので、今は間に合っています