シロクマの屑籠

はてな村から引っ越してきた精神科医シロクマ(熊代亨)のブログです。

「あなたは何も分かっていない」で男を狼狽させた時点で、その女性は、コミュニケーションに“勝利”している

 
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女の言う「あなたは何も分かっていない」の正体: わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる
 
 女性が「あなたは何も分かっていない」と男性に迫ってきた時、you vs meではなく、problem vs us(you and me)に切り替える方法を説いている。確かにそうだろう、女性との交際を続けたければ、男と女が共有する問題にあたらなければならない。
 
 ところで、このproblemというのは、果たして誰にとって解決が期待されるproblemだろうか?勿論、女性にとって解決が期待されるproblemだろう。男性にとって解決が期待されるproblemだったら、「あなたは何も分かっていない」と言われる前にむしろ男性側から逆提案すらされている。実は、problem vs usになった時点で、女性側は男性側の助力または注目なりを獲得している点に注意!女性側は、「あなたは何も分かっていない」というカードを通して、ともかくもゼロではない何かしらのコストを男性側に支払うよう要請している。そしてあなたが僅かであってもそれに耳を傾けたならば、女性側の政治的ストラテジーは最低限は成功したと言える――僅かばかりの言葉と、大量の情緒的シグナルを含んだコミュニケーションは、自分にとって何らかの利得を引き出すチャンスに繋がったわけだ――。また“問いなおす”などという男性側の行動も、彼女達にとっては幾ばくかの収穫ではある。少なくとも男性側の注意を惹くことには成功し、“コミュニケーション”の果てに何らかの利得を得る機会を得る尻尾ぐらいは掴めたわけだから。彼女はコミュニケーションに『勝った』のだ。
 
 「あなたは何も分かっていない」という女性側の働きかけは、男性側がそれに耳を傾け、狼狽した時点で既に(コミュニケーションとして)成功している、と捉えるのが穏当だろう。即ち、女性側にとって何らかのメリットがあるような男性側の行動変化を、ほんのちょっとのエネルギーでたぐり寄せているのだから、これを優れたコミュニケーション戦略と言わずに何と言おうか。損得勘定というロマンも糞もない視点で考えると、problem vs usという男性側の心変わりは、女性側にとって十分喜ばしい行動変化に違いない。
 
 男性は、コミュニケーションというとついつい言語やロジックを介した次元で成否・優劣を考えたがるが、男性と女性では得意とするコミュニケーションの次元が異なっており、女性側は最高級の情動シグナルをもって男性にコミュニケートすることを得意としている。涙を目にためて「あなたは何も分かっていない」と訴えるストラテジーはその最たるもので、男性側がロジックレベルで「problem vs us」などと冷静を装っているうちに、自分にとって有利なストラテジーを(その男女間において)見事に進行させている。情動シグナルの取り扱いの不得手な男性ほど、この“みえにくい次元からの操作”に気付きにくいが、女性はこの分野で男性の行動を変化させる(つまりコミュニケーションに成功する)達人が多いので、気付かぬうちに情にほだされて操作すらされてしまう。 
 
 さらに、「あなたは何も分かっていない」に対して何らかのリアクションをとる男性は、女性側によって「ははぁ、この男は私が手放せないから、対処せざるを得ないのね」という(おそらくは無意識レベルの)学習を促進することになる。もっとぞんざいに言えば「こいつは尻に敷けそうだ」という判断を促すことになる。「あなたは何も分かっていない」という女性側のシグナルに応じる男性は、その女性を手放したくないと思うからこそ応じるわけで、馬鹿ではない女性はすぐにその事に着目することができる。よって、男性側が女性側の声に耳を傾ければ傾けるほど、その男女間の綱引きは、女性側が男性側を振り回しやすい構造を形成していくだろう。その場のproblemに対峙し、それを解決すれば問題が終了すると思うのはあまりにも楽観的に過ぎる。その場のproblemに誠意をもって応えた男性は、男女間の綱引きという構造において「あんたのほうが私を必要としているんだから、言うこと聞きなさいよ!」という立場へとジリジリと追いやられている。そして最も“キレる”女性達は、屈託無くそういった綱引き構造を形成しちゃったりする。いやぁ、恐ろしい恐ろしい。
 
 よって、この対処法は
1.男性側がproblem vs usを提案したり、問い返したりしている時点で、女性側のコミュニケーションは既に成功している
2.さらに、男女間の綱引き構造において、女性側が支配的な状況がちょっと形成される

 という効果が含まれており、この方の仰る「勝負」は既に決していると考えるのが穏当だろう。もちろん、男性側の「敗北」ってことになるだろうか。
 
 では、このような「勝負」に勝つにはどうすれば良いか?私は亭主関白しか無いんじゃないかと思う。女性側の働きかけに応じた時点で勝負が決するのなら、働きかけに応じる頻度を50%未満に設定すれば良い。こうすれば、半分は「負けなくなる」し、男女間の綱引きも男性優位を維持出来るだろうし、パートナーとのコミュニケーションのイニシアチブを握るのは男性側となる。あまり亭主関白に徹し続けると、女性側も利害を勘定して逃げていっちゃうかもしれないので、30%〜49%を目安に突っぱねると良いかもしれない。尤も、亭主関白戦略をとるには「お前がいなくなっても、俺は代わりの女を見つけるもんね。それか、エロゲーのキャラのほうが(略)」という姿勢を提示し、相手に信じ込ませる下地がなければならない。例えば“もうこの女性に離れられたら、俺は一生男女交際出来ない!”などと思っていて、事実男女交際に充てられるリソースの乏しい男性などには、とても無理な戦略である。女性は、男性側がどれぐらい女性に依存せざるを得ないかを的確に値踏みしている場合が多いので、男性側がブラフで対抗するのは限りなく不可能に等しい。特に「あなたは何も分かっていない」などというニュアンスには「私の言うことをきかないと、捨てちゃうゾ」という恫喝が込められているので、女性と縁を切るわけにいかない男性には相当な揺さぶりになっていて、冷静に嘘なんてつけっこない。結局、男性と女性の「恋愛市場」におけるパワーのぶつかり合いによって、この綱引きはほぼ決せられると推定すべきだろうか。男女交際のこうしたやりとりは、まさにコミュニケーションの「剣」と「剣」がぶつかり合う、利害と立場を巡るやりとりである事を、私は痛感せざるを得ない。
 
 【追記】尤も、こんな「勝負」に勝つ必要が本当にあるのかどうかは、別途問われなければならないだろう。女性の尻に敷かれるのも悪くはないし、女性に献身的に尽くしてこそ、単なる男女交際は恋愛へと昇華されるのかもしれないし。少なくとも、利害と立場を巡る綱引きを私は“恋愛”と呼称したくはない。もし、恋愛を尊び、女性を愛しているならば、敢えて綱引きに「負ける」のも良いと思うし、そういう勝負の降り方は、私の美学をいたく刺激する(俺はどうかって?俺はそこまで逝けてないです)。むしろ、殺伐とした現代男女交際において、自らを犠牲にしてでも女性に愛を捧げる恋愛闘士の存在は、際だった輝きを放つんじゃないか?女性はろくでもないことを男性に押しつける生物かもしれないけれど、それに耳を傾けずに亭主関白に徹する男性もまた、ろくでもないんじゃないかと思う。