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シロクマの屑籠

はてなダイアリーから引っ越してきた、はてな村の精神科医のブログです。

医師免許は取っておきましょう。そして今度こそ自分の進路を選ぶのです。

 
 もうよくわからない。。。
 
 読みました。
 
 私も消去法的に医学部に入ったので、しんどい思いをしてまで医学部を卒業する意味はあるのか? と思っていました。
 
 でも、医学部を卒業して間もなく判明したのは、「医師免許というライセンスはとても強力」「医師免許を取ってから医師とは違った生き方をしている人は意外と多い」ということでした。
 
 私が見知っている範囲でも、医師免許を持っているけれども違った領域で活躍している人は結構います。
 
 医師免許を取ってベンチャーを立ち上げた人。農業に励んでいる人。あなたの第一志望に相当する、技術者として活躍している人もいます。
 
 そして私のように、医療を本業としつつも、道楽で隣接領域を追いかけている人はもっといます。本業か否かを抜きにすれば、好きなように人生を耕している人は沢山いるものですよ。
 
 医療という枠組みで括ってさえ、放射線科や医療情報領域のように、エンジニアリングに近いことをやったり研究したりしている人がいます。一般的なイメージどおりの「臨床医」にならなくても、やりようはいくらでもあるし、それぐらい医療という名の大樹は懐が深いです。
 
 医学部での修練は生易しくありません。必ずどこかで躓き、今までの勉強法が通用しないと感じるでしょう。でも、そうした修練は勉強法に進歩を促すはずですし、他領域でモノを考えたり学んだりするための武器にもなります。あなたも現役で医学部に入るぐらいには勉強の素養があるわけですから、適切な要領を身に付ければ、医学部在学中にエンジニアリング方面のスキルや経験を溜める機会も得られるかもしれません。私にとってのオタク文化と同じぐらい、あなたがエンジニアリングに興味をお持ちなら、それは不可能ではないでしょう。医師免許を取ってから他職業に就く人は、大抵、そのような手習いを(興味に導かれて)やっているものです。
 
 それと、医師免許を持っているということは、「いざとなったら医師になれる」というカードを持てるということです。これは、人生の冒険をするうえでなかなか便利なカードですよ。そして医学部に入った人間しかゲットできないカードでもあります。エンジニアだろうがベンチャーだろうがメディア活動だろうが、何に着手するとしても、いざとなったら医療に立ち返ることができる・医療を研修できるのは心強いことです。
 
 あなたの年齢では、「いざとなったら医師になれる」というカードが渡世のうえでどれぐらい便利か、いまいちピンと来ないかもしれません。正直、私も十代の頃はさっぱりわかりませんでした。でも、レジデントを終えるか終えないかぐらいの頃から、このカードがそこらの資格とは全く異なるということ・真正面から臨床医になる以外にも色んな生かし方があり、ともすれば名刺代わりにもなることを肌で感じるようになりました。そのうえ、このカードを握りながら他領域で大胆に活動している人達の姿を知ったのです。
 
 「いざとなったら医師になれる」人は、他領域でも大胆な冒険ができます。なにせ、いざとなったら資格どおりに働けば糊の口は凌げるわけですから。医師免許って、ライセンスであると同時に“ケツ持ち”なんですよね。後顧の憂い無く他領域に挑戦できるし、医学部をサバイブして得られたノウハウは医学以外でも役立つし。
 
 このあたりの便利さ加減・チートさ加減は、あなたの年齢では頭では理解できても身体で体感できるものではないので、たぶん、この文章をあなたが読んでも「タイムマシンで未来から来たと称するおじさんが、半信半疑なことを言っている」としか響かないかもしれません。それが自然でしょう。でも、信じていただきたいのですが、このライセンスを手に入れてから「自分探し」をやってもおつりが来ます。このあたり、あなたの年齢からは絶対に見通せないのに対し、ご両親には何かしら察知されているのでしょう。
 
 しかし、ご両親との関係とあなたのアイデンティティの兼ね合いを考えると、たぶん、このままではいかないでしょう。あなたが愚直に「臨床医」をイメージしながら勉強し続けるのも、今は難しいはずです*1。いずれ、あなたの願望とご家族の期待との擦り合わせが必要になってくるでしょう。
 
 少しずつですが、「医師免許は必ず取るけれども、典型的な臨床医にはならないかもしれない」的な話を匂わせたり、「医師免許を取ってからは俺は俺の道をゆく」みたいな話を、今のうちから匂わせていく等はいかがでしょうか。そして心のなかで、あるいは趣味の時間に、あなたが狙っているエンジニア方面の可能性をひそかに模索するのです。あなたに意志と素養と要領の良さがあれば、在学中にも試行できることは沢山あるはず。
 
 ご両親は、あなたの卒業間近(または、今すぐ)に、あなたがエンジニアリングの道に進みたいと言っても、きっと当惑し拒絶するだけでしょう。意のままにならないことを受け容れるには、ご両親にも時間や準備が必要です。まあ、結局は揉めるかもしれませんが、いずれ揉めるにせよ、下準備といいますか、ご両親が少しでも受け容れやすいように少しずつフラグを立てるというか、態度表明を匂わせながら進級していくと良い感じかもしれません。
 
 あなたは、

 別に再受験を許してもらえなかった親に文句があるわけではありません。まず進学の段階で自分の意思をはっきり通せなかった過去の自分や、ずるずると今の大学に居残ってしまった今までの自分に後悔というか、悔しいというか、兎に角自分自身が許せないのです。

 と書いているけれども、医学部に在籍しているあなたには、自分の意思を進路に反映させる機会がまだあります。医学部には流されて入ったのかもしれないけれども、ここから挽回する余地はあなたが思っているより広いです。次の進路選択で自分の意思を発揮できれば、あなたの後悔や自責は吹き飛ぶでしょう。この点において、悲観する必要はありません。
 
 

  • 医学部三年生の苦しみ

 
 しかし、本当は上記のような話ではないのかもしれませんね。
 
 医学部の三年生の1月は厳しい時期で、つい愚痴をネットに書いてしまったのではないでしょうか。
 
 この時期は、まだ医学の体系的な全貌がちっともみえていないため、とにかく暗記することが多いくせに、その暗記した知識同士が有機的に結びついていく感じが伴いません。私の場合、医学を学ぶモチベーションが最低だったのがこの時期で、ごり押しで勉強せざるを得ませんでした*2
 
 私も消極的に医学部に入った人間だったので、「なりたくもない医者になるために、どうしてこんな苦しい思いをしているんだろう?」と苦悩しました。「医者になりたい」動機の希薄な人間をふるい落とさんばかりの毎日で、正気度を維持するのが大変でした。
 
 [関連]:「暗記のカラクリ」に馴染むまで、基礎医学は悪夢だった - シロクマの屑籠
 
 その正気度を維持するための手段ですが、幸い、私は医学部の内側だけではなくゲーセン等で外側の付き合いがあったので「医学部ムラ社会」的な雰囲気もどうにかやり過ごしていました(もちろん少しずつ医学部の付き合いも増えていきましたが)。
 
 あなたにも、そういった医学部の外側の居場所が必要かもしれません。このあたりは、あなたがすごく田舎の単科大学に進学しているのか、それとも都市近郊の単科大学に進学しているのかで、難易度は違ってくるでしょう。必要なら、ご両親に中古車の一台ぐらいはせびっても罰は当たらない(そしてそれを使って人間関係や居場所の開拓にもつとめる)、と私は思いますけどね。
 
 望んでもいないのに医学部に進学した人間の三年生次は、単なる単位の問題だけでなく、正気度維持の問題も解決しなければなりません。そのあたりがうまくいかなくて留年する人もいます。が、ともかくも正気のうちに基礎医学を突破しなければならないので、なんらか、あなたの正気度を維持するための方法を模索してください。逆に言うと、ここで単位取得と正気度の維持に成功さえすれば、あとはどうにかなります。なんとしてでも生き残り、次の進路選択で最高の清算をして欲しいと願います。
 

*1:案外、これからそうなるとも限りませんけどね

*2:しかし、この時期のごり押し勉強に比べれば、臨床医学のモチベーションの得やすさと見通しのつきやすさは楽勝でしたよ。学問としての面白さが伴うようになるんですから。