シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

「相手がどんなゲームをプレイしているか」

 
 
こんな文章は20代の人がnoteにまとめて胸を張るべきもので、私が書いてどうすんの? な感じだけど、有料記事パートの枕としてまとめておきたくなったので簡単に書く。
 
 
世の中には、自分と同じ場所に集まり、同じことをやっているようにみえる人がたくさんいる。でも、その人がやっていることの意味、やらざるを得ない理由や背景は自分と同じとは限らない。この「やっている意味ややらざるを得ない理由や背景は自分と同じとは限らない」が把握できているかできていないかは、ときにコミュニケーションの成否をひっくり返したり、会議などの帰趨を左右したりすることがある。
 
たとえばある職場、ある職種において、あと1年で退職が決まっている人と、最近家を建ててローンを支払い始めたばかりの人と、仕事はひととおりできているが身を固めるようなことは未だしていない人では、同じ仕事をしていても、その仕事のバックグラウンドにある動因はかなり違っている=違うゲームをやっていると考えたほうが理解がはかどる。この場合、退職が決まっている人がやっているゲームは、退職金が貰えるまで無事に勤めあげることで、ローンを支払いはいじめたばかりの人もある程度はそれに近い。ローンを支払い始める前に比べれば、彼のゲームは堅実志向なものに傾いていると推測できる。そして仕事能力は十分だけど身を固めていない若い人は、転職も視野に入れながらもっと強力に上昇志向なワークスタイルを採用している可能性がある。
 
もちろんこれは一例だ。なかには退職まぎわでもスレスレギリギリの仕事を気合い入れてやっている人だっているだろうし、仕事をひととおり覚えた若手が若いのにディフェンシブなワークスタイルを望んでいることだってあるだろう。それらも、同じ仕事をとおしてそれぞれが異なるゲームをやっていることに他ならない。仕事をチェスに比喩するべきか、麻雀に比喩すべきか、ストリートファイター6に比喩すべきかも実際にはさまざまだが、表向き、同じ仕事・同じ営みをやっているようにみえる人でも、このように、背負っていることや動機が異なっていれば実質的には異なるゲームをプレイしている。
 
なぜ、ここでいう「異なるゲームをプレイしている」様子に注目すべきなのか?
それは、相手と協力するにせよ、競り合うにせよ、そのとき相手がどんなゲームをやっているのかを知っていたほうが、そのためのコミュニケーションを円滑に実施できるからだ。
たとえば退職を意識し無事に勤め上げたがっていると判明している相手と何か交渉をするとしたら、相手がそういうゲームのプレイヤーであることを意識してコミュニケーションしたほうが円滑にことが運ぶだろう。恫喝するにせよ、協力を依頼するにせよ、相手がどういうゲームをやっているのか、つまり相手がどう仕事と関わっているのかのメタ情報を知っておけば、スムーズな協力、あるいは効果的なハックや離反策をとることもできる。
 
同じく、相手が上昇志向のオフェンシブなゲームをやっているとか、相手が安定志向のディフェンシブなゲームをやっているとか察知しておけば、相手に協力を依頼する際、または相手を牽制しなければならない際にはその情報が使える。オフェンシブなゲームとして仕事をやっている人間の協力を得やすいこと、同じくディフェンシブなゲームとして仕事をやっている人間の協力を得やすいことは、ある。逆もまた然りだ。
 
ここではわかりやすい要素を挙げたに留めたが、実際には、自分自身と自分以外が仕事をとおして、または趣味をとおしてやっているゲームはもっと色々な要素群から成っていて、その取り合わせのバリエーションにはきりがない。保守政党のことを良く思っているのかいないのか、古い家族制度に賛成か反対か、どの上司と仲が良くてときたまゴルフ等に出かけているか、等々もゲームの構成要素とみておいたほうがいい。そうしたことの総合として、仕事をとおして何を達成することに重点が置かれているのか、仕事をとおして何かを達成する際に準備できるリソース事情はどのようなものか、は、同じ場所で同じ仕事をしている者同士でもまちまちである。そうしたことを知っているのと知らないのでは、協力するにせよ競争するにせよ与しやすさはまったく違う。
 
相手がプレイしているゲームはどういうゲームなのか、を知っていれば、それは相手が次にどういう行動をとりがちなのかを予測しやすく、相手がどういう誘因によって誘われるのかを利用しやすくなる。相手が喜ぶことと相手が嫌がることを把握することにもつながるので、(必要なら、だが)好かれたいと思った時も距離を取りたいと思った時も役に立つ。
 
だから相手のゲームを理解すること、類推することはとても重要で、社会適応の帰趨を左右する。他人の行動傾向を予測するメタ情報の把握の仕方や記述の仕方にはいろいろな方法があろうが、相手がどんなゲームをプレイしているのか、というテンプレートはけっこう使いやすく、想像もしやすいのでおすすめだ。そういう目でひとつひとつのSNSアカウントやはてなブックマーカーを眺めてみるのも面白い。「この人は、どんなゲームをプレイしているのか」を考えてみると、相手のことをいかに自分がよくわかっていないのか、伏せられた札が多いのかを思い出し、自省するにも役に立つ。
 
相手がどんなゲームをプレイしているのかを知ることも大事だけど、知ろうとすること、いかに自分が知らずに済ませているのかを知ることも同じく大事だ。この着想の有無や濃淡は、コミュニケーションや人間関係の帰趨に必ず影響を及ぼすだろう。
 
 
※以下の有料パートが書きたくてこれを書いたのですが、でも無料パートで言いたいことはだいたい言えた気もするので、よしとします。

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