シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

「暗記のカラクリ」に馴染むまで、基礎医学は悪夢だった

 
 なんとなく医学部に入った人は多いんだろうな
 
 私もなんとなく医学部に入った後、基礎医学に散々苦しめられたクチなので、何度も頷きながら読んだ。
 
 リンク先の筆者は、数学のテストで公式を自作しながら解いたという。私はそこまで器用じゃなかったけれど、「できるだけ暗記を避け、理解と応用で問題を解いていく」タイプではあった。そうすれば勉強時間は最小で済むし、問題を解くのがいちいち面白いからだ。英語も、高1で身に付けた基礎をベースに暗記負荷を最小化してやり過ごしていた。
 
 でも、基礎医学にはそういう勉強法は通用しない。
 
 生理学も解剖学も、医学を修めるためのABCみたいなもので、これはもう、覚えるしかない。ところが、覚えなければならない語彙数がおかしい。信じられないほど覚えることがあって、しかも勉強している時点では暗記内容がどのような意味を持つのか、何の役に立つのか、まったく見えない。だから、難しい語彙を、意味もよくわからないままひたすら暗記する羽目になる*1
 
 高校受験以来、「暗記を最小化する勉強法」に頼っていた私は、これにやられた。暗記を逃げてまわっていては、人体の細々とした名称はいつまでも覚えられない。指導教官が実施した小テストを受けてみたら、結果は壊滅的だった。
 
 「このままだと留年する!」と思った。自分の勉強方法に問題があるのか、自分の力では医学部に歯が立たないのか、その両方か。勉強のフォーマットを変え、暗記重視に切り替えなければならない――できなければ、何回でも留年するだろう。嫌いなピーマンをドカ食いする子どものごとく、私は丸暗記に挑戦した。
 

なんつーか、「暗記は繰り返さないとできないよ」という単純な話ができなかったんだけど。もう本当に、勉強なんてしたことないし暗記なんてしたことないのにやったから死ぬほどきつかった。カイジで『ボーっとするな、ここ30分だけ真剣になれば向こう5年は何にもせずボーっとしていいから!』って命かかった場面で言ってたけど。まさにあれ。

http://anond.hatelabo.jp/20140714193005

 
 基礎医学の丸暗記は、だいたいこんなノリだったと思う。『ここ30分だけ真剣になれば』ではなく『ここ3ヶ月だけ真剣になれば』の繰り返しだったが。いままで暗記をナメきっていたせいか、遅々として捗らず、死ぬほどきつかった。生理学や解剖学をどうにかパスした後も悪夢は続いた。病理学や薬理学も“丸暗記しない奴は門前払い”だったからだ。
 

 そんなわけで、5,6年はひたすら楽に過ごした。申し訳ないがそのくらい自分にはキツカッタ。暗記が本当に無理だった。 就職とか、将来とか、医者としてのメンタルとか全部無くしてボーっとしていた。国試はひたすら何も考えずに過去問と対応する教科書のページを回し続けた、勉強法がわかっていたのか、はたまた8割は受かる試験なのでたまたま受かったのか。なんとなく受かった。

http://anond.hatelabo.jp/20140714193005

 
 「5、6年は楽に過ごした」という体感、「ボーッとしていた」もわかる。
 
 ただ、この頃の私を思い出すと、暗記が無理だったというより、暗記を前提とした勉強法がやっと身について、そのお陰で楽に過ごせたんじゃないかと思う。文末に「暗記のカラクリがわかった」と書いてあるけれど、たぶんそれ。勉強手法が、根本的に変わっていた。
 
 それと、臨床医学まで進むと、基礎医学で学んだ知識を駆使するだけで問題の半分ぐらいは解けてしまう。なぜなら、生理学と解剖学と病理学を暗記していれば、どの病気に何が起こっているのか、どの病気に何が必要なのかはおおよそ見当がつくようになるからだ*2。暗記しなければならない事は依然多い。それでも教科書に書かれていることの半分ぐらいは「既知」になっているし、残りの半分も基礎医学とリンクしているので覚えやすい。「箸にも棒にもかからない暗記」は全体の四分の一程度に減っていた。
 
 リンク先の人は、「医者になってみると自分は医者に向いてるなと感じる。」と結んでいらっしゃった。そうだろうな、と思う。丸暗記の天王山は基礎医学の時期で、そこさえ越えてしまえば、理解や応用が利いてくるようになる。ただ、そうした理解や応用の前提となる暗記量がやたら大きいので、暗記をごまかして医学部に入ってきた人は、基礎医学の段階でのけぞってしまうのだろう。
 
 もし、基礎医学をはじめたばかりで苦しんでいる学生さんがこの文章を読んでいたら、私はこう言いたい。「諦めるな!無味乾燥な暗記を突破してしまえば、理解や応用の利く世界が待っている」と。それと「基礎医学の苦労は、臨床医学をラクに過ごすための貯蓄と思え」とも。
 
 個人的には、生理学と病理学はやりこみ重視だと思う。臨床医学に進んでからの暗記量をかなり減らしてくれるので。あとは、暗記仲間、勉強仲間ですか。
 
 なんだか宛先不明な文章になったけど、まあいいや。
 

*1:予め医学に志を持って入ってきた人なら、そうした暗記にもなにかしらの意味を見出せるのかもしれないし、医学を修める者としてのアイデンティティを強化してくれるのかもしれない。しかし、当時の私にとっては、生理学や解剖学の丸暗記は、意味のよくわからない“苦行”とみなされるものだった。

*2:もちろんこれは、実臨床に耐えるレベルの話ではなく、机上の問題を解くレベルの話。