シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

年を取って、不健康な食事でターボがかかるようになってしまった

 

 
「年を取るにつれて、自分の健康を気にかけるようになる」、とよく言われる。実際、20~30代の頃には健康だった人が、40~50代と年を取るにつれて高血圧や高コレステロール血症と診断されてにわかに健康リスクを気にしはじめるのはあるあるだし、「改心」してフィットネスジムに通って質素な食生活を心がける人も多い。
 
でも、この年になってきて逆に思うこともある。今、この瞬間だけ自分自身をブーストしたいと思った時、つい不健康な食事をとりたくなってしまいませんか? 不健康をおして血圧をあげたい・血糖値をあげたいと思う瞬間があったりしないだろうか。
 
私自身の身体の挙動を振り返る。
若かった頃よりも血糖値や血圧に「あそび」がなくなっているのか、血糖値をあげてしまいそうなものを食べると、パワーアップするように感じる。長時間のデスクワークにも弱くなり、夜まで続けていると頭が痛くなったり血圧が高くなったりしてしまう。アラフィフのこの身体は、自分自身のホメオスタシスを維持する力が若い頃に比べて劣っていて、血圧や血糖値が昔よりもグラグラしやすくなっている。だから中年になったら働き方も食生活も気を付けなければならないのだと、肌で感じられるようになった。
 
 

でも、ご飯がおいしくて困ってしまう。

 
ところが、いや、そういうホメオスタシスゆるゆる状態だからかだろう、最近、血糖値や血圧のあがる食事が「効く」気がしてしまうのだ。
 
塩分も糖質も控えめな健康的な食事でなく、ラーメンやチョコレートを食べると、自分の動きにブーストがかかる。モンスターエナジーやレッドブルのようなエナジードリンクもてきめんに効く。「パワーランチ」なんて言葉があるけれど、実際、パワーランチ的なものを食べると瞬間的に自分自身にターボがかかる。身体をターボ過給する食べ物として塩分過多・糖質過多な食べ物が効くようになってしまった気がしてならない。
 
それと関連してだろうか、若かった頃と比べて白米のご飯がおいしく感じられるようになった。
 
子ども時代、私は白米が苦手で、ふりかけがなければ食べられない子どもだった。それか、おかずを使ってなんとか白米を食べてしまうか。20~30代も基本は同じだった。白米はそれほど好きじゃなく、仕方なく食べるものだった。
 
それが今では、白米こそ食事の王様だと感じている。おかずに白米が寄り添っているのでなく、白米におかずが寄り添っている──ごはんが本当の意味で主食になった。その気になれば、少ないおかずで白米を腹いっぱい食べることだってできるだろう。
 
実際には白米を腹いっぱい食べることはない。腹八分目であるべきだし、糖質過多を避けるために白米を減らし、野菜などの割合を増やすのが望ましいから。白米なんて小さめの茶碗一杯ぐらい食べればそれでいいだろう。それで30代の頃からやってきたではないか。
 
だというのに、ここ数年、白米がどんどんおいしく感じられるようになったせいで、我慢する必要のなかった白米を、我慢して制限しなければならなくなった。せっかく白米が美味いと思えるようになったのに、好き放題に食べられないなんて!
 
塩気の多い食べ物、甘い食べ物などもそうだ。どれもおいしいし、それらはまさにパワーの源になる。虎屋のようかんは、私の身体にとってカーレースゲームに出てくる「ニトロ」も同然だ。
 

 
でも、自分の身体をターボ過給するということは血管や臓器に負荷をかけ、瞬間的な出力を稼いでいるということでもあるから、長期的な健康を考えるなら、やはり控えるべきだろう。
 
世の中には、健康的ではない食生活をしている中年や高齢者がいることを私は知っている。でも、その理由を私は知識不足のせいだと思っていたが、こうして白米がおいしくなり、ラーメンや甘味がターボ過給のように効くと感じてからは「ひょっとして中年や高齢者のなかには、このチャージの効果が欲しくて、やめられない人もいるんじゃないか」と思うようになった。知識や啓蒙の問題だけでなく、それらのおいしさに魅了されてやっている人もいるんじゃないか。
 
なかには、そうした不健康な食事をしてでも自分自身をターボ過給し働かなければならない人もいるかもしれない。年齢に比して激しい労働をこなすために、やむなくパワーランチで自分の身体をターボ過給し続けるのは、自分自身の血管や臓器に負担をかけながら働いているようなものだ。しかし、そのような労働、そのような現場が日本社会からなくなったようには見えない。
 
 

ジレンマに直面しながら、それでも生きていく

 
そうしたわけで、年を取っても不健康な食事を摂る人、摂らざるを得ない人は後を絶たない。以前よりもおいしくなった白米を我慢するのはジレンマもいいところだし、健康を気にしなければならない年齢になればなるほど食べ物がおいしくなり、塩分過多や糖質過多が「効く」ようになっていくとしたら、人間をつくった造物主は意地悪なものだな、と思わずにいられない。
 
いやいや、これはこれで造物主は人間をうまくつくったつもりなのかもしれない。七つの大罪のひとつである「暴食」を犯す者は、そのせいで健康を害してしまい、寿命も短くなる。「暴食」を司る悪魔はベブゼブブだったか。ベブゼブブにやられたくなければ、ちゃんと節制しなさいよというわけですね。でも、ここぞという時の不健康な食事には(この身体にとって)悪魔的な魅力がある。普段は節制しておいて、月に二、三度ぐらいは楽しめる状態を維持しておきたい。