シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

動画出演&『健康的で清潔で、道徳的な秩序ある社会の不自由さについて』再重版のおしらせ

 
おかげさまで、拙著『健康的で清潔で、道徳的な秩序ある社会の不自由さについて』がまたもや重版される運びとなりました。
 

 
出版されて既に2年半ぐらい経ちましたが、紙の書籍、電子書籍ともに現在も売れ続けていて、さまざまな方面の方からご関心いただいております。ちょうど今回、バラエティプロデューサーの角田陽一郎さんからYouTubeで対談のお声がけをいただきましたので、そちらのリンクもあわせてご紹介します。
 
AtoBtoC 知のエンタメトーク - YouTube
www.youtube.com
 
 
こちらの「AtoBtoC」という動画番組のなかで、合計三回にわたり、現代の心の病が増えていくのはなぜかとか、東京の人はすごく秩序だった行動ができているとか、さまざまな話題について意見交換させていただいています。改めて動画をチェックしてみると、はじめ私は緊張気味ですが、次第に私も喋り慣れていっているのは角田さんのトーク力のおかげと思います。それと司会進行や話の引き出しかたが、メチャ上手いですよね。ある程度通じ合う世界観をお持ちだからってのもあるでしょうけど、角田さんのこれ、すごい名人芸なんじゃないでしょうか。
 
メディア上で誰かと対談する際、こんな風に私もしゃべれたらいいなぁ……としみじみ感じ入りました。トーク内容は『健康的で清潔で、道徳的な秩序ある社会の不自由さ』に関連した話題がとても多く、その解説としてもまとまっているよう思います。そうしたわけで、拙著にご関心いただいた方にはとりわけおすすめです。
 
 

健康的で清潔で道徳的な秩序ある社会はどこへ行くのでしょう?

 
それにしても、人類、日本社会、どこに向かっているんでしょう?
 
2022年にはロシアがウクライナに侵攻し、20世紀を思い出させる戦争が現実に起こりました。この戦争が起こった背景には、今回の新型コロナウイルスによる混乱やロシアとその周辺のさまざまな国際情勢あってのことで、もちろん人間社会は戦争を忘れたわけではないでしょう。そして戦争せざるを得ない・したくなる事情を抱えた国はロシアだけとも思えません。
 
それでもピンカー『暴力の人類史』を思い出すにつけても、人類の行く先は混沌と暴力への回帰ではなく、秩序と平穏の加速でしょう。
 

 
戦争や殺人が減っていくだけでなく、私たちの職場や学校でも暴力は減っています。ハラスメントも少なくなり、オフィスで働く人々、サービス業に従事している人々の行儀の良さは高まる一方です。こうした傾向は拙著でも書いたとおり近代以前から進展してきたもので、多少の揺り戻しがあっても基本的には後戻りがきかないものです。
 
のみならず、ホモ・サピエンスの生物学的な性質も、どうやら『暴力の人類史』の路線と軌を一にしているっぽいんですよね。このあたりはまだまとまった形で紹介できる段階ではないのですが、そもそも、ホモ・サピエンスという種そのものが秩序志向的な種で混沌にはもう戻らない(戻れない)のではないか、という直感もあります。
 
だとしたら、私たちの社会がますます安全で快適になると同時に、その安全や快適にふさわしい規範を私たちが身に付けなければならない必要性も高まり、規範から逸脱しやすい個人には行きづらい社会、あるいは規範から逸脱しないよう何らかの治療や支援が必要になる社会は加速すると考えておいたほうがいいでしょう。
 
しかし今の私たちにとって本当に関心を持つべきは(そして私たち自身が言論や運動をとおしてコミットしていくべきは)、人類とその社会がそういう方向に向かっているかどうかではなく、いつ・どれぐらいの度合いでそういう方向に向かうのか、ですね。「株価はいずれ上がっていくだろう」ということより「株価がいつ上がるのか」が肝心であるのと同様、人類や社会が秩序に向かって加速していくかどうかより、直近の未来において秩序が加速する度合いが早すぎるのか、ちょうど良い速さなのか、遅すぎるのかが問われなければなりません。また、そうした度合いの遅速緩急に対して、私たちは政治や社会とのかかわりのなかで有権者であり、プレイヤーであり、被ー影響者でもあるんですよね。
 
人類全体、日本社会全体からみれば、秩序の成り立ちに私たちが関われる部分なんて砂の一滴に過ぎないし、時代の流れの前には、一掴みの砂なんて無いも同然と言えるでしょう。でも、時代の大きな流れを形成しているのが一粒一粒の砂としての個人であり、一掴みの砂としての私たちであるのも事実です。
 
秩序は加速し、生きやすくなった部分はもっと生きやすく、生きにくくなった部分はもっと生きにくくなるとして、私は、私たちはどう生きるのか? そういうことを考えてみたい人に、動画と拙著はおすすめです。