シロクマの屑籠

はてな村から引っ越してきた精神科医シロクマ(熊代亨)のブログです。

「私のワイン沼」について語ってみる

  
hikakujoho.com

 
  
 冒頭リンク先は「ワイン沼にこれからはまっていく人向けの記事」だ。
 ワインに興味があるけれどもスタート地点に戸惑っている人には役立つと思う。
 
 で、せっかくの機会なので、既にワインを愛好している人向けの文章、というより自分のワイン沼の現状をそっくり書いてみようと思う。
 
 ワイン沼の住人と言っても、沼の内実はだいぶ違う。 
 
 ボルドーの赤ワインが好きでひたすら貯め込んでいる人もいれば、カリフォルニア産のやたら値段の高いワインを攻めている人もいる。なかには、安ワイン道場の師範さんのように低価格帯のゾーンを攻め続けている人だっていないわけではない。
 
 好みもまちまちだ。軽くて繊細なワインを好む人もいれば、ずっしりとした、味や香りの強いワインを選ぶ人もいる。
 
 で、私も御多分にもれず、かなり偏ったワインの飲み方をしている。
 
 ここからの文章をワイン沼の住人が読んだら、「なるほど、あなたはこういうワイン沼住人なんですね」という理解があるだろう。しかし、そうでない人にはチンプンカンプンな内容かもしれない。まあでも個人ブログなので、構わず書いてしまおう。
 
 
 

ブルゴーニュ(赤)ワインが好きだ!

 
 私のワイン沼の総面積のうち、だいたい6割はブルゴーニュワインで占められている。
  
 

 
 
 ブルゴーニュワイン!
 
 ああ、どうしてこんなに素晴らしい飲み物が存在するのだろう。
 
 世間ではボルドーやカリフォルニアの陰に隠れ、あまり注目されないけれども、世界じゅうのワイン沼住人がブルゴーニュワインに大枚をはたいてきた。もちろん私も好きだ。もともと値段が高かったのに、ここ最近は中国の人々もブルゴーニュワインに注目するようになったせいか、値段が信じられないほど高くなった。
 
 それでも!
 買うことをやめない!
 
 口当たりが軽く、繊細で、ときに信じがたく濃密で、おかしくなりそうなほど香り高く、醸造の不思議を一身に集めたブルゴーニュの赤ワインは、どれだけ飲んでも飽きる気配がない。値上がりしてしまったから上物はなかなか飲めない。それだけに、体調の良い日に、五感すべてで賞味せずにはいられない。
 
ジョセフドルーアン ラフォーレ ブルゴーニュ ピノノワール
 この、一番ベーシックなお値段のブルゴーニュ赤ワインでさえ、さくらんぼのような香りと涼しげな飲み心地があって気持ち良い。さすがに上位クラスに比べると、複雑な香りや滋養は足りないけれども、酸味のある赤ワインが好きな私にとっては、こういう品で十分だ。
 
 
クロード・デュガ ブルゴーニュ ピノ・ノワール
 でもって、同じベーシックなクラスなのに、値段が約3倍の高いメーカーのやつを連れてくると、品質の差がたちまち明らかになるのがワインの世界。クロード・デュガは香りも口当たりもごついワインを作っているから、特に違いがわかる。自分の好みよりキツい作り手ではあるけれど、だからといって嫌いになるわけもなく、うめえうめえと飲んでしまう。
 
 
ダンジェルヴィーユ ヴォルネ カイユレ
 
 ブルゴーニュ南部はヴォルネ村の一級畑のワイン。味の濃さではほとんどの赤ワインに負ける。収穫年の作柄や熟成期間によって品質は気まぐれで、抜栓してみるまでわからない。はっきり言って、こいつはジャジャ馬だ。
 
 でも、とにかく繊細なつくりのおかげか、収穫年の作柄の特徴を、私みたいな素人でも感じやすい。抜栓するたび、希望が出るのか絶望が出るのかドキドキするけれどもやめられない。気まぐれなところすら魅力に思えてしまう。まるで悪い友達みたいだ。
 
 
ダンジェルヴィーユ ヴォルネ フレミエ
 
 でもって、(ヴォルネも含めた)ブルゴーニュのいいところは、「同じメーカーが作った、同格品の、ぶどう畑だけ違っている品」を買ってきて飲み比べしやすいところ。ぶどう畑が違うとワインにも違いがある様子を何度も確認すると、ものすごく自己満足が高まる。「フムフム、2002年のこの畑はこうで、あの畑はこうだ」などと訳知り顔に飲み比べるのが最高に楽しい。
 
 いざラベルを隠して当てっこをしてみると、もっと面白くなるが、そう簡単には当たらない。当たらないから面白いし、いざ当てられると有頂天になる。「芸能人格付けチェック」で、中級ワインと最高級ワインを飲み比べるやつがあるけれども、ああいうのは、他人のを見るより自分でやったほうが5倍ぐらい興奮します。
 
 
プス・ドール ヴォルネ カイユレ
 
 収穫年・ぶどう畑が同一の、違う作り手のワインを飲み比べてみるのも楽しい。作り手が違うと、同じ畑のワインでも作風がぜんぜん違ったりする。たとえば、このプス・ドールのワインと一個前のダンジェルヴィーユのワインは、同じ畑でもびっくりするほど違っている。
 
 ブルゴーニュ以外もそうだろうけど、ワインの味や香りの違いは【誰が作っているか(作り手)】【どこで作られたか(エリアや格やぶどう畑)】【いつ作られたか(収穫年)】によってだいたい左右される。とりわけ日本でワインを買う場合は【流通経路】によって品質が変わるかもしれないので、ワイン沼の人々は流通経路にも結構うるさい。
 
 だから、ワインを知ろうと思えば思うほど、この3+1の条件のうち、3つを揃えて比較検討をしてみたくなる。たとえば同一のインポーターが仕入れた、2009年につくられたブルゴーニュの赤ワインを複数の畑で飲み比べてみる、など。
 
 これがまた、とにかく面白い。比べて飲んでみると、すごく学びがある。
 
 「そんなことを学んで何になる」だって?
 
 もちろんなんにもならない。
 少なくともお金にはならないだろう。
 それでも、大地で実った奇跡に触れた気分にはなる。
 
 それと、こうやって飲み比べていくことで、好きなワインを選び取る力がついていく、ような気がする。自分の嗜好についても以前より詳しくなった。
 
 ブルゴーニュワインは、フランスのAOC法のおかげで【誰が作っているか】【どこで作られたか】【いつ作られたか】を確認しやすく、その良しあしのヒエラルキーを把握しやすい。少なくともイタリアワインや日本酒などに比べれば体系がしっかりしている。最初は覚えにくいし、最近は価格が暴騰してどうしようもなくなってしまったけれども、ここまで値上がりする前のブルゴーニュは本当に良いワイン沼だった。
 
 
 

ブルゴーニュワイン(白)もメチャクチャ好き

 
 ブルゴーニュの白ワインといえばシャルドネで、これまたひたすら素晴らしい。赤ワインは理知的に比較する余地があるというか、あるていど分析的に飲めるのだけど、シャルドネはどうも駄目だ。幸福感でどろどろになってしまう。
 
 快楽!
 驚嘆!
 畏怖!
 
 そういったものが押し寄せてきて、だんだん冷静でいられなくなる。
 
 とあるワインの専門家は、「シャルドネがはびこって世界の白ワインはだめになってしまった」的なことを言ったという。なるほど、そうかもしれない。ほかにも立派な白ワインの品種はあるけれど、シャルドネは、かなり広いレンジの美味しさや香しさや快楽を表現してしまう。
 
 
レ・ゼリティエール・デュ・コント・ラフォン マコン・ヴィラージュ
 
 ベーシックなブルゴーニュのシャルドネとして。気軽に飲むにはちょっと高いというか、もう少し安いシャルドネで妥協したいけれど、新世界のシャルドネとブルゴーニュのシャルドネはジャンルが違うというか、微妙に味覚体系が違うので、ブルゴーニュのシャルドネのベーシック品を時々飲まないとシャルドネの座標系がわからなくなってしまう。このワインあたりがシャルドネ座標系の基準点のひとつ。
 
 
エティエンヌ・ソゼ ブルゴーニュ ブラン
 
 フランスワイン、特にブルゴーニュワインの高騰は「高級品ほど値段が跳ね上がる」はずなんだけど、これは「ブルゴーニュ・ブラン」というジェネリック品のくせにすごく値上がりしてしまい、5000円以上になってしまった。昔はこれが2000円ちょっとで買えたので、シャルドネ座標系の基準点にしていたけれども、今ではすっかり高級品になってしまった。
 
 じゃあ、よその地域の5000円のシャルドネがこいつに対抗できるかというと……意外に難しい気もする。冒頭リンク先の記事ではオススメしなかったけれど、この、エティエンヌ・ソゼの「ブルゴーニュ・ブラン」を基準点としてひたすら飲み続けたら、シャルドネを味わう舌がかなり鍛えられると思う。
 
 2ダースぐらいは欲しい。いや、蛇口をひねったらジャーッとこのワインが出るようになって欲しい。そういうワイン。
 
 
ドメーヌ・ルフレーヴ バタール・モンラッシェ
 
 でもって、シャルドネも特級クラスになると値段があまりに高く、おいそれと口に運べない。それでも好きだ! 特級クラスのシャルドネの香りのインパクトと破壊力は、一度知ってしまったら忘れることができない。もちろん赤の特級も素晴らしいけれども、赤の特級には思考を加速し、私を理知的にさせる何かがある。対して白の特級は、私の思考を溶かし、味と香りの世界に溺れさせてしまう。
 
 一時期、「ブルゴーニュの高級シャルドネは頭がパッパラパーになってしまうからもう買わない」と決めていた時期もあるけれども、いつの間にか買ってしまう。身体が快楽を覚えてしまったからだろうか。
 
 幸か不幸か、値段が高くなってしまったので実際にはなかなか飲めない。だからこいつで人生を駄目にされるリスクはほとんど無い。こんなものが一本1000円で買えたら大変なことになってしまう。
 
 
 

人気なさそうだけど大好きなワインたち

 
シャトーラネッサン
 
 安いボルドーって、いいなと思う。
 
 高級なボルドーを長いこと熟成させると、とてつもない味と香りに化けるのは知っているが、うちはブルゴーニュだけで精一杯なので高級ボルドーに手がまわる気がしない。
 
 でも、安ボルドーには安ボルドーのいいところがある;それは、むやみに味や香りで煽ってこないこと。ブルゴーニュのワインたちは、赤も白も魅力がヤバいというか、グラスいっぱいに香りが立ち込めて人間をたぶらかすところがあるけれど、安ボルドーは味や香りに節度があるというか、しっとりして穏やかで、ミルキーだけど甘ったるくなくて、落ち着いた気持ちで飲める。香りや味の自己主張が強いワインばかり追求していると、ふと、こういう品が欲しくなる。
 
 
アルジオラス コスタモリーノ
 
 イタリアのサルディニア島はコスパの良いワインがごろごろしていて、なかでも、このアルジオラスの作るワインは「ただの安い田舎ワイン」ではなく、微妙に洗練された気配があって、お手頃品も高級品も全部いい。このコスタモリーノも、ただ「酸っぱくて石灰岩のフレーバーが強いサルディニア白ワイン」ではなく、愛嬌もあってよくできていると思う。
 
 イタリアワイン沼には、シャルドネやメルローといった有名な国際品種とは違った土着のぶどう品種がたくさんあって、それらを追いかけているだけで終わる気配がない。サルディニア島の土着品種だけを相手にしていても、たぶん飽きないだろう。
 
 
アッレグリーニ アマローネ デッラ・ヴァルポリチェッラ クラシコ
 
 イタリアは不況が続くためか、ごく一部のワインを除いてそれほど値上がりしていない。で、アマローネは苦みや渋みをものともしないワイン沼住人*1にとって別天地のような状態で、超高級フランスワインには対抗できないにせよ、へたな赤ワインを打ち負かす旨味と香りをぶちかましてくれる。アルコール度数のせいか、イタリアの人々の気質のせいか、「ワイン鑑賞のために緊張を強いる」ような難しさが無いのもいい。
 
 でもこれは秋~冬のワインなので、これからしばらくは飲まないだろう。それとアルコールが強すぎるのでこれを一日で飲み切ってしまうのはほとんど不可能だ。金曜の夕方にあけて日曜の夜に飲み終わると、週末がハッピーになる。
 
 
カンテ エクストロ
 
 このワインはキワモノ系で、なんと、「よく振ってからお飲みください」とボトルに書いてある。実際にボトルを振ってみると、酵母みたいな沈殿物がぶわーっと舞い上がって、たちまち不透明な飲み物になる。
 
 味も白ワインとしては異質で、ビックルみたいな風味があって、ザラザラした舌ざわりと苦みがずーっと残る。すごい精気を伴っていて、この点では数万円の格上ワインに匹敵するほど。正統な白ワインのヒエラルキーからは逸脱しているけれど、これはこれで面白く、生命力のある飲み物なのは間違いない。
 
 
カッパ チ シャルドネ カンテ
 
 で、上掲のエクストロの下位ランクにシャルドネもあるんだけど、こちらはこちらでヘンテコというか、ボトルのなかに蜃気楼が揺れているかのようで、発酵食品の王道を行くような雰囲気がある。よそのワイン沼の人たちがこのヘンテコなシャルドネを飲んだ時、どういった感想を持つのか興味ある。私はこういうのも好きです。
 
 
 

好きなワインを、好きなように。

 
 ここに挙げたワインは自分が好きで好きでしようがない、手に取りたくなる品ばかりだけど、すべてのワイン沼住人の贔屓たりえるとは思えないし、まして、ワインに慣れていない人々に勧められるものとも思えない。
 
 ただ、広大なワイン沼のなかで自分が出会い、馴染んだワインはこれらなので、もしワイン沼に住所があるとしたら、ここに挙げたワインたちが私のワイン沼のアドレスということになる。
 
 ワイン沼は広い。広いから、いろんな嗜好の人のいろんな楽しみ方を受け入れてくれる。これからも我が道を行こうと思う。
 
 

*1:それと、若干の甘味と濃厚なアルコール度数にも抵抗感がないワイン沼住人