いにしえの時代、「かわいいキャラクターのオンラインゲーム(MMO)」として愛好家を熱中させた『ラグナロクオンライン(通称RO)』。そのモバイル版続編ともいうべき『ラグナロクマスターズ』がサービス開始して10日ほど経った。
本作品が、いまどきのスマホゲーム市場のなかでセールス的にどれぐらいなのかは知らない。が、サーバ内の雰囲気はまさにRO時代を彷彿とさせる賑やかさがあって、雰囲気が出てきた。
今夜のラグナロクマスターズ、ワールドチャットで「イキった中学生のようで微妙におっさん臭い人物」「前作経験者の知識を説明する博士」「顔文字」「○○氏」といった具合に非常にラグナロクオンライン時代めいていて、サタデーナイトがフィーバー
— p_shirokuma(熊代亨) (@twit_shirokuma) June 15, 2019
サービス開始から二回目の週末にあたる昨日の土曜日は、ワールドチャット上でお喋りする人達の声が賑やかで、たいへん風情があった。インターネットは十余年の間に進化して、コンソールもモバイル化したのに、ラグナロクのプレイヤーは何も変わらなかったとでもいうのか。
とはいえさすが現代のMMORPG、可処分時間の少ない人でも「ラグナロクらしさ」を楽しめるよう、さまざまに工夫されている。10日ほど攻略してみて遊び方がだんだん判ってきたので、これから遊ぶ人向けに書いてみる。
ちゃんとMMOしている&ラノベっぽい
一週間前、私は「これは面白くないクエストをこなさなければならないゲームではないか」と書いたけれども、ゲームに慣れてくるうちに、そうでもないと思うようになった。
実際、ゲーム開始~序盤にかけてはクエストの占める割合が大きく、慣れてないうちは面倒な時期があった。
しかしゲームに慣れてくるにつれてクエストの占める割合は下がり、クエストの内容も『○○を300匹倒せ』とか『××を150個集めよ』といったものが増えてきて、俄然、ラグナロクオンラインっぽくなってくる。前作でマゾい経験稼ぎに情熱を燃やしてきたプレイヤーにとって、これらはクエストミッションというより、ちょっとした御褒美のようなものだろう。
そのうえ今作は自動戦闘*1がシステムに組み込まれているので、狩りの間は放置しておいて構わない*2。その間、仕事をしていたって勉強をしていたって構わないのである。
狩りで手に入れたアイテムは、もちろん売買の対象になるが、前作とは違って、今作では「取引場」という公式が運営している市場でアイテムが売買されている。
はじめのうち、私はこのシステムが好きになれなかった。プレイヤー同士が直接にする前作のほうが自由度が高かったし、街の露店に賑わいがあったからだ。
なにより、この「取引場」と引き換えにプレイヤー同士のアイテムトレードや譲渡ができなくなってしまった。このため、今作は「ベテランプレイヤーがビギナーを物質的に援助して促成栽培する*3」のが難しくなっている。
それでも相場は動いている!
「取引場」を介していても、相場はキチンと動いている。そしてこの画面のように、プレイヤーは執事システムを用いて相場の動きをある程度把握することができる。もちろん執事システムが教えてくれるのは相場の一部だけなので、欲しいアイテムの相場は自分で監視しておく必要がある。サービス開始から日が浅いためか、現在は値動きが激しい。それだけに、非常にエキサイティングな相場を楽しめる。
『ラグナロクマスターズ』のMMOっぽさに華を添えているのが、このクエスト依頼掲示板だ。掲示板に載っている簡単な討伐クエストや探検クエストをこなすと、経験値もお金もたくさん手に入る。この、掲示板でクエストを請け負うシステムは『ラグナロクオンライン』を元ネタにつくられたライトノベルからの逆輸入のようにみえるが、このライトファンタジー的な世界観にフィットしていて違和感が無い。
いわゆる本編筋のクエストも、かなり頑張っていることが判ってきた。
前作に比べてクエストの登場人物が覚えやすく、都市それぞれのクエストに関連性があって覚えやすい。流し読みをしているのに、登場人物もストーリーも意外に覚えていてびっくりした。演出面も含めて、クエストにはかなりリソースを割いているように思われる。
砂漠の街・モロクのクエストを終わらせた時点で、なんとエンディングまで流れた。
ラグナロクオンライン、ラグナロクマスターズの世界観にぴったりのエンディングだと思う。こうしたクエストが相当先まで用意されているようなので、ライトファンタジーっぽい世界観に抵抗の無い人ならクエストもかなり楽しめそうだ。少なくとも私は抵抗が無いので楽しんでいる。
MMORPGの、資本主義的な顔が見えてきた
こう書くと「ロールプレイングゲームのカジュアルプレイヤー向けの簡単なゲーム」のように読めるだろうし、実際、ある程度はそのとおりではある。
しかし10日ほど遊んでみると、「優秀な生産手段を持ったプレイヤーほど利益を得られる」というMMOらしさというか、資本主義的な顔つきがあらわになってきた。
たとえばペットシステム。
前作のペットは、もっぱらプレイヤーが見せびらかすための自己顕示アイテムだったが、今作のペットは戦闘を手伝ってくれるだけでなく、ペット専用のクエストやバイトを請け負ってくれる。このペット専用のクエストやバイトの稼ぎが良いので、今作のペットは、生産手段である。ペットをクエストやバイトに派遣していると、小さな派遣会社の社長になったような気持ちになってくる。
もちろんペットには性能差があって、稼ぎの良いペットは手に入れにくい。見た目がかわいく、性能にも優れ、レアリティも高いペットを手に入れるためのアイテムの値段は、早くも値上がりしている。
前作でも大人気だったデビルチを手に入れるための『闇の契約書』は250万ゼニー超、ソヒーを手に入れるための『純潔の小太刀』は120万ゼニー超で動いていて、ちょっと手がつけられない。
もちろんこれはペットだけではなく、優秀な武器・優秀な料理・優秀なキャラクターを持つことが、そのまま稼ぎに直結するわけだ。
いち早く優れた生産手段に――つまり希少性の高いペットや武器や料理に――アクセスできるか否かが問われている、という点では、ラグナロクマスターズはぬるいゲームとは言えないし、現実社会と同じく資本主義的だ。前作に比べて、今作は見栄えの良さと生産性の高さが一致している傾向が強いので、見栄えの良いキャラクターは、資本家階級や貴族階級とみてほぼ間違いない。そういう意味では、現実世界よりも世知辛い地平が拡がっている。
「疲労度システム」がもたらしたもの
前作の頃は、「廃人プレイ=24時間プレイし続けてカネを稼ぐ」ことで資本主義的なルールをひっくり返す余地があった。言うまでもなく「廃人プレイ」は身体に良くないし、今日ではゲーム依存・ゲーム障害と関連して批判されるものだろう。
そのあたりを見越してか、ラグナロクマスターズには「疲労度」というシステムがあって、プレイヤーは一日300分しか狩りができなくなっている。それだけではない。前述のペット専門のクエストを1回オーダーするたびに60分が差し引かれるため、ペット専門のクエストを頻繁に出していると、プレイヤーの残り時間は無くなってしまう。
※蓄音機の前にキャラクターを置いておくと、一日60分ぶんだけ疲労度を回復させることができる。
しかし逆に考えるなら、長時間ゲームに張り付いていられないプレイヤーでも、ペット専門のクエストや掲示板のクエストをこなしていれば、暇人に対抗できる、ということでもある。
自動戦闘システム・ペット専門のクエスト・疲労度システムなどのおかげで、ラグナロクマスターズというゲームは、プレイ時間の長短がそこまで決定的ではなくなった。そのかわり、「一日300分という制約のなかで何を選択するのかがプレイヤーに峻厳に問われるようになった」、とも言える。
一応、課金アイテムを用いれば、一日の残り時間を(重いペナルティ付きとはいえ)狩りにまわすこともできる。ただしその場合でさえ、プレイヤーが為すべきことは労働者の手作業ではない。ペットの派遣も含めて、プレイヤーに問われているのはホワイトカラー的な判断であって、労働者的な手作業ではない。
ラグナロクマスターズは、前作以上に「労働者がどれだけ手作業を積み重ねても、優れた資本力と判断力を持ったホワイトカラーには太刀打ちできないゲームシステム」だ。労働者としての体力や根性よりも、資本家やマネージャーとしての情報収集力や判断力が問われるようになっている。
現在の情報源は「5ちゃんねる」か「海外」
このように現代MMORPG然としたラグナロクマスターズにもかかわらず、現時点では国内のゲームサイトはほとんど役に立たない。
しかし、現時点では国内のラグナロクマスターズのサイト群は料理レシピ以外ほとんど役に立たなくて、いちばん役に立つ国内の情報源が5chってのは2019年の景色として記銘しておこうと思う。これがwiki文化が廃れた後の景色か!
— p_shirokuma(熊代亨) (@twit_shirokuma) 2019年6月15日
昨今はゲーム攻略サイトの企業が栄華を誇っているが、それらの企業系サイトの情報で役に立ったのは料理のレシピぐらいのものである(しかも、材料の名前が間違っていることもあった)。前作でいう『RAG.D Project』みたいな総合サイトは今のところ存在しない。
一覧性があって、ある程度役に立つ国内サイトといえば、現段階では『ラグマス情報まとめサイト』ぐらいだろうか。ただし、ここも海外版に基づいているため、国内版に準じた読み替えは必要だ。
一覧性では劣るけれども、5ちゃんねる(旧2ちゃんねる)のスマホゲーム板のスレッドはたいへん役に立った。アイテムの入手方法も、攻略情報も、相場のヒントも、ここが一番まともで何度もお世話になった。有志によるwikiは企業系サイトによって滅んだが、匿名掲示板は滅んでいない。
海外からの情報もかなり役立つ。モンスターが落とすアイテムや各職業のビルドは、英語圏のサイトが参考になった。ペットに入手方法については、外国人の動画に助けられたことさえあった。検索ワードを工夫すれば色んなところに引っかかる。
総じて、現段階では『ラグナロクマスターズ wikl』とgoogle検索しただけではあまり情報は得られない。プレイヤーの情報収集力が試されている、と言えよう。
そういった意味でも、現段階のラグナロクマスターズにはMMORPG然とした手触りがあって、眠っていた魂が奮い起こされるようだ。かわいらしいMMORPGが好きな人、とりわけ前作の雰囲気が気に入っていた人で、手作業を省略したい人なら、きっと楽しめるんじゃないかと思う。