シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

ロフトプラスワン新宿『本当は働きたくない。』オフ会報告

 

発達障害の僕が「食える人」に変わった すごい仕事術

発達障害の僕が「食える人」に変わった すごい仕事術

 
 
 今回、借金玉さんの新著発売に関連してロフトプラスワン新宿でひらかれたトークショー『本当は働きたくない。』に参加させていただきました。私はオフ会感覚で参加し、ご来客の皆さんと登壇者サイドがコンテキストをかなり共有できたと感じたので、「やっぱりこれはオフ会だ!」という印象を深め、旧時代の作法にのっとってオフ会レポートを書いてみました。
 
 

会場の雰囲気、お客さんの様子

 




 
 当たり前っちゃ当たり前ですが、医療系の討論の場とロフトプラスワンでは空気も違うし、ご来客の皆さんのコンテキストも違っているわけで、非常に揮発臭の高い物語りができたように思います。でもって、会場の空気、ご来客の皆さんの追随性が高いというか、ともすれば社会を脱線しがちな壇上に皆さんがついていっている感が興味深くもあり、頼もしくもありました。
 
場所感の喪失〈上〉電子メディアが社会的行動に及ぼす影響

場所感の喪失〈上〉電子メディアが社会的行動に及ぼす影響

  • 作者: ジョシュアメイロウィッツ,Joshua Meyrowitz,安川一,上谷香陽,高山啓子
  • 出版社/メーカー: 新曜社
  • 発売日: 2003/09/01
  • メディア: 単行本
  • 購入: 1人 クリック: 6回
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 「場」が変わると物語りが変わる――これは、メイロウィッツ先生の『場所感の消失』にモロ該当する話であり、空間と人間が織りなす変化の最たるものでしょう。学会などで語られる正統な議論とはまた別に、アンダーグラウンドに近い場でしか語られない言葉、表現があるってのは改めて感じました。どちらが良い/悪い ではなく、表立った議論とはまた別に、伏流水として交わされる言葉があり、そういったものも社会の一部であることをまじまじと体験できました。
 
 精神科医ブロガーとしての私は、そのアンダーグラウンドに近い立ち位置に存在していると思うので、こういう集まりに対して積極的でありたい、そして語られた言葉を憶えておきたいものです。
 
 

壇上は「ワルプルギスの夜」

 
 主催の借金玉さんをはじめ、皆さん一癖二癖もある感じで、こういう社会適応もあるのかぁ……としみじみと感じ入りました。これは、ご来客の皆さんに関してもある程度言えることで、『本当は働きたくない。』という名の魔女の集会に参加しつつも、それぞれ社会適応をやっておられることでしょう。でも、社会適応ってそういうものだし、これも多様性ってやつではないでしょうか。
 
借金玉さんは本日の主役でありながら、司会進行を巧みにやってらっしゃったと思う。ADHD傾向等があって治療歴もあるとうかがってはいるけれども、それを補うバイタリティとノウハウ積み重ねを思わせる語りっぷりだった。新著『発達障害の僕が「食える人」に変わった すごい仕事術』は、まさにその借金玉さんのノウハウや視点が詰まった一冊で、著者と書籍が見事に合致していると思う。おすすめ。↓
 

発達障害の僕が「食える人」に変わった すごい仕事術

発達障害の僕が「食える人」に変わった すごい仕事術

 
えらいてんちょうさんは、想定していたより若い方だった。いわゆる「借金玉界隈」のなかでは落ち着いた振る舞いの方だと前々から思っていたし、事実、しっかりしておられて、幾つか抜け落ちている部分があったとしてもこれはこれでひとつの(カードゲームで言えば)「できあがったデッキ」だと思った。不可思議なマネジメント能力をお持ちになっていて、それで人がついてくる感がある。
 
ほわせぷさんは、数年前からtwitterの一部界隈で勇名を馳せていたけれども*1、はてして、実物は想定以上のトリックスターだった。自分はインターネット上で色々なトリックスター的な人物に遭遇してきたつもりだけれども、ここまで飄々と社会をコケにしつつ、社会への乗り降り自在っぽい人材はたぶん初めて見た。リアル『這い寄る混沌』、会場を大いに沸かせておられた。
 
・実在するphaさんと言葉を交えることができて嬉しかった! 低体温な語りをこなしながら、テーブル上の飲み物の上げ下げをきちんとこなすあたりは「phaさんはphaさんなりに社会適応度を上げているぞ、これは」と思った。元来の性質のいかんに関わらず、人は年を取り、経験によって伸びていく、そんなことを思ったりもした。ただし、それに加えて、やはりこの人には不思議な「徳」があるようにも思った。えらいてんちょうさんに感じるものとはまた別の素養、いや、素養というより、今回は「徳」という言葉が想起されてならなぁった。
 
小林銅蟲先生、壇上では大変腰の据わった振る舞いをしておられた。「発達障害」という文脈で悩んだ経験は無く「性格」だとおっしゃっていたのは、いまどきの発達障害ブームのなかでは忘れてはいけない視点だし、少なくとも銅蟲先生に関してはなんら問題あるまい。しかし発達か性格かはさておき、この方も不思議な星回りのもとに今ここに立っていて、その星回りを支えるアートは、そうそう再現できるものではあるまい、とも思った。
 
まくるめさん、ASD的文脈で御自身を語っておられて、壇上ではそれが違和感なく受け入れられた。ちなみにままあることだけれど、twitter上では華やかでソフトな話者だったためか、もう少し借金玉さんに近いプロフィールかなと感じていたけれども、ちょっとあてがはずれて、私もクンフーが足りないなあと思った。「物語」について非常に考えていらっしゃるので、そのあたり、またお話をうかがいたい。
 
ノースライム先生(北先生)は、インターネットをとおして群れになった懲戒請求者に直面したという点では、今日のインターネットの最前線におられる、と考え直した。で、語らいの調子と仕事術をうかがうに、インターネット的人材に染まっていく可能性大だろう。いや違うか、そのインターネット親和性こそが今日のノースライム先生の有り様を生み出しているわけか。
 
はブロガー精神科医という意識で登壇したけれども、登壇者各位の放つ混沌に圧倒されて、気が付いたら「おまえらもちつけ」「どちらかといえば俺は秩序の側」的な立場になっていてびっくりした。本当はもっとカオスなノリでお喋りをばらまくつもりだったのに。しかし、年齢や職業を考えればそれで良かったのだろう。このトークショーだからこそ語られる物語りをあまり邪魔していなかったとしたら、なによりだと思う。尤も、私のいかんに関わらず、今回の登壇者の皆さんなら我が道を進んだに違いないけれども。
 
・こういった面子が集まって会場の雰囲気と共犯関係を作ったものだから、本当にワルプルギスの夜と喩えたくなるような、異様な熱気に包まれた三時間半だった。この集まりは決して再現できるものではなく、今、この場所に、この面子が集まって、この会場とご来客の皆さんの共犯関係があったからこそ完成した一回性の魔術であり、これぞライブトークの魅力であるなぁと思った。
 
・私自身も含めて、登壇者は全員、全く違ったスタイルで社会に適応していて、独特の社会的ニッチをつくりあげて今を生きているのだと思う。独特の社会的ニッチを作り上げた面々だからこそ、それぞれに社会適応の一家言を持ち得ていて、だから社会の話や適応の話については全員無尽蔵に話ができるという感じ。
 
・登壇者各位の生き方は、必ずしも再現可能なものではないかもしれない。それでも、登壇者の語る魔術のような語りの破片を持ち帰って、それぞれのご来客の皆さんの、一度きりの人生という名の魔術(個々人の人生は一回きりの再現できないものという点では、技術よりも魔術に近い)に持ち帰れるものがあったとしたら、幸甚のきわみだと思う。そこまで願うのは、欲張りすぎかもしれないけれども。
 
・「30歳になってからのメンヘラアイデンティティの困難」「ナラティブ(物語)としての診断名とサイエンスとしての診断名」みたいな話題は、それ単体でトークショーのテーマになるぐらい大きな話だったけれども、今回はサラッと流れていったので、おいおい、オンラインかオフラインで語り直していきたいなと思った。これに限らず、まあその、話題の宝庫というか、また会ってお話したい皆さんでしたね。
 
 
 

客席から投げ込まれたハンドアックス

 
 今回、はてな界隈でネットウォッチャーとして勇名を馳せているhagexさんにお目にかかれた!一挙一動をウォッチされちゃう!とか思っていたけれども大変ジェントルな方で、(いや、やっぱりウォッチはされていたに違いない)、トークライブについての知見をいろいろ教えていただいた。今回のトークショーの前半パートについて「借金玉さんが司会進行に忙しくて、巧みにこなしてはいらっしゃるけれども御自身の話題に触れる暇が無い」と指摘されていたのは、なるほどそのとおりと思った。借金玉さんが主役のトークライブなのに、私も含めてほかの登壇者の語りが多い感じでスタートしていた印象は、確かにあったと思う。このあたり、hagexさん自身もトークライブをされているだけあって、研究なさっている感があった。
  
 ご来客されていたafcp先生が最後に「お父さんお母さんについて一言!」と質問されていて、会場がドッと沸いたのは素晴らしいフィナーレだった。
 


 
 今回の登壇者は、私も含めて親や実家について言及していなかった――この場合、言及していなかったということ自体がひとつの兆候であることをワンフレーズで射貫いた感じがあった。「よっ!精神科医!」と讃えずにはいられない。 でもって、この一言で会場がドッと沸いたこともひとつの兆候だと思う。ご来客のかたがたのなかにも、この「お父さんお母さんについて一言!」が五臓六腑に染み渡った方が多かったからこそ、ドッと沸いたのかなぁと思った。
 
 ご両人をはじめ、ご来客の皆さんと雰囲気を共有したことでできあがった物語りだったわけで、改めて、ご来客各位に御礼申し上げます。めっちゃ楽しかったです。一参加者がインターネットに書けそうな所感としては、こんな感じでご査収ください。
 

[togetterはこちら]:5/27 借金玉本発刊記念 #働きたくないトークショー - Togetter
[他の方のオフレポ]:借金玉 デビュー作出版記念トークライブ #働きたくないトークショー 行ってきた - にょろり
 
 
 

うちの編集さんもいらっしゃっていたので、自著の紹介も

 

「若者」をやめて、「大人」を始める 「成熟困難時代」をどう生きるか?

「若者」をやめて、「大人」を始める 「成熟困難時代」をどう生きるか?

 「30歳から先のアイデンティティの問題」にモロ関連した一冊かと思います。こちらもご興味があるようでしたら、是非に。
 
 
 

 

*1:詳しいことはググってください