シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

おのぼりさん、タワーマンション、自然災害

 
 まず、下記リンク先の文章を読んでいただきたい。
 

武蔵小杉の浸水被害は叩いてもいいという風潮 - レールを外れてもまだ生きる - コロポンのブログ
 
武蔵小杉は私たちのような共働きおのぼりさん夫婦を受け入れてくれる場所だったということもあり、このエリアに住み始めてもう5年ほど経過。そうこうしてる子どもも生まれて、街に愛着も持つようになりました。

 
 この文章を読み、私はずっと前からモヤモヤしていたタワーマンションに対する気持ちが整理できたので、言葉にしてみたいと思う。
 
 
 

「地方でいう、山を切り拓いて作ったニュータウン」の首都圏版

 
 

 
 タワーマンション。
 
 不動産屋さんのtwitterアカウントがやたらと持ち上げていることも含めて、近寄りがたいなぁとは思っていた。ちょっと昔、耐震偽装問題が世を騒がせたことも記憶に新しい。
 
 それと、タワーマンションの立っている土地は、なんだか水害に弱そうな気がしていた。
 
 武蔵小杉には行ったことがないけれども、湾岸部のタワーマンションは何度も訪れたことがあり、水難を連想させる場所に建っていると感じていた。googleマップで見るより、現地を歩いてみた時にそう感じた。今まで住宅地ではなかった場所を住宅地にし、そこに屹立しているのがタワーマンションだ。
 
 でもって、地方の国道沿いに住んでいる私は、これに近いコンセプトの住宅地を知っている。
 
 それは郊外のニュータウンだ。
 
 最近はそれほどでもなくなったが、団塊世代がマイホームを買い求めた1980~90年代にかけ、地方の郊外には大量のニュータウンが造成された。「今まで住宅地ではなかった場所を住宅地にした」という点ではタワーマンションと出自はよく似ている。
 
 山を切り拓き、湿地をならしてつくられたニュータウンのなかには、できて間もない頃から自然災害に曝されるものもあった。もちろん、最近になって自然災害に曝され始めたものもある。今まで住宅地ではなかった場所で値段も手ごろなニュータウンには、そういう性質の場所がたくさんあった。
 
 もう1000万円、いや2000万円出せるなら、もっと安全な物件に手が届くかもしれない。だがたいてい、その1000万円や2000万円が死活問題になる。「昔からの地勢に気をつけなさい」とはいうけれど、それもまた一種の文化資本のたぐいで、誰もがあらかじめ調べられるものでもなく。
 
 2019年の台風にともなう水害でも、今まで住宅地ではなかった場所、今まで人が住んでいなかった場所で大きな被害が出た。武蔵小杉が話題になりがちだが、武蔵小杉は頑張っているほうだと思う。被災した地域だけが特別に自然災害にやられやすかったわけでもない。そういう郊外、そういうニュータウンが、地方都市にはそこらじゅうにある。
 
 私のなかでは、タワーマンションは地方でいう郊外のニュータウンに相当するような何かだ。現代的な暮らしの象徴とみなされ、豊かさのデコレーションを施された、プライベートを重視した住まい。1000万円や2000万円が死活問題になる人々にも手が届くぎりぎりの価格設定。そして今まで住宅地ではなかった場所を住宅地にしたという地勢。
 
 今回の水害では、それでも多くのタワーマンションが被災を免れた。首都圏のタワーマンションについては、地方の郊外に比べて、まだしも災害に対する防御力は高いのではないかと思ったりもした。それでも、ニュースなどを見ていてふと思う。もし自分が上京したら、きっと、ああいったタワーマンションに居を求めていたのではないだろうかと。私の子どもが上京したとしても、やはりタワーマンションに居を求めざるを得ないのではないかと。
 
 
 

そのリスクが、おのぼりさんには避けづらい

 
 
 泥水でいっぱいになった武蔵小杉の風景に、私は、地方郊外の自然災害を重ね合わせずにはいられなかったのだと思う。
 
 お金や情報をたんまり持っている人が冒さなくても良いリスクを、1000万円や2000万円が死活問題になる者は冒さないわけにはいかない。地方から上京し、新たに家庭をもうけるおのぼりさんには、そうしたリスクを回避するすべはあまり無い。地勢にこだわると、住まいにかかる費用に耐えられなくなるか通勤距離に耐えられなくなってしまう。結局、多少の水害リスクには目をつむり、不動産屋さんや国土交通省を信じてそこに住むしかない。
 
 もちろん独り暮らしを続けるだけなら、タワーマンションを選択する必要はないのかもしれない。しかし子育てをしようと思えば部屋数が必要になり、首都圏に土地を持たないおのぼりさんには、そういう部屋数をあてにできる選択肢が限られている。
 
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 資産家の御曹司でもない限り、地方からのおのぼりさんは、この方面では素寒貧からスタートせざるを得ない。そして地方の団塊世代にニュータウンを売り捌いた不動産屋さんたちと同じく、現代の東京の不動産屋さんもまた、そこのところを狙いすまして夢を売る。夢を見ないで「人生で一度きりの買い物」をやってのけられる人も、いるにはいるのだろうけれど、私はたぶん、そうではない。だから今回の水害はまったく他人事ではなく、自分が直面していたかもしれない水害を見たような気がした。