シロクマの屑籠

はてな村から引っ越してきた精神科医シロクマ(熊代亨)のブログです。

雨ばかりで憂鬱だったので『言の葉の庭』を観た

 

言の葉の庭

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【Amazon.co.jp限定】天気の子【特典:CDサイズカード「風たちの声」ver.付】

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 ここ一カ月ほど雨ばかりのせいか、それとも原稿や仕事で追い詰められていたせいか、テンションが低くてかなわない。緑がまぶしく、紫陽花の美しい6~7月は季節としては好きだが気分のコントロールがいまいち難しい。仕事やタスクはたまる一方の時には、勇気を出して休息しなければならない。が、それが簡単ではない性分に生まれついてしまったので、ついAmazonプライムなど眺めてしまった。
 
 すると新海誠『言の葉の庭』がプライム会員特典として公開されているじゃないか!
 
 そういえば数日後には新作の『天気の子』が公開されるという。じゃあ、予習がてら観てみるか……と思って観たら、梅雨の新海誠というか、雨の新宿御苑というタイムリーな舞台で、やはりというか、ひたすら美しく雨模様が描かれていた。東京の空を舞う鳥、雨があがった青空の飛行機雲、水面に浮かぶアメンボ、風に揺れる水の流れ、どれも美しく描くもんだと感心した。でも、この美しさは『秒速5センチメートル』よりも幾らか『君の名は。』寄りだとも感じた。前者で感じた、カット一枚一枚のナルシーな過剰さが『言の葉の庭』ではそこまで露骨ではない。どれもこれも美しく、新宿御苑での再会場面での雷と嵐などは、これぞ心象風景!といった感じは受けるけれども、『秒速』の種子島の夜空のような、美しさに歪んだ図像にはなっていない。
 
 この作品は年齢制限がなさそうだけれど、雰囲気がややエロチックだった。雪野先生の足をこっそりスケッチブックに描くタカオも、雪野先生の足のサイズを実際に測るタカオも、自宅で靴をつくるタカオも、上級生に喧嘩を売りに行くのも、すべてえっちだな、と感じた。そういう印象を受けるのも、タカオと雪野先生が会うシーンでは決まって雨が降っていたからかもしれない。晴れた新宿御苑では、こうはなるまい。
 
 雨に濡れ、雪野先生の家で服を乾かし、二人でオムライスを食べるシーンもやたらしっとりしていた。アイロンの蒸気、マグカップからの湯気、窓の外の雨、どれも抜群の雰囲気だ。そうした雰囲気のなかで雪野先生は動揺を隠せなかったから、眺めている私も動揺した。この二人の(またはどちらかの)運命がどれほど残酷に描かれるのかわかったものではないと覚悟し、固唾を飲んで見守っていたが、雪野先生はよろめきながらもタカオのところに辿り着き、言葉を交わしたので私は安堵した。二人を分かつ運命の残酷は『言の葉の庭』にはなかった。自分の気持ちを言葉や行動にできるって、幾ばくかの野蛮さは伴っていても、かけがえのないものですね。
 
 『言の葉の庭』は新宿御苑とその周辺にコンパクトにまとまっていて、宇宙や地域を感じさせないせいか、大仰な作品という感じがしない。それだけに、事情を抱えながらまあなんとか生きているタカオと雪野先生の雨宿りをじっとり眺めるには適していて、たぶんこういうのは『天気の子』には望みようがなさそうだから、いいタイミングでいいものを観た、と思った。
 
 とはいえ、今日もまた雨日和。やっぱり気分があがらない。『天気の子』の公開とともに梅雨がパーッと開けてくれればいいのだけれども。