シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

確実に駄目な子が育つ方法の考察

 
 一人一人の子どもはそれぞれ固有の遺伝的傾向を持ちつつも、周囲環境との相互作用のなかで独自の成長を遂げていく。ホモ・サピエンスの子どもは環境に合わせて成長していけるだけの学習汎用性を持っており、余程極端な環境でない限り、何とか環境に合わせたコーピング(対処行動・処世術)を形成していく。長所を伸ばし、短所をカバーしていくその適応力は、驚異的と言える。
 

 然るに昨今、思春期以後のコミュニケーシーン・人間集団のなかでドロップアウトしてしまう子が後を絶たない。どうすれば、ドロップアウトしない子を育てる事が出来るのか?残念ながら、適応力のある子や凄い能力の子を育てる方法は、私には分からない。だけれど、高確率で駄目な子をつくりあげる手法だったら幾つか思いつく。大抵の子どもは猛烈な勢いで学習しながら成長していくわけだが、要はそれらを妨害すれば良いのだ。コミュニケーションスペックも、人並みの情緒性も育てさせず、才能の芽を潰しておけば、何のとりえもない、惨めで、爪弾きに遭いやすい人物を育成できるに違いない。基本方針は以下のとおりだろうか。
 

・どんな素養や長所も伸ばさない。
・どんな短所や弱点をも埋め合わせしない。
・年齢にあわせて吸収すべきものを吸収させない。経験もなるべくさせない。
・自発性をなくしてしまうか、自発性が暴走するように成長させる。
・フィジカルな面でも、成長や発達はなるべく妨げたほうが良い。

 これらを適切に実行すれば、その子は何の才能も開花させず、弱点はそのままに、幼児の如き暴君性を発露するひどい人物ができあがるだろう。これから示す幾つかのtipsは、私の無い知恵を絞って考えた、『駄目な子育成サジェスチョン』である。駄目な子を育てたいと日夜祈っている人の参考に、あるいは駄目じゃない子を育てたいと願っている人の反面教師になればいいなぁ。
 

・頑張った時にも、とにかく褒めるな!
 子どもが頑張って何かをやり遂げた折には、褒めてはいけない。褒めたらいい気になって長所を創り出してしまうかもしれないし、「自発的に何かに興味を持つ子」になってしまうかもしれない。社会的にも立派な、友達や先生から褒められそうな事をやった時にも、親のアナタが褒めずに怒ってみせれば帳消しに出来る。何をやっても親に評価されないという経験は、長所を踏みにじり自発性を殺すには最適な方法と言える。子どもが99点をとって帰ってきた時など、「100点を取らなきゃ駄目だ」と冷たく言い放とう。特に、親離れするまでの思春期までにこれを徹底しておけば、何をやっても喜べない、がんばり甲斐のない子どもに出来るかもしれない。キーワードは「幾ら頑張っても無駄」。子どもが取り組んでいる事を見つけては貶めよう。
 
 あと、失敗した時に厳しく叱責する事をお忘れなく。失敗から学習する隙を与えないように注意しながら、丁寧に叱ろう。「成功して当たり前、失敗すれば自分は駄目な子として叱られる」と小さい頃から刷り込んでおけば、将来トライアンドエラーが出来ない不器用な子に成長しやすそうだ。
 

・子どもが興味を持った事はさせるな!子どもが興味を持たない事をさせろ!
 子どもが小さい頃に自然と興味を持った事は、将来自然と伸びてしまう可能性があるので、さっさと芽を摘んでおこう。代わりに、親が良かれと思ったことで子どもが泣いて嫌がるモノを習いに行かせれば、伸びるものも伸びなくなる。ピアノよりも人形遊びに興味のある女の子にピアノを強制したり、本よりサッカーが大好きな男の子を“頭の良くなる塾”に行かせたりすればいい感じだ。前述の褒めるなメソッドを組み合わせれば、まかり間違って才能を開花させるリスクを最小限に出来るし、好奇心や自発性も奪い取りやすい。
 

・欲しいものは何でも与えろ!我慢させるな!
 努力できない子に育てていくだけでなく、我慢が出来ない子にすることも不適応を促進する。『子どもを不幸にするいちばん確実な方法は、 いつでも、なんでも手に入れられるようにしてやることである』とはルソーの言だが、何でも与え、我慢をさせずに育てれば、小さな暴君をこしらえる事が出来る。自分の欲望を満たすことしか考えない子になれば、幼稚園や小学校の頃から嫌われ者になれるし、中学校以降になれば、まぁ、挽回は困難だ。
 
 なお、食べ物の分野でもこの方法は効果的だ。ファーストフードやスーパーマーケットに溢れているジャンクフードなどを我慢させずに食べさせれば、甘くて脂肪分が多く便秘になりやすい食物を腹一杯食べるようになりやすかろう。子どもを肥満や成人病に悩まされやすくしたいなら、外食産業の誘惑を一切制限しないようにすることをお勧めする。
 

・日常生活に関わる事は、親のアナタが全部してあげよう!
 親バカを子どもに押しつけまくって、着替えも登校準備も全部やってあげるのも良いかもしれない。中学校になってもママに制服のボタンをとめて貰っている子は、修学旅行の時にどうなるだろうか?思春期に入った頃に体得していて然るべき生活技能をマスターしていない子は、相当苦労する事になるだろう。アナタが親バカ精神に骨の髄まで毒されているなら、小学校になってもよだれかけをつけさせ、スプーンで離乳食を与え続ければ良い。きっとその子は不幸になれる。
 

・超ネグレクトに関して
 逆に、育児放棄をしても子どもが育ちにくくなるとも言えるかもしれないが、ただの放任主義では子どもが勝手に親代わりの誰かから学習し始めるかもしれないので注意が必要。“真っ白な何も無い部屋に閉じこめておいて食事はカロリーメイトだけ”というならともかく、子どもを自由にさせておくと、賢い子は案外学習をし始めるので難しい。また、ネグレクトは児童相談所にも目をつけられやすく、子どもが死んじゃったら大変な事になるので、駄目な子を駄目な大人に導く方法としてはハイリスクなやり方と言える。
 

・まずい事をやっても叱るな!
 良いことを評価しないだけでなく、やってはいけない事を叱らず放置しておくことによって、将来の不適応を一層確実なものに出来ると推測する。子どもが人の持ち物を盗んだ場合も叱らずに、「盗まれた奴は間抜けだよねハハハ」などと笑っておけばどんどん駄目になりそうだ。119番通報して消防署の人に怒られた時にも子どもを一方的に弁護し、スーパーマーケットでお菓子の封を開けてしまっても叱らず済ませておけば、何が社会的にマズいのかを子どもは学習できないまま成長しやすい。親バカも、こういう時には(駄目な子育成に)役に立つ。
 
・子どもが悪い事をして呼び出されても、頭を下げちゃ駄目だ! 
 また、子どもが他人に迷惑をかけ、親たるアナタが(警察などに)呼び出された時にもあくまで他罰的にいこう。近所の車に子どもが落書きして呼び出された時には、逆ギレして「こんな所に駐車する奴が悪ぃんだよ、バカジャネーノ」と難癖をつけておくのが良さげ。こういうのを子どもにみせてあげて、良いお手本を示してあげよう*1。あと、呼び出されたその席で子どもを責めまくって、親の自分が子どもに責任転嫁するのも素敵だ。呼び出した側が鼻白むほど「クソガキ何してやがるんだよこの野郎」とボコったりして、適切な学習が行われないよう努力しよう。「社会的にこれはやっちゃいけない事」などという学習が促進されては、スクスク成長してしまいかねない。
 

・理不尽に怒り、理不尽に上機嫌に振る舞おう
 アナタの感情がどういう時にどう変化するのかを悟られてはいけない。キーワードは『ランダム感情』。例えばアナタが昼間っから常に酒浸りで、理不尽な状況下で突然殴ったり理不尽な状況下で上機嫌にしていたりするのも良い方法だ。「自分が何をすれば怒られやすいのか」を学ばず、「どんな表情をしている時に怒られやすいのか」ばかりを学習すればアンバランスな処世術が形成されていく。他人の顔色ばかり窺っているのに何を為すべきか分からない&空気が読みきれない痛い子まで、もうすぐだ。感情に関するコンテキストを、適切に学習させてはならない。
 

・同年代の子から引き離せ!
 子ども同士のコミュニケーションや友達関係は、思春期以後高度化していくコミュニケーションと人間関係のベースを学習する重要なプロセスなので、これを妨げまくっておけば将来の不適応間違いない。相手の感情も読めず、喧嘩も出来ず*2、共通の話題も持てないようにしておけば、その子にとっての学校は、じきに針の筵になるだろう。
 
 具体的には、一人の稽古事、お受験、(完全に独り遊びの)テレビやゲーム、などがお勧めだ。友達と一緒に勉強したり、友達と一緒にゲームをやったりすると人間関係を学習してしまうかもしれないので、極力一人で部屋に籠もりっきりが望ましい。なお、アナタが一緒に遊んでしまうとアナタを学習対象にしてしまいかねないので、注意!
 

・(女性の場合)妊娠中も、煙草、アルコール、ドラッグをキメろ!
 女性の場合、妊娠中にも色々な物質を乱用すれば胎児が困ってしまう可能性が高くなる。悪阻がひどくて煙草やアルコールを受け付けない身体でも、せっせと摂取すれば子どもに悪影響が出やすくなるだろう。このほか、不規則な生活なんかも影響があるかもしれない。
 

【まとめ】
 
 子どもが才能を開花させたり上手く社会に適応していく為の十分条件は人それぞれだろう。一方、“これを外しちゃすごくヤバい”という必要条件は幾つかありそうだ。ビタミンだけで健康になれないにしてもビタミンが必須なのと同様、最低限のコミュニケーション技能・経験・パーソナリティ等は思春期以後の社会適応に(それらだけでは不十分とはいえ)必須のものと私は考えており、それらを取り込むことなく思春期を迎えてしまえば高確率でドロップアウトしてしまうと推定する。基本方針を、もう一回おさらいしてみよう。
 

・どんな素養や長所も伸ばさない。
・どんな短所や弱点をも埋め合わせしない。
・年齢にあわせて吸収すべきものを吸収させない。経験もなるべくさせない。
・自発性をなくしてしまうか、自発性が暴走するように成長させる。
・フィジカルな面でも、成長や発達はなるべく妨げたほうが良い。

 
 今回挙げてみた『駄目な子育成サジェスチョン』は、どれもこれも酷いもので、どう考えても子育て妨害的にみえる。優れた素養を潰し、パーソナリティを歪め、自発性を抑圧し、他人とのコミュニケーションを不得手にするろくでもない方法のオンパレード。“どんな子もスクスク育つ良い方法”なんてものは世の中に存在しないが、“どんな子もドツボにはまる酷い方法”なら確かにある*3。将来自分が子育てに回った時、果たして私はどこまで意識して回避出来るのだろうか?このテキストを読んだ数年〜十数年後の自分は、さて、何を考え何を思うのか。
 

*1:ただし教えすぎると子どもが賢い恐喝メソッドを体得しちゃうので、程々に!

*2:小学校時分までの喧嘩というのは、相手の利害・感情・力関係を理解したうえで人間関係を構築していく、貴重な練習の場になっていると思う。生傷が絶えなくても、泣いて帰ってくる事が多くても、小学校のうちにそういう経験を重ねておく事は決して悪いことではないと思う。

*3:今回挙げた他にも幾つかある。あるけれど、今日はこれぐらいにしておこうと思う