シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

お返事(強姦された雌は、屈強な男の精子なら喜んで受け入れるか問題)

 (7/1午前10:30修正)

 http://d.hatena.ne.jp/choumei/20060630/1151676629
 
 id:choumeiさん、丁寧なお返事ありがとうございました。一回あたりの射精に伴う妊娠の率が高くなる、という指摘を頂き、ちょっと驚いています。こちらが読んだ本を読み返したところ、「強姦一回あたりの妊娠率が、和姦一回あたりの妊娠率より高いか低いか」は明示されていませんでした。本に以下のような事が書いてあったので、私は「強姦じゃあまり妊娠しないよ」とコメントしたらしいです。以下にそれを抜粋します(2巻のほうでした!)

 多くのほ乳類の雌は、交尾のあとに雄の精液を無意識に押し出してしまうことがあり、「フローバック」と呼ばれている。それはまるで、自分の基準に達しなかった雄との交尾のあとでは、その雄の精液を拒否しているかのようだ。排卵が隠されている人間の女性では、男性がよいセックスを提供するかどうかは、彼女が続けてセックスをしてくれるかどうかに影響するであろうから、それが、その男性の子どもができるかどうかを決定することになるだろう。
 
(恋人選びの心 性淘汰と人間性の進化(2) ジェフリー・F・ミラー著 329ページより)

  
 もし、レイプによる男性選びが実際にあってそれなりに機能しているんだったら、女性側が排卵を隠しているメリットが説明困難を来してしまいます。排卵を隠したことにより、女性は望ましい相手とのある程度繰り返しのセックスでなければなかなか妊娠しないようになっていますが、もし、レイプによって男のパワーを計るような選択を行っているなら、むしろ女性は(他の動物の雌同様)発情期をつくってケツを真っ赤にして、男達に奪い合わせたうえでレイプさせるように進化するような気がします*1。少なくとも排卵を隠しちゃうと、レイプされる事による男性選択の場合、いっぱいセックスしなきゃいけない分だけ男女双方のコストを増大するので無駄が多いと言えます。女性がもし、レイプで男を受け入れたり選択したりしているなら、ネコのように短い発情期を設けた女性のほうが低コストが故に淘汰に生き残るんじゃないかと思いますし、発情期をつくる事自体はそんなに難しいことではない筈です*2。また、もしレイプが性淘汰上重要だったとしたら、見知らぬ屈強な男との強姦のほうが(ステディな相手との)和姦よりもオーガズムに達する確率が高いなんて事は起こるように思えますが、実際はレイプは女性にオーガズムより恐怖や苦痛を与えるもののようです。現生人類は、繰り返される和姦などという激しい損耗をやってるわけですが、もし、屈強レイパーを女性が選んでしか妊娠しやすいとしたら、和姦を繰り返すこの手の個体は遺伝子プールからとっくに淘汰されていていなくなっている筈です。排卵の隠蔽と繰り返される和姦・通文化的にみられるレイプに対する女性側の抵抗と嫌悪etcを考えるにつけても、女性側の男性えり好みにおける「いかに屈強な男にレイプされるのか」は全く重要ではないか、少なくとも重要度の低いものなんじゃないかと私は思います。
 
 また、ご指摘のとおり、レイプで妊娠した子どもがちゃんと育つのか、という問題もあります。原始的な狩猟採集社会から現代社会に至るまで、(カトリック教徒はともかく)間引きがしばしばみられるわけですが、レイプによって生まれた子どもは、そうでない子どもよりも間引きに遭う確率が高いという問題があります。また、継父は比較的高確率で自分の血を有さない子どもを殺すか、幾らか手を抜いて育てるかする傾向が統計的にみられるので、レイプで妊娠→あとはお任せ な子どもは、ある程度夫婦同盟を結んだ末の子よりも生き残り難かったことでしょう。このことが、レイプで妊娠した子とレイプでしか子を残さなかった男の遺伝子に、強い淘汰圧としてのしかかってくるので、レイパー男は基本的には淘汰されるか、遺伝子プールのなかで極少数の存在に留まる程度なんじゃないかと思う次第です。そのうえ、レイプ妊娠した女性は、処女性に対する拘りを持った男性とつがいを持つ確率がちょっとさがる(男性側がつがいの相手として選択する場合の信頼度が下がる、と言い換えれば良いでしょうか)でしょうから、いい男に良い支援を受けながら子育て出来る確率がちょっと下がるでしょう。これも、淘汰圧となって(レイパー男性的遺伝子に)のしかかってくるわけで。やはり、レイパー戦略ではホモ・サピエンスの幾つかの行動学的傾向と矛盾してしまうように思えます。ただし、一回あたりの強姦が、一回あたりの和姦よりも妊娠しやすい可能性は依然として否定されませんが*3


 
 一方、レイプという行為についてちょっと違った見方のコメントを見かけたのでそちらも紹介してみます。

 強制的セックスつまりレイプは、しばしば露骨に支配力を表す手段として使われるものだ。これは男女の間だけでなく、男同士の間にもいえる。動物界でも雄雌のあいだや雄同士のあいだで優位を誇示するための「マウント」行為は多くの種にみられることで、決して珍しくはない。世界中どこの言葉にも、「やる」というたぐいの、優位と性的な意味を兼ねた動詞が、必ずと言っていいぐらいあるようだ。
 
(生物進化とハンディキャップ原理 性選択と利他行動の謎を解く アモツ・ザハヴィ/アヴィシャグ・ザハヴィ著 342ページより)

 
 レイプによって男性側が達成するものが、妊娠そのものよりも支配力や社会的コンテキスト(←状況、に近い意味)の規定に役立つモノなんじゃないか、というお話。妊娠そのものでなくても、レイプが合目的かもしれないという点で、私はちょっと気にしちゃいました。勿論、見ず知らずの土地で独りぼっちの女をレイプした男性は「幾らなりとも遺伝子を残すチャンスを得る」わけで、やっぱりレイプだって男性側の繁殖と関わりがあるのは間違いないとは思います。が、女性側にとってレイプされてそのまんま子どもをつくってしまうメリットはあまりなさそう(いい夫を探してゲットしたほうが子育て等で有利)なので、女性側は本質的にレイプを嫌うし、レイプされている時にえり好みを働かせる傾向は微々たるものだと思います。むしろ、『レイパーからどれぐらいちゃんと守ってくれる男性かどうか』といった点などに女性はえり好みを働かせそうな気さえします。
 

[今回こちらが参考にした本]
Amazon.co.jp: 恋人選びの心―性淘汰と人間性の進化 (1): ジェフリー・F.ミラー, 長谷川 眞理子: 本
Amazon.co.jp: 恋人選びの心―性淘汰と人間性の進化 (2): ジェフリー・F.ミラー, 長谷川 眞理子: 本
Amazon.co.jp: 人が人を殺すとき―進化でその謎をとく: マーティン デイリー, マーゴ ウィルソン, Martin Daly, Margo Wilson, 長谷川 真理子, 長谷川 寿一: 本
Amazon.co.jp: 生物進化とハンディキャップ原理―性選択と利他行動の謎を解く: アモツ ザハヴィ, アヴィシャグ ザハヴィ, 長谷川眞理子, Amotz Zahavi, Avishag Zahavi, 大貫 昌子: 本
 まだまだ勇み足な部分が多く、日進月歩な分野なのでどこまで妥当なのかは未知数ですが、面白いので今後も追いかけていきたいと思っています。
 

*1:そもそも、レイプされる際に女性が傷つくリスクは、レイプする側の繁殖的メリットにとってもマイナスのものと言えるので、他の大半の種と同じく、自分がレイプされる事で雄を試すより雄同士の争いの結果だけを収穫するタイプのほうが淘汰に生き残りやすそうです

*2:排卵を隠している生物自体が極めて稀な事を考えると、排卵を露わにするのはそんなに難しいことじゃなさげ

*3:それにしても、そのスタディの調査方法が気になるところ。精液二週間分ためた男のレイプと、毎日セックスしている男性の和姦とかの比較だったらアレだなぁ。もし、精液二週間分ためた男のレイプと、二週間カナダに旅行に行って帰ってきた夫とのセックスとの間で比較した研究だったら、相当強い主張をミラーさんやザハヴィさんのような性淘汰論者に突きつけることになるけれど、そこまでのものなのかどうか?