
いきなり暑くなってきた。こういう週末はシャンパンに限る。でもシャンパンは激しく値上がりしたので格下のスパークリングワインで済ませたい日も多い。でもシャンパン飲みたいよねシャンパン。だってシャンパンだからさー。
しかし何やろうな、カヴァとシャンパンと風味が違うのはわかるが何がどうなのかうまく言語化できなくてもどかしいな。ブドウか?酵母か?
— petrovich (@petro_vich) 2025年7月13日
忙しすぎて何もできなかった7月13日に上掲ポストを見かけた。シャンパンとカヴァ*1は何が違うのか?
文章にしてみるとたぶんこうなる:シャンパンはフランスのシャンパーニュ地方、比較的冷涼な気候でミネラル感の備わりやすい土壌のぶどう畑でつくられている。ぶどう品種はシャルドネに加えて、ピノ・ノワールやピノ・ムニエといったピノ系ぶどう品種。対してカヴァはスペインのバルセロナ周辺で主につくられるが、土地の制約はもっと緩い。ぶどう品種はマカベオやチャレッロといったスペインっぽい品種が優勢だ。
色合いの面では、カヴァ、特に安物のカヴァは白っぽい色合いをしているのに対して、シャンパンは麦わら色~黄色っぽいことが多い。値段を意識している時には「金ピカの飲み物」と言いたくもなる。
だから、よほどシャンパンに似せてつくられたカヴァでない限り、カヴァとシャンパンの区別はつけやすく思われる。あと、安物のカヴァは金属感がうるさく感じられることがあり、それも「カヴァっぽい」と疑う材料になる。
でも、安物のカヴァならともかく、すべてのスパークリングワインをシャンパンと識別できるかって言ったら難しいと思う。カヴァだってシャンパンに似せたものは結構似ているし、世の中には「シャンパンジェネリック」「シャンパン互換品」と言いたくなるようなスパークリングワインもゴロゴロしている。とてもじゃないが、自信をもって識別できる気がしない。
梅雨が明けて、今日はシャンパンが飲みたい気分がマキシマムなので、シャンパンと区別しやすいスパークリングワイン、シャンパンと区別しにくいスパークリングワインについて書いてみる。
シャンパンと区別しやすいスパークリングワインたち
まずは簡単に識別できるものから。
さきほど書いたように、シャンパンはシャルドネやピノ・ノワールなどでつくられ、ミネラル感の出やすい土壌の、冷涼な気候でつくられる。ということは、違う品種、違う土壌、違う気候のワインはシャンパンと区別できる可能性が高い。ここから挙げていくスパークリングワインたちは、シャンパン互換品として期待するとがっかりする品だと言えるし、シャンパンとは異なるタイプのおいしさを追求するのに適した品だとも言える。
1.ランブルスコ
一番区別しやすいのは、ランブルスコのような赤のスパークリングワインだろう。完全に赤ワイン色だし、タンニンの渋さや飲むヨーグルトみたいな独特の風味を伴うのでまったくシャンパンっぽくない。肉料理やピザやソーセージとの食べ合わせに優れている点も見逃せない。暑いシーズンに飲む赤ワインとしてもぜんぜんいけている。
2.プロセッコ
スペインのカヴァと同じかそれ以上に識別しやすいのは、たぶんプロセッコだ。ぶどう品種はグレラといって、シャンパンよりもあっさりした風味になる。色合いはとても白っぽく、見た目も手伝ってか、夏みかんやハッサクのような白系柑橘類を連想したくなる。シャンパンの場合、「リンゴ」「青リンゴ」「焼きリンゴ」といった連想をしやすいけれども、プロセッコからリンゴを連想することはない。製法や酵母の関係からか、シャンパンにありがちなパンのようなふっくらとしたイースト香も乏しい。プロセッコは、ランブルスコの次ぐらいにシャンパンとの区別がしやすいように思う。
3.ぜんぜん違う品種でつくられた他のスパークリングワイン
世界各地には色々なぶどう品種があり、色々なスパークリングワインがつくられている。シャンパンに使われるぶどう品種とは全く異なるぶどう品種のスパークリングワインたちは、まだしも識別しやすいかもしれない。たとえばソーヴィニヨンブラン種でつくられたスパークリングワインには、ソーヴィニヨンブランらしいトロピカルフルーツ感、黄桃や桃の香り、口の中でワインが膨らむような膨張感、さっぱりとした後味などがあって、シャンパンを真似るつもりがまったくないとわかる。
このココチオーラという品種でつくられたスパークリングワインも面白くて、ココナッツのような甘い風味とまったりした後味がある。私は好きです。これもシャンパンに似せてないし、こうした風味はシャンパンにあってはならないものだとも思う。でも、こいつは夏のリゾートがめっちゃ似合う。そういうものだと知ったうえで飲むぶんには優れた品だ。
4.品種は同じだけど似せきれなかったスパークリングワイン
このあたりからだんだん自信がなくなってくる。世の中には、品種はシャンパンと全く同じで製法も同じスパークリングワインがたくさんある。でも、みんなが完璧にシャンパンに似ているわけじゃない。コストの問題や気候の違いから、素人でもどうにか識別できるヒントがありそうなものもある。
新世界の安価なスパークリングワインの多くは、品種的にはシャンパンと同じことが多く、夏の暑い日の一杯目だったらシャンパンみたいなものとして飲めるかもしれない。でも二杯、三杯と飲むにつれて、酒臭さが前に出てきたり、ちょっと甘味が強すぎると感じたり、識別するヒントが増えていく。してみれば、飲み進めるにつれて飽きてくる品、飲み疲れてくる品、気持ち悪くなってくる品はシャンパンではない可能性が高い。逆に言うと、こうしたスパークリングワインでも一杯目はごまかしきれてしまうかもしれない。もちろん、このクラスのスパークリングワインにはハイレベルなシャンパンが持つような複雑な風味や絶妙な舌ざわりなどは期待できない。
シャンパンに迫るスパークリングワインたち
その一方で、「シャンパンジェネリック」としてかなり頑張っているスパークリングワインもいる。以下に挙げるワインたちはシャンパンとの区別がつけづらく、私だったら「十分に似てる品は区別できなくても恥ずかしくないんじゃないの?」と思ったりしている。ただし、シャンパンに十分に似せてつくられたスパークリングワインは基本的に値段が高く、2000円以下では買える気がしない。4000円以上と考えておいたほうが無難。
5.フランチャコルタ
フランチャコルタはシャンパンジェネリックとしてけっこういい線行っていると思うし、イタリアのスパークリングワインとして筆頭格だと思う。たまに??? という品もあるけど基本的にはシャンパンみたいな使い方でいいんじゃないでしょうか。カ・デル・ボスコみたいに見た目が派手なやつもある。
6.各種クレマン(特にクレマン・ド・ブルゴーニュ)
フランスにはシャンパンより格下のスパークリングワインとしてクレマンというものがある。シャンパンよりは格下ながらけっこういけていて、特にクレマン・ド・ブルゴーニュは品種的にもシャンパンによく似ている。これは、シャンパンに釣られて値段が高くなってきた。
クレマンはシャンパンに比べて軽やかな飲み心地で、辛抱強く熟成を待つような品ではない。熟成シャンパンの風味の虜になっている人ならともかく、そうでもない人なら「シャンパンをもう少しライトにしたスパークリングワイン」として十分に楽しめる。シャンパンが少々キツいと感じる人の場合は、クレマンのほうがおいしく飲めるはず。品種がシャンパン互換でなくて構わないなら、クレマン・ダルザス(アルザス地方のクレマン)やクレマン・ド・ロワール(ロワール地方のクレマン)なども良い。今はここがねらい目だと思う。
7.ちょっといい値段の新世界スパークリングワイン
南アフリカやカリフォルニア、オーストラリアではそこそこ値段の高いスパークリングワインもつくられていて、このあたりはシャンパンジェネリックとして相当いけている。色や香りはもちろん、ミネラル感や後味の長い酸味なども伴っていたりする。飲み疲れてきたり酒臭くなったりもしにくいので、そう簡単には馬脚をあらわさない。安いスパークリングワインたちに比べれば高いといっても、本家シャンパンに比べればまだ安いので選びどころはあるはずだ。
8.イギリス製スパークリングワイン
イギリスでスパークリングワインなんて作ってるの? という人もいるかもしれないけど、イギリスの土壌とシャンパーニュ地方の土壌はよく似ているんです。気候もまあまあ似ている。歴史的には浅いけれども、地球温暖化の影響などもあって、今後はイギリス製スパークリングワインが伸びてくるかもしれない。私は一度しか飲んだことがありませんが、シャンパンみたいだと思いました。
シャンパンに似ていても似ていなくても使いようはある
ここまで読んで、「じゃあシャンパンが唯一無二の存在で、スパークリングワインはシャンパンに似ているほど偉いのか」と思った人もいるかもしれない。半分イエスで半分ノーだと思う。イエスだと思う理由は、つべこべ言ってもシャンパンは発泡性ワインの品質を考える基準点になっていて、品質的にも市場的にもど真ん中に位置付けられるから。ノーだと思う理由は、シャンパンとははっきり異なる品種とコンセプトでつくられている発泡性ワインが世界じゅうにあって、それらはそれらで面白いから。
シャンパンが唯一無二の場面ってのはある。シャンパンという肩書きが重宝される場面では、シャンパンを選んでおくべきであって、似ているからといってシャンパンジェネリックを用意するのは間違っている。でも、シャンパンという肩書きにこだわる必要のないインフォーマルな場面では、シャンパンジェネリックたちを選んで構わないだろう。
フランス各地でつくられるクレマンもいい。シャンパンよりも軽やかで、ワインにあまり慣れていない人と一緒に飲むならやさしいスパークリングワインだと思う。簡単な料理のお供にするにもこれだ。他の品種でつくられたユニークなスパークリングワインたちも、そういうものだとわかって飲むぶんには失望するより面白さが先立つ。
結局これは使いようの問題だ。シャンパンが期待される場面でぜんぜん違う風味のスパークリングワインを選んだり、逆に、「今日はシャンパンとは一味違ったスパークリングワインを飲みたい」と思った時にシャンパンの劣化コピーみたいなスパークリングワインを選んだりしたら、がっかりすることになる。
「スパークリングワインなんてどれも同じ」なんてことは決してないので、シャンパンか、シャンパンジェネリックか、シャンパンとはぜんぜん違う品種かだけでも意識しておくと便利だと思う。細かいことを覚えたくない人は、ぶどう品種と価格だけ見ておけばなんとかなる(かもしれない)。価格がすごく安い場合や、シャルドネやピノ系品種でないものでつくられている場合はシャンパンとは似ていないスパークリングワインだと思っていいんじゃないでしょうか。
*1:*スペインでつくられるスパークリングワイン