- 作者: きづきあきら
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2006/09/29
- メディア: コミック
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ねんがんの『ヨイコノミライ第四巻』をてにいれたぞ!
この日を待っていた。“オタク界隈に埋もれる以外には生き筋を見いだせなかったような”オタク達の陰部をこれでもかと暴き出した本作も、この第四巻で完結だ。オタ的青春の一ページとして回想するも良いし、程良い痛さに身悶えするも良し、オタク達の予後なり心的傾向なりを理解する補助線として利用するも良し。『げんしけん』はもとより、『NHKにようこそ』や『ルサンチマン』などに比べるても知名度が下かもしれないけど、“こういう不器用な人がいるんだな”と理解するには絶好の本だと思うし、このコミックだけが伝える“文学の匂い”に私はすっかり打ちのめされた。ある程度の痛みに耐えられるオタクさんには、絶対に絶対にお勧め。
↓以下ネタバレ。ネタバレが嫌な人は読んじゃダメ
さて、完全書き下ろしにして完結編となった『ヨイコノミライ』第四巻。一巻で話をまとめようとした弊害か、性急に過ぎた印象は正直否めない。また、青木さんと井ノ上くんがくっついた事をはじめ、“きれいにまとめちゃったよ”と感じる人もいるかもしれない。確かにこうした部分は、本作品が呈示するある種のオタクリアリティを追いかけていた人達には不満なところに違いない。私個人も、青木さんが最後にいいひとになっちゃったことが残念ではある。最期まで堕天使を貫いてもらって、高笑いしつつ終幕or因果応報的な滅びを迎えるだったら良かったのに*1。
しかし、よく考えてみると、四巻のちょっとご都合主義的なハッピーエンドは、これはこれで随分残酷な幕切れにもみえる。以下、それを説明すべく、部活のメンバーの予後を3段階にわけてまとめてみた。作品そのものはハッピーエンドっぽいけれども、キャラクター個別にみてみると、明暗がはっきり分かれている。なかには、救い難い終わりを迎えたキャラクターもいる。各部員達の予後と特徴をまとめてみよう。
名前 | 予後 | コメント |
井ノ上くん | ○ | 平松さんと距離をとり、青木さんとくっつく。多分この一件で男をあげる |
青木さん | ○ | 長年のコンプレックスを解消。一枚剥けた井ノ上くんと“おともだち” |
有栖川さん | ○ | 売れないという経験を超えて、今後も描くことを追求していく |
桂坂先輩 | ○ | イケメン衣笠くんとくっつく。自己嫌悪だけの日々から脱却したっぽい |
大門さん | △ | 桂坂先輩との依存関係に終止符をうつ。意外と桂坂先輩を憎悪してないっぽい |
天原くん | × | 青木さんに核心を突かれて自尊心をへし折られる。多分、洞察・反省無し |
直ちゃん | × | 大門さんに嫌悪感を叩き付けられるも、反動形成的に笑みを浮かべる |
平松さん | × | 有栖川さんと一緒にイベントに出るも、現実直視より妄想を選ぶ道へ |
・突きつけられた現実を乗り越えられたメンバーや、気づきを通して変化を受け容れたメンバーは、何とかなっているor今後何とかなっていきそうな終わり方になっている。対して、現実への直面化に際して防衛を強化させて閉じこもってしまった人達(つまり、娑婆の風から目を逸らせた人達)に関しては、結局そのまんまの、突き放した描写で終わっている。
・やっぱ美人は得だ。特に桂坂先輩の場合はルックスによって助かった部分は少なからずあると思う(ただ、あの我の強さと表面的なそつなさも魅力として機能した可能性には留意すべきか)。大門さんも、メンタリティはやはりアレにしても、それなりにみられるルックスだった点が、彼女なりに依って立つ何かを提供しているような気がする。
・平松さんは、徹頭徹尾、等身大の自分とも等身大との他人とも向き合うことが無かった。作中、何度か現実を突きつけられる場面があったものの、<歪みに歪んだ都合の良い自己像&自分の願望によって書き換えられた他者像>にしがみついたまま遂に離れることがなかった。姉のアドバイスを活用してルックスを利用すれば活路があったかもしれなかったが、彼女の場合、そうするにはあまりにも心が弱くて狭すぎた。
・結局のところ、リソースのある人の予後が良い。ここでいうリソースとは、金銭やルックスだけを指すものではなく、防衛機制の強弱*2やオタク趣味分野における造詣も含む。気の毒なのは直ちゃん(ストーカー君)。小さい頃から空気男の彼には、ルックスのみならずパーソナリティの面でもリソースとおぼしきものが何も無かったし、あの終わり方からみて、これからもリソースを獲得することはない。
カップルになっちゃって新しい第一歩を踏み出した人達・今までの精神的束縛を脱して新しいオタ的生活をはじめた人達・そして何も変わらず益々引きこもった人達。『ヨイコノミライ』は、オタク界隈を駆け込み寺にせざるを得なかった不器用な人達の不器用さに照準を絞った、そういうリアリティを楽しむ作品だったけれど、この“不平等な結末”をもって、最後まである種のリアリティを貫徹してくれたと思う。確かに物語としてはハッピーエンドを迎えたし、作品としてのまとまり上致し方のない事だというのは分かるけれど、それでも最後の最後、“予後の違いという残酷さ”を読者に突きつけて終幕したわけである。これはひどい。
物語の進行上、幾らかのご都合主義はあったにせよ、オタク界隈に潜む物憂げなリアリティを最後まで描ききった『ヨイコノミライ』。明暗のくっきり分かれた、キャラクター達の未来。『ヨイコノミライ』という名のルーペを通して見せ付けられた娑婆の一断面に、私は何とも言えないおぞましさと居心地の悪い読後感を得ることが出来たと思う。つまり、この作品は、(少なくとも私にとって)きっと上手く完結したという事なんだと思う。
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[平松さんと言えばやはりこれ]押しかけ厨