シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

シャリア・ブルが「イケオジ」じゃなくて「最年長の若者」に見える

  
www.gundam.info
 
テレビ版『ガンダムジークアクス』を、毎週楽しみにしている。
 
この年齢でアニメにかじりつく、ましてリアルタイムで見るのは結構キツいことで、でも、かけがえのない体験だ。火曜深夜はどうしても無理なので、水曜日の朝に早起きして強引に視聴する。私の場合、こうして早朝に眠い目をこすりながらガンダムを視聴するのは『ガンダムZZ』以来、約40年ぶりになる。
 
強制覚醒アニメとしてのジークアクスは、カフェイン飲料よりも効く。まるで『魔法少女まどか☆マギカ』の頃のように、正真正銘、アニメを正座して見ている。昔のガンダムを思い出させつつもそれに頼り過ぎず、新しい作品やキャラクターを一生懸命に追いかけたい気持ちも湧き上がる作品として、きれいに完走してくれることを願うばかりだ。
 
ところでこの文章は、昨日の話の続きだったりする。
ジークアクスに登場する、いわゆる大人ポジションっぽい人物たちは、実はかなり若い。アラフィフになってガンダムを眺めていると、つい、「みんな若いなー!未来あるなー!」と言いたくなる。まあ、2ちゃんねるの頃も「ランバラルは本当は若い」「ギレンやキシリアだって本当は若い」と言い合っていたわけだが、今は見た目よりも言動の若さを意識することが多い。
 
特にシャリア・ブルってさぁ……確かあんた、30代ぐらいですよね? 「今風のイケオジ」などとも言われるけれど、あんたって、まだ若いよねー! 作中ではマチュやニャアンの若さが際立っているし、エグザベ・オリベたちの上司という立場がシャリア・ブルをそう思わせるのかもしれないが、本当は彼だってかなり若い。サイド6のお偉いさんとして登場するカムラン・ブルームだって、旧作のミライ・ヤシマやブライト・ノアの年齢から想像するに若いはずだ。4話で登場したシイコも、母親となったとはいえ若そうに見えたし、若くなければあのようには行動できまい。
 
結局シイコは母親としてではなく、母親になる以前からのシイコとして行動した。すべてを手に入れたい──そういうのはアラフィフである私から見て無謀にしかみえないし、子どもを育てるにあたって、ほとんどの親はその不可能な執着を断念する*1。しかしシイコは断念せず、みずからの命を死地に曝し、あのような結末を迎えた。
 
マチュの母親は対照的だ。彼女の仕事と暮らしぶり、それからマチュの年齢から察するに、マチュの母親はおそらく40代、ひょっとしたら50代の可能性すらある。どうあれカムランやシャリア・ブルより年上だろうし、シイコよりもずっと範疇的だろうし、作中のいわゆる大人陣のなかでは最もはしゃいでいない。だからこそ、マチュには母親が退屈な世界の代弁者としてうつっているやもしれない。
 
……いやいや、そんな話がしたかったわけではなかった。とにかく、あの作品の登場人物のなかではマチュの母親がいちばん範疇的な大人の位置にあって、シャリア・ブルやその他の連中は実際にはたいして大人っぽくなく、なんだかはしゃいだ若者みたいな連中だよね、みたいなことを書いておきたかったのだった。
 
 

最年長の若者として眺めるシャリア・ブル

 
で、シャリア・ブル。

今作では軽薄になったというか若作りしたというか……見た目はおじさんっぽいけれども、なんだかフワフワした言動ですねえ。作品としては別にそれでいいし、そういう挙動をするシャリア・ブルから作品の今後を類推するのも楽しい。でも、あんた、中年の若い部類でなく若者の年老いた部類をやっていますよね? 繰り返すが、作品の都合とか色々を考えるに、それはぜんぜん構わないことだし今作のシャリア・ブルもそれはそれで好きだ。でも、この浮かれた中佐を「イケオジ」っていうのはなんか違いませんか。アラフィフから見たら、このシャリア・ブルってえ男、調子こいた最年長の若者っすよ……。
 
一年戦争後の人類圏では人手不足が想定されるので、たとえば現代日本などに比べれば、生存した20~30代が若いメンタリティのまま要職に就いていることは十分に考えられる。モビルスーツ乗りがわずか数年で市長として成功している、なんて逸話もその一端かもしれない。だから、この最年長の若者があのような立場にあること自体は、理解できる。
 
他方でシャリア・ブルはまだ若く、今作の場合、その若さが言動の端々にも現れているように思う。彼を、彼より若い場所から眺めると「イケオジ」とうつるかもしれないが、彼より年老いた場所から眺めるとそう見えない。年齢的にも作中立場から言っても、彼がこれから何事をなす人なのかはまだ確定しておらず、いずれ何者とみなされるのかも確定していない。マチュやニャアンほどではないかもしれないが、シャリア・ブルという人自身にも可能性は色々と残されている。
 
物語進行の都合として、それは好ましかろうし、赤いガンダムを追う立場とも合っているとも思う。しつこく繰り返すが、シャリア・ブルの最年長の若者っぽい挙動は作品にとってマイナスになるわけではなく、おそらくプラスになることとして計算されてもいるのだろう。
 
アニメという媒体、ひいては『ガンダム ジークアクス』という作品はユースカルチャーの作品で、若い視聴者層にリーチできなければならないから、アラフィフの身にシャリア・ブルがどう見えるのかは重要な問題ではあるまい。でも、作中では年上人物として扱われている彼や、他の幾人かの大人たちだって本当はまだ結構若く、不惑や知命といった境地にはほど遠いようにもみえるわけで、ひとつひとつの言動に出会うたび、私は若さにあてられたような気持ちになる。オープニングの曲のなかで、走り続けるマチュたちの最後尾にシャリア・ブルが混じっているのは至当なことだ。彼が本当の意味でイケオジになるのかどうか、そこにも注目しながら来週以降も楽しみに視聴します。
 
 

*1:断念しない親のもとで育った子どもは、ほとんどの場合苦労するだろう