新著が昨日発売されたので宣伝になりそうな文章を書いたほうがいいのだろう。が、そういう時に限って無視しづらいものが目に飛び込んでくる。
プラグスーツ模様の入った弐号機色ちゃんちゃんこ(惣流モデル/式波モデル)
— ym404 (@ym404) 2020年6月18日
殺してくれってなるな
— ym404 (@ym404) 2020年6月18日
今日、twitterで年の取りかたの話をしていた時、唐突にこのようなエアリプを食らった。クリティカルヒット。二つ目の「殺してくれ」というフレーズが惣流アスカラングレーの「殺してやる」という断末魔の呪詛と重なってダメージが大きくなった。キャラクターと自分が年を取っていく未来に毒饅頭を盛られたような気分になり、心は千々に乱れるのだった。
* * *
キャラクターには、年を取っていくタイプとそうでないタイプがいるように思われる。
惣流/式波アスカラングレーというキャラクターは、年を取っていくタイプのようだった。ちなみにもっと知名度の高いシャア・アズナブルというキャラクターも年を取っていくタイプだ。なぜなら、シャアというキャラクターはだんだん中年好みの発言をするようになり、中年向けの品物の宣伝に起用されるようになり、ファンと一緒に年を取っているように見受けられるからだ。
自分が思春期に愛したキャラクターが自分と一緒に年を取っていくのは、嬉しいことではある。もともと惣流アスカラングレーと私の年齢差は7歳だったが、式波アスカラングレーがいろいろあって14歳年を取った結果、2012年時点の年齢差は9歳になった。その後、エヴァンゲリオンというコンテンツ自体が古くなっていって、たとえば綾波レイや式波アスカラングレーのデザインされたシャンパンなどが売られるような風景も見かけて、私は「ははあ、アスカも年を取っていくキャラクターだな」という印象を強くしていった。新型コロナウイルス感染症で延期になった新作を観れば意見が変わるかもしれないとしても、とりあえず2020年6月現在、私のなかでは式波アスカラングレーというキャラクターは三十代前半、ひょっとしたら後半ぐらいの空想年齢になっている。
年齢が今の半分ぐらいだった頃、私はアスカというキャラクターに出会い、人生が変わった。「このキャラクターが人生を変えた」なんて言えるのは後にも先にも存在しない。だから私にとってエヴァンゲリオンを観るという行為は惣流/式波アスカラングレーの生きざまを見定める行為に他ならなくて、碇シンジの物語はおまけになってしまった。こういう歪んだエヴァンゲリオン観を持ったことを後悔はしていない。輝くような時間を得たのだから、歪みのひとつやふたつ、あって当然だ。
武器にしてもな、カッターナイフなんだよアスカ(弐号機)は。戦争で使うような獲物じゃねぇんだよ。思春期の女の子が教室で振り回すような儚い武器なんだよ。それが惣流・アスカ・ラングレーなんだよ。
— 小山晃弘 (@akihiro_koyama) 2018年10月23日
世の中には、こんな風にアスカのことを評する人がいるし、これはこれで間違っていない。確かに20世紀の惣流アスカラングレーには危うさが伴い、そこが好かれたり嫌われたりしていた。
それでもアスカというキャラクターはそれだけではなかった。生きることへの必死さがあった。歪んで未熟なキャラクター像ではあったけれども、生きることへの必死さを丸出しにしている点にかけて、他のチルドレンとは違っていた。なんやかんや言っても生きようとする意志の太いキャラクターだったと思う。
いや、きりがないな。
ただ、あのどうしようもなく生きあがく必死さが私は好きだった。たぶん今でも。
それにしても「プラグスーツ模様の入った弐号機色ちゃんちゃんこ(惣流モデル/式波モデル)」というフレーズはきつい。きつすぎる。
想像しただけで寒気が走った。
還暦を迎えたら、私は高齢者の仲間入りを果たす。人間の生殖年齢がせいぜい40代で終わることを思えば、60歳を人生の一区切りにするアイデアに私は賛成だ。その還暦に、プラグスーツ模様の入った赤いちゃんちゃんこを着ることなど、どうしてできよう。若い頃なら勢いで着れたかもしれないが、もう無理だ。だいたい、そんなことを今の式波アスカラングレーが望んでいるとは思えない。
「キャラクターがおまえの行為を望むとか望まないとか、何を言っているんだ?」
という人もいるだろうし、それは理解しているつもりです。
でも人生を変えたキャラクターと会話できないなんて、逆におかしいと思わないか?
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年を取るにつれて、惣流/式波アスカラングレーと私の間柄は変わった。はじめはきっとナルシシズム的対象選択の対象として、憧れの対象としてみていたアスカというキャラクターを、やがて私は人生の守り神として、思春期の記念碑としてみるようになっていった。
思春期の記念碑が、少しずつ遠ざかっていくのがわかる。それでも「プラグスーツ模様の入った弐号機色ちゃんちゃんこ」という忌まわしいフレーズを見かければ発作的に反応してしまう程度には、私の脳内にはまだ惣流/式波アスカラングレーが住み着いていて、ああだこうだと口出しする。私が還暦を迎えてもなお、彼女の声は聞こえるだろうか。たぶん聞こえるだろう。もう22年以上の付き合いなのだから、そんなに難しいことではあるまい。
あなたも、どこかのキャラクターの声が聞こえたりしますか。
そのキャラクターと一緒に年を取っていけそうですか。
願わくは、新作に出てくるアスカが無事でありますように。
ひいきのキャラクターのグチャグチャドロドロはもうたくさんです。
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