シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

はてなブックマークの多様性は、そんなに馬鹿にしたものじゃない

 
 はてブは井の中の蛙の集まり
 
 一時期、「はてなブックマーク」なんてロクなものじゃないと思っていた。誹謗中傷や名誉毀損は論外として、読解力皆無のコメントや見当違いのコメントを見かけるたび、うんざりさせられたからだ。
 
 リンク先も、しようもないブックマークコメントを並べる人々に辛辣である。

数あるエントリーに対して、多くの意見、多くの罵詈雑言、などなど。
ほとんどの人間が、今まで自分が見てきた世界=常識、だと考えてやまない人間ばかりだからこうなる。

http://anond.hatelabo.jp/20130724124254

 然り。
 
 狭量な世界観、偏った経験に依拠した書き込みが、はてなブックマーク上では無数にウォッチできる。はてなブックマーカーは多かれ少なかれ偏っていて、もちろん私とて例外ではない。あたかも偏った視点の展覧会のようだ。
 
 じゃあ、はてなブックマーク自体も偏っていて、全く参考にならないシロモノなのか?案外、そうではないと思う。
 
 例えば、こちらのブックマークには、『"叩いて構わない奴はとことん叩く"空気と、いじめの共通点』という記事に対して、実に様々なコメントが寄せられている。賛同もあれば批判もあるし、文意を踏まえたものもあれば、見当違いのものもある。玉石混交といえばそれまでだが、これだけ様々な視点や意見を、常時、通覧性の高いインターフェースでウォッチできるネットサービスが他にあるだろうか?
 
 リンク先の筆者は、

おめでたいよほんと。もっと世界は広い。
多くを見て学べば良いのに。

http://anond.hatelabo.jp/20130724124254

 と結んでいるが、そもそも、はてなブックマークのコメント一覧自体も、多様性に富んでいて、色んな人間の存在を予感させるものではないか。もちろん、はてなブックマークのユーザー層そのものが偏っているのは否定しない。それでもなお、これほど多様性に富んだコメントで賑わっている。
 
 少なくとも、「いいね!」ボタンしかついていないネットメディア、ネガティブコメントを片っ端から削除しているネットメディアなどに比べれば、はてなブックマークのコメントはバラけていることが多いし、バラけていることが仇となって「クソスレ化」してしまうリスクも無い。7割が賛同しているブログ記事に対してさえ、1〜2割程度は必ず否定や不快感や皮肉が表明されるはてなブックマークという“場”は、意見交換のアーキテクチャとして健全性が保たれているほうではないだろうか。ひとつの記事に対して色んな意見、色んな言葉が表明されるのは、本来、自然なことだ。
 
 確かに、はてなブックマークは「井の中の蛙」の集会場で、いつも好き勝手な事をゲコゲコ呟いている。個々の蛙達の健全性については、ここでは問わない。しかし、そもそも現代社会を生きる私達は、多かれ少なかれ「井の中の蛙」たらねばならないわけで、全ての分野で完全なコメントを書き込める賢者など存在しない。そして専門的で完全なコメントだけが大切かというと、私はそうではないと思う。
 
 専門外の人による素朴な感想の類も、的外れな批判も、それはそれで人間の声であり、そういう人間が娑婆に存在する証明みたいなものだ。そうしたコメントが消されることなく陳列されているお陰で、はてなブックマークのコメント一覧は、「色んな人間がいて、色んなことを考えている」「ネットの向こうに、自分とは相容れない人間がたくさんいて、話が通じないことを考えている」事実に思いを馳せるには好都合だ*1。正反対の意見が幾つも並び、玉石混交を呈しているアーキテクチャだからこそ広がる視野というのもあるのではないか。
 
 繰り返すが、はてなブックマーカーには特有の偏りがあって、これを社会の全景とみなすのは危険だ。また、はてなブックマークの100字制限が短文化を強いているせいで歪みが生じている部分もあるかもしれない。はてなブックマークを、完全無欠に健全なメディアだとか、理想的な意見交換の“場”だとか吹聴するのは、やめておこう。それでも、インターネットの「井の中の蛙」達が大集合し、多様性に富んだメンションが通覧できるアーキテクチャは、読み手にとっても書き手にとってもメリットがある、と私は思う。
 
 だから私は、このブログのはてなブックマークは原則として公開状態にしておく。そして、自分のストレスにならない程度に*2、時々ウォッチして勉強したい。
 
 はてなブックマークには、貴重なコメントだけでなく、しようもないコメント、うさんくさいコメントがひしめいている。かつて梅田望夫さんが語った「集合知」には程遠い。それでも、はてなブックマークには多種多様な人間が集まっているのである。そして人間界、娑婆世界とは、そのように多種多様な人間で構成されているのであって、賢者だけで構成されているわけではない。
 
 娑婆世界に色んな人間がいる以上、色んな意見、色んなコメントがあるのは当然のこと――その当然を常に意識させてくれる点では、はてなブックマークの賑わいも馬鹿にしたものではないんじゃないか。(株)はてなにおいては、スパム対策や誹謗中傷対策を怠らず、この一種独特のサービスを盛り上げていって欲しいな、と思う。
 

*1:しかも幸運なことに、はてなブックマークにはハンドルネーム(はてなID)が紐付けられていて、誰がどのような性向の発言を繰り返しているのかが、眺めているうちに段々把握できる仕組みになっている。このお陰で、はてなブックマークに慣れたユーザーは、単なるコメントの濁流を眺めるのではなく、「特定の思想信条を持った人のコメント」「特定の趣味領域に詳しい人のコメント」「特定の知的・心理的傾向を持った人のコメント」を区別しながら閲覧可能だ。「はてブお気に入り」機能が、こうした閲覧を強力にサポートしてもくれる。誰がどんなリアクションを呈しているのか、ある程度まで文脈に沿った把握を許してくれるのもありがたい。

*2:ちなみに、はてなブックマークを通覧する際のストレスってのは、批判=ストレス というほど単純なものではない。然るべき人物から然るべき批判があった時に、かえって勇気付けられることがある。どちらかといえば、不特定多数から賛同が寄せられ過ぎた時のほうがしんどいと感じる。このあたりについてはまた後日。