決断主義トークラジオAlive
東浩紀さんと善良な市民さん(宇野常寛:以下宇野さん)の対談ラジオをネット上でダウンロード出来るということで、今回聞いてみることにした。「動物化するポストモダン」をはじめとした恐ろしい文章を沢山書いている東さんと、「ゼロ年代の想像力」を呈示する宇野さんの話から、何かヒントが得られればと思い聞いてみたが、半分コントのような、半分シビアのような、とにかく聞いていて面白い話であった。
以下に、そのなかで印象と記憶に残った言葉、そして自分が思ったことなどを書き連ねてみる。ただし、以下はあくまで僕の記憶に残った断片であり、実際に喋った内容を正確にトレースできているものではなく、勿論、僕の選好に大きく影響を受けたうえで残ったであろう断片であることを断っておく。また、約二時間にも渡る内容のうえに、会話のスピードが速すぎてついていけなかったり疲れてメモをとるのをやめた部分もあったりするので、全体を満遍なく捉えた断片でもないことも断っておく。ちゃんと正確な内容が知りたい人は、やはりリンク先からラジオをお聴きになることをお勧めします。
- 萌えレイプファンタジーを楽しんでいるのはどの辺りなのか問題
(東)エロゲーみたいなレイプファンタジーを楽しんでいる、というのは誰?sirouto2さん、y_arimさん?あたりを指すの?
→(宇野)いや、その人達は違うと思いますよ。でも、はてな論壇にいるんじゃないか、というような回答。
- 東浩紀劣化コピーはどこにいるのか
(東)宇野くんの言う東浩紀劣化コピーはどこにいるのか?はてなのどこにいるというのか?ひどいブログ論壇とはどこにいるのか?
→(宇野)よくわからない。crow_henmiさん?だけど、レイプファンタジーな東劣化論壇は水面下にいるんじゃないか?
→(東)いないじゃん!
- Airは恋愛至上主義なのか?
(宇野)屈折した恋愛至上主義の一形態。強く恋愛至上主義に関連。
→(東)違うんじゃないか。
※自分は、少なくとも2000年にAirがリリースされた時点においては、かなりのところまで宇野さんの言うような、「恋愛の代替品」「ボクでも相手にしてもらえそうな女の子」としてのニュアンスをAirは引き受けていたんじゃないかと思う----当時の、第二〜第三世代オタクぐらいまでに関しては。ただし少なくとも2006年にAirのTV版が出た時期においては、より若い世代のオタクコンテンツ消費者(敢えて第四世代オタクとは書かない)にとって、ちょっと消費のされ方が違ってきているんじゃないかと疑う。例えば、思春期以降、第二次性徴を超えたリアルなクラスメートの女の子に接触するよりも早くから萌えキャラ女の子を仰山頬張ってきた男の子においては、「二次元のほうが三次元よりも女の子」とか「二次元を三次元の代替品とするよりも、むしろ三次元の女の子を二次元として消費する」(例えばコスプレとか、女子高生という記号を消費した援助交際とか)といった現象がいよいよ進行しつつんじゃないか、と思う。現状、(もっと上の世代のオタ達も含めて)「三次元の代替物としての二次元」という一方向だけに留まらない方向に一層傾きつつあるという疑いを拭うことは出来ない。
- 超越性を諦めてるクラナドはやばい!?
(東)Airは、曲りなりにも超越性を求めるという方向性があったと思うけど、クラナドにはそういうものが無い。そういう意味で、クラナドは結構ヤバい作品だと思う。「若い頃にやっていた夢を諦めても、それでも街のなかでやっていこうね」感がある。これってヤバくて、discourageっぽいんじゃないのかな。超越性って、欲しくね?
→(東&宇野)他人に迷惑さえかけないなら、勝手に個人が満たすのはいいんじゃない?
- コミュニケーションと恋愛の問題
(東)コミュニケーションと恋愛の問題は、等価だと思う。恋愛とコミュニケーションの問題を、宮台さんは語り続けている。70年代ぐらいまでは、結婚と恋愛とは関係が無かった。本当は結婚と恋愛の問題はもともと違った。でも、80年代あたりから、それが一緒になってきて、そういった変化に女性のほうがいち早くadaptした。それで宮台さんは、男も早くadaptしろと言った。色んな人間とコミュニケーションしていくなかで、より良い異性をゲットしていくというのは、かなり限定された短い時代の話と思う。恋愛=コミュニケーション=人格という恋愛至上主義的な傾向は、普遍的なものじゃないと思う
→(宇野)各々の能力によって付き合える相手が変わってくる、というのは本当にあると思う。
→(東)だけど、異性をとっかえひっかえしたりチェンジすれば良い相手を選べる、というのは珍しいことなんじゃないか。幾らやってもそんなに良い相手良い相手とはいかないと思う。
※女性の場合は、とっかえひっかえ「しない」というのも一つの戦略で、恋愛至上主義的傾向のなかには「深窓の令嬢戦略」も含まれていると思う。“藁しべ長者を夢見る戦略”をもって恋愛というのは、かなり狭い範囲の恋愛戦略の話なわけで。例えば、最近の若い女性はもっと堅実で、「とっかえひっかえ」戦略をとることは幾らか減少しているらしいけど、これをもって「ポスト恋愛至上主義へのadapt」などと読み取るわけにはいかないんじゃないかなと思う。「とっかえひっかえしないでvalueを守りながらパートナーをコミュニケーションを通して探す」ってのもアリだし。あと、お見合い云々とはいうけれども、たといお見合いや嫁の譲与の風習のある文化圏においてさえ、嫁の選好が少なからず配偶に影響を与えているという(比較的新しめの)スタディを軽視するわけにはいかないんじゃないのかな、とも思う。女性側の選択基準は文化的に幾らかのブレはあるにせよ、嫁になるべき女性達は常に男を選んでいるし、その際に、恋と呼ぶべきか発情と呼ぶべきか分からない感情がドライブするということは、やっぱり忘れるわけにはいかない。雌と雄の選び選ばれから、そう簡単に人間は逃れられまい。
- 神尾観鈴は女の子か、ボク自身か
(東)自分のことを美鈴ちんだと思っている奴は、いっぱいいるんじゃないの?美鈴を女の子としてというよりも、自分自身の似姿としての美鈴。ジェンダートラブル。
→(宇野)いや、Airの消費者は(女の子を食べたいという意味の)弱い肉食恐竜で、恋愛なんて要らないという草食恐竜じゃないでしょう。
- 惑星開発委員会を読むとモテるのか?
(東)宇野さんの本を読むとモテるのかモテないのか?
→(宇野)モテますよ!
→(東)これはすごい発言ですよ!ネットに残りますよ!
(この後、東さんは繰り返し、宇野さんの本を読めばモテる、と発言。詳しく聞きたい方はラジオをどうぞ)
- 東浩紀読者は酸っぱい葡萄??
(宇野)東読者の屈折した恋愛観が問題なんですよ!
→(東)それは宇野くんの妄想なんじゃないんですか?東浩紀読者で、本当は(恋愛などについての)酸っぱい葡萄読者はどこにいるんだ!具体的にはどこにいるのよ?具体名出してよ!
→(宇野)sirouto2じゃ?
→(東)それ、siroutoさんに失礼だよ!謝れよ!『萌え理論blog』やりながら、実はリアルで恋愛どんどんやってるかもしれないし、それは分からないことでしょ?
(中略:sirouto2さんのIDを前半の東さんのコメントから知った、とのこと)
→(宇野)彼らは三次元に行きたいけれども、代わりに二次元やってるんですよ。
→(東)どうなんだろうね?
- 宇野さんは「誰の代弁者なのか」という問いかけ
(東)整合性の担保を、宇野さんはどこでとっていくのか。それと、誰の代弁者として宇野さんは文章を書いていくのか。僕はオタクが好きとはいえないけど、秋葉原に行って彼らといると、彼らが支えになってると確かに感じる。そういう「誰の意見を代弁していくのか」が宇野さんに無いと、垂れ流しになって堕落しちゃうんじゃないのか?宮台さんなら援助交際の女の子がそうだったし、僕(東)は萌えオタを代表したわけだ。自分はこれを書くべきだという「べき」を、どこら辺に求めて担保にしていくのか?
(東)『ゼロ年代の想像力』に書いたことと今後も一貫性を持たせていくための根拠が外側にないと、厳しいんじゃないか。それが無いと書き続けることは大変になると思う。完全に自分の自由に書く、というのがとても難しいことだと思う。力を持つのは、何かにコミットすることだと思う。
(ここで、ちょっと大塚さんっぽいなぁハハハ、と付け加えた東さん)。
- ネットで厨房がデスノート、な問題
(東)ネットでは、誰もが被害者になり得るというのはある。だけどそれだけじゃなくて、ネットが誰もが加害者の問題になるというのも結構恐い。ネットリテラシを子どもに覚えさせようという話がある。子どもが被害者となる前提を踏まえるというのがあるけど、逆に、子どもが加害者になる可能性を考えるとどうなのか。13歳ぐらいにフリーアクセスを与えるとしたら、どうなっちゃうのか。「あんな奴らにデスノートを渡したらどうなるのか」みたいなことが、ネットでは起こっている。
→(宇野)「デスノートがあったらバンバンつかうぜ」って連中がいるわけで、ネットイナゴなんかもそうだけで。ライトにデスノートを与えるのか?与えないのか?それはある程度の制限を要するんじゃないのか。
→(東)ここでいう「弱者」とは何なんだろうか。例えば今、高齢犯罪が今増えている(人口動態抜きにしても)。これまでは、高齢者というと被害者になることしか考えられなかった。ところがこれからは、高齢者が加害者になる可能性もある。弱者の加害性を、これから考えなければならないのではないか。
- 中学生がハルヒ読んだら、向こうの世界に行けないことに憤慨するんじゃないのかという指摘
(東)「ハルヒを読んだら、なんで俺のクラスに宇宙人がいないのかと思うね、俺が中学生だったら。うる星やつらをみていた当時の俺は、そう思ったよ。」「現実なんてつまらないよね、みんな!現実はつまんねよね!」
※面白い指摘。一見すると荒唐無稽だが、メディアコンテンツにここまで曝され続けて育った僕ら、とりわけもっと若い頃からオタクコンテンツ大氾濫のなかで育ってきた僕らの世代にとって、ハルヒの世界と“つまんねえよね!”と言い切られてしまう現実とは、一体どういう関係になっているんだろうか。そしてもし、萌えオタ等において、ハルヒやみくるや長門さんのほうが“現実よりも経験豊富な世界”として体験され、むしろ現実のほうを二次元に落とし込むような把握の構図が出来上がっているとしたら、「三次元>>二次元*1」という範疇的なモノの見方では、状況を捉え損ねるかもしれない。
そのほか、今回のラジオを聞いていて感じたことを幾つか。
- 東さんの突っ込みが早口で、聞くのが結構大変だった。もっとゆっくり喋ったら聞き易いのになぁと思った。ただ、語るべきところでトーンをゆっくりにしていたから、あの早口は対談戦術的なものと理解することにした。
- 宇野さんもしばしば早口だった。早口合戦はトークとしてはスピード感があって良いのかもしれない。ただ、ラジオで独り聞く身にはリスニングが大変。
- 宇野さんも東さんも、例えば「宇野さんは○○派か?」とかいうのに言及することが多かった。そういうのを論壇的とか、ポジショントークとか言うのかな?自分にはよく分からないし、名前が挙がった人達の半分も自分は知らなかった。誰を参照項としながら、誰の理論をバックボーンにしながら新しい見解を展開していくのかを示すと、リスナーは分かりやすいというのは重要なところだと思う。ただ、リスナーの理解を助ける為に「宇野さんは○○派か?」という話題が展開されたのか、ちょっと疑問に感じた。でも、そういうの好きな人は好きなんだろうな。
- 東さんは、要所要所で鋭いことをいうだけでなく、要所要所で知識のバックボーンをちらつかせているようにもみえた。「勿論分かっているよねウフフ」みたいな顔してたんだろうか。そんなことはあるまい。ないない。
- トークのなかでどちらかに言及されたはてなID:crow_henmiさん、kagamiさん、sirouto2さん、y_arimさん、あたりが、登場したように記憶しています。
- これが生で喋る東さんなのか。頭の回転は速い。トラップの仕込みも手早く自然で、しかも用意したというよりは即席でソレをやっているっぽい感じがした。立場も知識も、必要な時に必要なだけ切り出して投入するような戦術家(勿論戦略家でもあるだろう)。戦慄する。だけど嗚呼、このおっかない人にメロメロになってしまいそうだ。会ってお喋りしたらゾクゾクするんだろうなぁ!今回、心底宇野さんが羨ましいと思った。第一回の決断主義トークラジオも、聞いてみたいところ。
とにかく
とにかく勉強になりました。色々な方面と、色々な意味で。両者の言葉の端々から漏れ出てきたヒントを御馳走になりました。お二方の今後の活躍をお祈りします。
*1:或いはリアル>>シミュラークル