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シロクマの屑籠

はてなダイアリーから引っ越してきた、はてな村の精神科医のブログです。

毒舌は危ない香辛料で、濫用すれば因果が回ってくる

 
 優等生が言ってることはつまらない - Hagex-day info
 
 インターネットじゅうのゲスい文章や悪徳ブロガーに目を光らせているネットウォッチャーのhagexさん。彼がリンク先でこんな事を言ってました。
 
 「優等生の言ってることはつまらない。」

 「毒舌は面白いし人の心を動かせる。PVを稼げるよ。」

 「ネットの良いところは自由に本音を書けることだ。」

 「善の部分だけ見ていてもつまらないし、本質が理解できない。」
 
 「上手に毒舌を使いこなせるブロガーになろう」「嘘が無い、ホンネで語れるインターネットをやりましょう」みたいに読めますね。でも、その毒舌が祟って炎上し、ホンネで語ると称して業火に焼かれるネットユーザーが後を絶たないのですから、こういうメフィストフェレスめいた文章にそそのかされてはいけません。
 
 そもそも、このid:hagexさんという御仁は、東に恥知らずのブロガーがいればweb魚拓を取りに行き、西に毒舌コントロールに失敗して魔女化した魂があれば喜々として収拾する、そういうネットウォッチャーであります。そのネットウォッチャーが毒舌を推奨し、あまつさえ「ドス黒い感情がネットにしみ出しており、これを見るのは大変楽しい。なぜならとても純粋な感情だからだ。嘘がない。」「魂をグラインダーで削ったコメントを私はたくさん読みたい。」などと言っているのですから、翻訳するなら「おまえたち、毒舌やホンネと称して魂の汚れを吐き出してみせろ。その人品を欠いたクソの山を、俺様のエネルギー源にしてやろう ゲスゲスゲス……」といったところでしょうか。
 
 あれですよ。ちょっと前に、初心な少女に契約を勧めて、清らかな魂を堕落させてエネルギー源にする邪悪な小動物が出てくる深夜アニメがあったじゃないですか。
 

魔法少女まどか☆マギカ キュウべぇ くたくたぬいぐるみ

魔法少女まどか☆マギカ キュウべぇ くたくたぬいぐるみ

 
 今回のhagexさんは、あの邪悪な小動物に似ています。初心なネットユーザーに毒舌を勧め、清らかな魂を堕落させ、あわよくば『Hagex-day.info』のネタにする――そこまでいかなくとも、毒舌に溺れて転落していくネットユーザーを精神エネルギー源にしてツヤツヤしたい欲求が存在しているのでしょうから。日頃の発言を参照する限りでは、hagexさんはそうやって駆動しているネットウォッチャーの筈です。
 
 hagexさん自身が卓越した毒舌の使い手だからでしょうか、リンク先の文章には、自身が責任を負わなければならないような修辞はみられません。「僕は毒舌が見たい」「これを見るのは大変楽しい」といった具合に、主観調で文章を綴って煽っているので、ハーメルンの笛吹きとして糾弾されるリスクは巧みに回避しています。
 
 いやー、こういうレトリック運びを見るとゾクゾクしちゃいますね!レトリックの効果とリスクを天秤にかけながら、用心深く文章を綴っている手つきが透けて見えるようです。だからこそ、今回は「ずるいな」とも感じました。たぶん、hagexさんは「毒舌を使いこなすには一定以上の修練とウィット、なにより用心深さが必要だ」と心得ていらっしゃる筈です。にもかかわらず、リンク先にはそういう事はちっとも書いてなくて、PV術のひとつとして毒舌の効能を披瀝した後で「毒舌が見たい」と願望を述べているのです。
 
 hagexさん、このあたり全部承知したうえで書いてらっしゃるんでしょう?
 
 hagexさんのような、用心深いレトリックを使いこなす人物が毒舌をも使いこなすのは納得できることですし、御自身がレインボー毒舌を使いこなすことに異論はありません。PV術としての毒舌の効能も認めるところであります。けれども毒舌は修辞術にしっかりとした意識とノウハウを持った人間でなければ使いこなせない、危険度の高い技法でもあります。もっと言うと、あの文章を読んで「そっかー、毒舌を織り交ぜたほうが面白いんだなー」なんて鵜呑みにしちゃうようなイノセントな人には毒舌なんて使いこなせるわけがないので、結局のところ、あの文章は初心なネットユーザーを毒舌のダークサイドに引きずり込む以上の効能が無いと思わざるを得ないのです。
 
 

毒舌は香辛料だ、それも、カルマの汚れやすい香辛料だ

 
 文章を料理に喩えるなら、毒舌やブラックな発言は、生姜や唐辛子みたいな、刺激の強い香辛料のようなものだと思います。使い方次第では料理の隠し味になるし、風味を強めれば、そういうフレーバーを好むリピーターを集めることもできます。だから、毒舌を自家薬籠中にしている人は文章の音域を広げられますし、この点、毒舌がレシピに含まれていない“優等生”が“面白くない”のは確かです。
 
 ですが、生姜や唐辛子の用法・用量を間違えると料理を台無しにしてしまうのと同じで、毒舌も、程度が過ぎれば文章の魅力を台無しにしてしまうものです。世の中に激辛愛好家がいるのと同じように、なかには毒舌の烈しい刺激を求めてやまない読み手もいるでしょう。それでも、平均的な人は毒舌のキツすぎる文章には辟易させられるでしょうし、あまりにも汚い毒舌ばかり使っていると、心ある読者は離れてしまいます*1
 
 そもそも、毒舌はあくまで香辛料で、肉や魚のようにメインディッシュがつとまるようなものではありません。毒舌ばかり垂れ流して、それが自分の魅力だと思い込んでいる人は、香辛料だけで人を魅了できると思っている馬鹿なコックみたいなものです。
 
 それと、世の中には「どんな手段であれ、PVはPVだ」などとのたまう脳天気な御仁もいるようですが、私はそうは思いません。そのPV100万は汚れたPVなのか?もう少し程度の良いPVなのか?PVの内実は、問われないようにみえて不断に問われているものだと思いますし、PVが増えれば増えるほど、その人の人徳・業・“悪い子レート”となってついてまわるものだと思います。不用意な毒舌の乱発は、こうしたPVの汚れ、アカウントのカルマを悪化させる一大要因になります。短期的には問題にならなくても、長期的にはアカウントにこびりつき、真綿で首を絞めるように苦しくなってくるでしょう。だから毒のある発言は、十分な注意を払い、管理できる範囲で少しずつ用いるべきです。
 
 あと、毒舌を自分自身に許しすぎると、自分自身の魂が堕落すると思うんですよ。これはアカウントを消しても消えない、ずっとついてまわる負の遺産です。毎日毎日毒舌を垂れ流している人は、自分の魂を毒舌で塗り固めているようなもので、ここで“繊細チンピラ”として紹介されているようなルサンチマンまみれのネットライフも、そういうのを何年も何年も続けていけば、骨の髄までルサンチマンに侵されてしまうでしょう。毒舌にしろ、ルサンチマンの吐露にしろ、汚い言葉を繰り返し発する者は、いつしか言葉に呑み込まれ、自らを堕落させてしまうのです。それは、良いことではありません。
 
 以上から、毒舌をレトリックの一技法として用いる者は、相応の注意深さをもってこれを取り扱うべきと思います。個人的には、私も毒舌レトリック大好き人間ですが、これを魅力と呼べる水準で、しかもセーフティーに使いこなせる書き手はそれほど多くないと感じます。そもそもネット黎明期以来、自称毒舌なアカウントが長続きした試しなんてあまりないわけで、取り扱いに失敗して真っ黒なヨゴレキャラクターと成り果てたり、炎上や閉鎖に至る人のほうが多い、という印象です。
 
 冒頭のhagexさんなどもそうですが、本当に毒舌を使いこなしている書き手は、一見、無思慮に放言しているようにみえて、実際には毒舌の使いどころを恐ろしく慎重に見極めていて、ここぞというタイミングで・これぞという毒舌を放っているように(私には)見えます。一方、短命の毒舌アカウント達は、乱暴で無思慮に毒舌を書き殴り、悦に入っているように見えます。前者は学ぶに値し、後者は一顧だにする必要もありません。それなり毒舌を使いこなしながらネット上で長生きしているアカウントには、必ずなんらかの秘訣と技術が潜んでいるものなので、そういう書き手の、乱暴にみえて繊細なレトリックの手つきこそ、学ぶに値するものだと思います。
 
 そして、毒舌を吐いて汚れた自分の魂のケアには、くれぐれもご注意を。“芸”と称して言葉に呑まれてしまっては、なんにもなりませんからね。
 
 

*1:それか、「こいつは汚れアカウント」というレッテル越しにしか眺めなくなってしまいます