シロクマの屑籠

はてなダイアリーから引っ越してきた、はてな村の精神科医のブログです。

「俺が不幸なのは○○のせい」という自己欺瞞ライフハック

 
 
 音楽趣味やオタク趣味が未熟なんじゃなくて、貴方が未熟なんじゃないんですか? - シロクマの屑籠
 
 この記事はともかく、「俺が不幸*1なのは○○のせい」という自己欺瞞ライフハックは、ネットの内でも外でもかなりの頻度で遭遇する。実際、「○○という原因のせいで俺は不幸なんだ。不遇なんだ、○○さえ無ければ俺はhappyだった筈なんだ」という物言いは、○○以外の自分自身の問題から目を逸らせるには優れたライフハックといえる。
 
 例えば「俺がモテないのはエロゲーオタだから」という物言いをする人がいるとしたら、その人はエロゲーオタであること以外には問題は無い、と思いこむことで、エロゲーオタという自分自身の属性以外のすべての自分自身の問題から目を逸らせることが出来る。エロゲーオタというたった一つの属性に原因の所在を転嫁し、他の問題は一切不問に付すことで、ある種の安心感を得ることが出来るのだ。
 
 しかしこの場合、彼がエロゲーオタをやめることはまず無い。むしろエロゲーオタという属性を悪し様に罵倒しながらもエロゲーオタを続けることこそ、このライフハックにおいては重要なポイントになる。なぜならエロゲーオタをやめてしまったら、自分がモテない理由なり不遇な理由なりに、改めて直面しなければならないからだ。自分自身の不遇をエロゲーに責任転嫁して安心している人が、エロゲーオタをやめてわざわざその構図を駄目にしてしまう筈が無い。「そんなに嫌なら、エロゲーやめれば?」などと言うと、この人達は口ごもってしまうか、やめられない根拠を強く主張する*2
 

事例

 
 1.「俺が女の子と付き合えないのは、顔面障害者だから」
 自分が異性と交際出来ない苛立ちを、自分の顔面、特に顔面の形態のせいにするライフハック。特に男性の場合、顔面の形態なんてものは、異性と交際できるか否かのほんの一部分のファクターでしかない。出会いの多寡・性格・表情の豊かさ、などなど様々な要素が複雑に絡まって、一個人が異性と交際するかどうかが決まってくるし、本当に異性との交際について考えるなら、そんな短絡的な一元論に飛びつくほうが本来どうかしている。しかし、こういった物言いはネット上では珍しくない。
 
 
 2.「俺が皆に差別されるのは、世間に根強いオタク差別のせい」
 これもかなりひどい自己欺瞞といえる。例えば女性スタッフの多い職場にきわどい美少女フィギュアでも飾っている人が、「俺が陰口を叩かれるのは、オタク差別のせいだ」などと言う場合、彼がオタクだから陰口を叩かれているという理解は一面的に過ぎる。それ以前の問題として、女性スタッフの多い職場にきわどい美少女フィギュアを持ちこむに際して何の予防策も講じない、という感性のほうが問題視されている可能性なども、検討されて然るべきなのだ。または、食べこぼしのスナック菓子がゴキブリの餌になっている事のほうが問題なのかもしれない。だが、自分自身の問題に目を触れずに済ませたいだけなら、「全部オタク差別のせい」に責任転嫁しておけば問題ない。
 
 
 3.「俺が職場で評価されないのは、誰それの陰謀のせい」
 時には本当に誰かの陰謀のせいで頭を押さえつけられている、という事も無くはない。だがこの手の陰謀論が、あらゆる角度からみて評価されそうにないような人の口から出ることがある。文句は人一倍言うけれども自分の手足を動かすのは大嫌い、人付き合いも悪く、いつも猫背で、ピントのずれた事ばかり言っている人が、「誰それの陰謀さえなければ、俺も出世出来るのになぁ」などとスナックのママにぼやいているのを耳にすると、ああ、この人は陰謀のせいにでも責任転嫁していないと、やってられないんだろうなぁと思わずにはいられない。
 
 

自己欺瞞ライフハックは、自分自身に対してしか効果が無い

 
 なお、この手の自己欺瞞ライフハックは、自分自身を騙して安心するには十分でも、それを耳にする周囲の人達の考えを変えるには全く向いていない、ことは付け加えておく。むしろこんな自己欺瞞に溺れてばかりいると、「ああ、やっぱりこの人は駄目なんだな」という冷ややかな視線をいっそう集めかねない。殆どの場合、この手の自己欺瞞は他人からはミエミエなのだ。もし、この自己欺瞞ライフハックを使って他人の目もごまかせると思いこんでいる人は、“頭隠して尻隠さず”という格言を地で行くことになってしまうだろう。
 
 大体から言って、たった一つの属性や原因だけのせいで、不幸やらモテ非モテやらが語れるはずがないのだ。人にはいろいろと心の都合というものがあるので、確かに一つの要因に責任転嫁せずにはいられない状況というものもあるし、そういう人には「俺が不幸なのは○○のせい」という自己欺瞞ライフハックも有効だろう。しかし、自分自身の目隠しには向いていても他人には効果の無い、そういうライフハックだということは心得ておかなければならないだろう。そして目隠ししているだけでは自分自身に潜んでいる、もっと多様な問題からは遠ざかってしまうのである。
 
 

 ※補足:私はこのエントリを通して、republic1963さんの処世術がこのライフハックに則っていると言いたいわけではありません。ですが、このエントリはみようによってはrepublicさんがそうであるという誤解を誘導しかねない文面であると感じました。これは、私の配慮不足だったと思います。もっと、誤解を招きにくい表現を選ぶべきでした。
 
 republicさん、すいませんでした。今後気をつけます。
 

*1:不幸、の代わりに[もてない男][ニート]などといった語彙を当てはめてもOKです

*2:この、相手に対してというより自分自身に対しての主張に失敗してしまうと、彼の自己欺瞞がつぶれてしまうので、うんうん、と聞いてあげるぐらいのほうが彼は喜んでくれるかもしれない。