シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

自販機で210円のモンスターエナジーをありったけ買ったら脳汁が出た話

 (この文章はステルスマーケティングではありません)
 
 
昨日、ちょっと良い出来事があったのでそのことを書いてみたい。
 
良いことといっても、くだらないことだ。しかし人間はくだらないことで嬉しくなったりするものだ。起こった内容はタイトルに書いたとおりだ。意外に興奮してしまったのである。
 
私はそれを所用からの帰り道に発見した。週の後半、普段はやらなくて良い所用にくたびれていた私は、吸い寄せられるようにコンビニに寄り道しようとしていた。歩く距離を減らしつつコンビニに寄るためには、いつもは通らない県道を通ったほうが早い──そう判断した私は、ちょっと細めの県道をテクテクと歩き始めた……のだが。
 
その途中、信じられないものを見た。
いつも自動販売機の右上に鎮座しているモンスターエナジー、その値札が210円になっていたのである。
 

 
モンスターエナジーは我が家の御用達エナジードリンクだ。過去数年間、ZONeやレッドブルと競り合った結果、我が家の全員がモンスターエナジーを選ぶようになった。カフェインなどの効果の良し悪しについては正直よくわからない。が、全員、モンスターエナジーのまったりとした風味と舌ざわりの虜になってしまったのである。ただ、カフェインの多すぎる飲料には違いないし、値段も安くない。だから全員、週に一度しか飲んではならない決まりをつくって愛飲している。
 
そのモンスターエナジーが210円で売られていたんですよ、奥さん!
 
財布にはわずかばかりの小銭を除けば五千円札と一万円札しかなかった。さあどうする? 私はコンビニに向かった。コンビニのレジでピンク色のモンスターエナジーを差し出して、おつりを作った。230円。モンスターエナジーの良いところはコンビニでも自販機でもネット通販でも値段が変わらないことだ。おつり目当てにコンビニに入った時は、モンスターエナジーを買っておけば損することはない。
  
しかし逆に言うと、モンスターエナジーをその230円より安く買える機会は滅多にない!
 
どれだけまとめ買いをしても、モンスターエナジーを割引価格で入手することはできない。コンビニや自販機で買っても損をしないとは、そういうことである。だが今日は違う。100m戻ったところにある自販機が幻でない限り、そのモンスターエナジーが210円で買えるのだ。疲労が吹き飛んだような気がして、弾むように自販機に戻った。もう一度、自販機の右上の定位置に鎮座するモンスターエナジーと、その値札を見る。210円。見間違いではなかった。そろそろと千円札を入れ、赤く点灯したモンスターエナジーのボタンを押す。ガコンガコン! モンスターエナジーの缶が勢いよく出てきて、おつりがしみったれた音を立てながら吐き出されてきた。とりあえずおつりを勘定してみる。790円。看板に偽りなし! ここのモンスターエナジーは本当に210円ですぞ!
 
ヒャッハー!
 
さっそく210円を突っ込み、もう一度ボタンを押す。ガコンガコン! テンションが上がってきた。いちいちバッグにしまうのも面倒だから、自販機の前にモンスターエナジーを並べることにした。三本目。ガコンガコン! 四本目も! ガコンガコン! 釣りきれボタンは点灯していない。まだいける。それにしても、自販機で同じものを買い続けるのって楽しいんですね。お金を入れてボタンを押すたびにガコンガコン! って景気の良い音がして目当てのものが出てくるのだから、スロットマシンでアタリを当て続けている時に似た喜びがある。そしてガコンガコン!というたびに私は20円得をしているのだ。おれは今、ショッピングを楽しんでいる!
 
そうして五本目を買ったところで若者がとおりがかり、足を止めた。「あなたもモンスターエナジーを?」思わず訊いてしまった。「いえ……」と答えてそそくさと立ち去っていく若者。そうか。中年がモンスターエナジーを買い続け、自販機の前に並べているさまが奇妙に見えたに違いない。しかし値札までは見なかったに違いない。見ていたらあの若者も「おれも買います!」と言い出していただろう。
 
結局七本目を買ったところでモンスターエナジーに「売り切れ」のランプがついてしまった。並んだモンスターエナジーをバッグに詰めて、私は家路についた。やってやったぜ、とか、ざまあみろ、といった感情がはらの底からこみあげてきて、何かに勝ったような気持ちになった。HAHAHAHAHA……。
 
 

なにがそんなに気持ち良かったのか

 
振り返れば、しようもないことである。私が得をしたのはたった140円だけ、週に一度のモンスターエナジーを控えればそれ以上に節約できるだろう。ワインだなんだを控えればもっと節約できるに違いない。
 
いや、額が問題ではなかったのだろう。
 
モンスターエナジーは我が家では生活必需品のような扱いを受けている。米や小麦ほどではないにせよ、卵やバターと比べてもおかしくはない、必須アイテムだ。そのくせちっとも割引しない品が20円引きで売られていたから、テンションが上がったんじゃないかと思う。
 
それと自販機。
Amazonなどでまとめて買うのと違って、自販機で買う時には手間がかかる。お金を入れて、ボタンを押して、するとモンスターエナジーが出てきて……という手順を繰り返す。この場合、その手順とガコンガコン!って音が病みつきになった。モンスターエナジーが出てくるたびに20円もうけたという感覚、いつ売り切れボタンが点灯するかわからないハラハラ感も良かった。帰り道に、モンスターエナジーでいっぱいになった重たいバッグを運ぶ体験もまた良い。
 
そんなわけで、モンスターエナジーを愛飲している人は自販機をじろじろ見てみると良いかもしれない。そして何かの間違いで210円で売られているモンスターエナジーがあったら、どしどし購入しよう。お値段以上のテンションが得られること請け合い。