シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

それでもwikipediaは楽しい

 
 日本語圏のwikipediaを悪く言う人がいます。
 
 曰く、間違いだらけだ、サブカルチャーに記述が偏っている、英語圏に比べてガッカリ、などなど。でも、暇つぶしや知識の幅を広げる入口としては、まだまだ最高・最強ではないでしょうか。
 
toya.hatenablog.com
 
 上掲は、一年ほど前に書かれたwikipedia沼についてのブログ記事ですが、挙げられている項目を読むにつけても、やっぱりwikipediaは侮れない……少なくとも読み物として面白いと思わずにいられません。やっぱり読みましょうよ、wikipedia。
 
 
・手軽で膨大。「だから全部読め」「全部読めって言ってるんだよ!」
 
 wikipediaには長所がたくさんありますが、検索上位に引っかかるのもそのひとつです。最近は、わけのわからないサイトに負けていることも増えましたが、それでも検索上位に位置していて、「簡単に検索できる」のはありがたい。そのくせ、あらゆる学問、あらゆる遊び、あらゆる人やモノについて書かれているわけですから、やはりwikipediaはインターネットの遺産のひとつと思わずにはいられません。
 
 wikipediaには間違いが含まれているというのは事実ではあります。
 その一方で、あらゆる事物を浅く読んでみるにのに最適なのも確かです。

ロバート・バーンズ・ウッドワード - Wikipedia
日本語 - Wikipedia
シャルル6世 (フランス王) - Wikipedia
 
 今日は科学者、今日は日本語、今日はフランス王朝について……とやっていくと本当にきりがありません。特定ジャンルの浅さや不正確さについて難癖をつける人はいても、「ジャンルが狭い」と馬鹿にする人は見たことがありません。日本語圏に集積した知識について、広く浅く目を通すのにwikipediaほど優れたメディアが果たして存在するでしょうか。
 
 そしてつまみ食いするより通読するほうがwikipediaの知、広く浅い知は広がります。たとえば元素記号をひとつふたつ取り出して読むのでなく、遷移金属を片っ端から読んだほうが面白く、そこからハイパーリンクを行き来して関連項目を力尽きるまで読むのは趣があります。
 
Category:遷移金属 - Wikipedia
瑞祥地名 - Wikipedia
Category:城下町 - Wikipedia
近い恒星の一覧 - Wikipedia
Category:日本国有鉄道の新性能電車 - Wikipedia
Category:古代ローマの独裁官 - Wikipedia
 
 
 wikipedia沼には、「深い」というより「広い」という言葉が似合います。ハイパーリンクのおかげで、その広大無比な沼を行ったり来たりできるのが最高です。ハイパーリンクは人類の遺産、辞書に比べて関連項目が調べやすく、興味の幅を広げられるのがありがたいです。
 
 wikipediaを過小評価している人は、たとえば日本語版wikipediaの30%でも通読したのでしょうか。自分自身の専門分野や得意分野だけをみれば、確かにwikipediaには「深さ」が足りなかったり「正確さ」が不十分だったりするでしょうけど、そうではなく、その「広さ」に着眼して手当たり次第に全部読んで、片っ端から憶えてまわることに意味はないものでしょうか。
 
 専門分化が進んでいる現代社会では、広い知識にメリットは無い、と切って捨てる人もいるでしょう。それはそれでわかる話です。それでも、「全部読む」とまではいかなくても「極力全部読んでみる」を心がけた時、wikipediaの知の広さは馬鹿にしたものじゃあないと私は思います。究めれば、昭和時代の「博士くん」どころじゃあないはず。
 
 
 ・間違ったっていいじゃないか、入り口だもの
 
 むろん、wikipediaをソースにしてレポートを提出したり責任のある仕事をしたりして構わないわけではありません。wikipediaの長所は「深さ」や「正確さ」より「広さ」なのですから、深さや正確さを求められる場面ではあてになりません。
 
 「広さ」がウリで、検索エンジンにも拾われやすいwikipediaだからこそ、初学者が興味を持ち、読みまくって「広さ」をとりあえずで確保するために用いるのが良いように思われます。
 
 レポートや仕事に用いないぶんには、間違ったっていいじゃないですか、入り口だもの。インターネットには、鬼の首を取ったように間違いを指摘したがる人々がいるので、彼等の言葉に耳を傾ければwikipediaの短所もある程度は補われます。ですから、彼等をあてにしながら読み進めればいいのです。たとえば、八百屋のオヤジがwikipediaを読み漁り、徳川将軍家について不正確な部分を含んだ知識をインストールして、後から間違いを指摘されたとしても恥ずかしいこととは思えません。読まないよりは読んだほうがいい。
 
徳川将軍家 - Wikipedia
 
 そして本格的に調べたいとか、レポートや仕事に用いたいと思った時にこそ専門書をあたるべきで、wikipediaの「広さ」は、素人がその専門書を読みこなすための下地をうまく提供しているように思います。また、脚注の項目にはリファレンスした専門書や専門家の名前が並んでいるので、そこを調べれば意外に「深い」ところまで辿り着くヒントになることもあります。
 
 いまどきは、教養は死んだという言う人もいて、それはそれでわからない話ではありませんが、ほらそこにwikipediaがあるじゃあないですか。wikipediaの「広さ」は、教養を面制圧するにはすごく向いていて、しかも、必要な箇所を深堀りするためのヒントすら散りばめられているのだから、もっとみんなwikipediaを読んで楽しんでいいと思うし、wikipediaはもっと読まれてもいいように思います。
 
 ちょっと疲れてきたので、今日はこのへんで。