シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

違和感を与えない脱オタクファッション――「服の独り歩き」を避けるための心得

 
 
 

脱オタクファッションガイド 改

脱オタクファッションガイド 改

 
 オタクのためのファッション入門書『脱オタクファッションガイド』が、新しいバージョンで再出版されるらしい。
 
 オタク界隈全体がカジュアル化したことも手伝ってか、最近はコミックマーケットや同人ショップでも、なかなかオシャレな服を着た男性をみかけるようになってきた。控えめに言っても、オタク界隈のファッション平均レベルはかなり底上げされていて、一昔前の秋葉原で頻繁にみかけたような、何回洗濯したのか分からないようなヨレヨレのシャツや、丸坊主なのにフケだらけの頭髪といったものを、今では滅多にみかけなくなった。
 
 けれども、上質の服を身につけている人ほど良い見た目かというと、必ずしもそうではない。「こりゃあ、どう考えても高いブランド物を着ている」という男性が物凄い違和感を醸し出しているかと思えば、質素なストライプのシャツと紺のスラックスの組み合わせが実にサマになっている男性がいたりもする。秋葉原の路上をみる限り、いわゆる“ブランド偏差値”*1の高低と、見た目の可否は、必ずしも一致していないようにみえる。むしろ、気張ってオシャレにのめり込みすぎている人達よりも、控えめな服装にまとめあげている人達のほうが、違和感が少ないせいか、かえって上手くまとまっているようにさえ思える。
 
 

ライフスタイルから乖離しすぎた脱オタクファッションほど違和感がひどくなる

 
 “ブランド偏差値”が高かろうが低かろうが、着る者のライフスタイルから乖離しすぎたファッションは、見る者にぎこちない違和感を与えてしまいがちだ。このことに無頓着な、いうなれば“脱オタクファッションのやりすぎ”に至っているような人を、秋葉原のアニメショップなどでみかけることがある。ライフスタイルもコミュニケーションのスタイルも自己主張とはおよそ無縁のままなのに、ファッションだけが奇形的に自己主張しまくって独り歩きしているような、そういう人である。
 
 非常に主張の激しいファッションを選んでいるのに、「なかのひと」がキョドりまくってひたすらペコペコしているような有様では、そりゃあ違和感は拭えない。
 
 ちょっと昔、「オタクがハイテクシューズを履いていると、ハイテクシューズだけが歩いているようにみえる」なんて言われたこともあったけれど、あたかもそれを全身でやっているような、「なかのひと」を置き去りにして服装だけが独り歩きしている人達。そのありさまは、ファッションというよりは殆どコスプレに近い。服が主張しているスタイルと、本人から滲み出る雰囲気の方向性が合致していないがために、オーラのように違和感をまとった、どこか浮き足立ったものになってしまっている。
 
 逆に、ユニクロなんかで手堅くまとめている人や、ワイシャツとスラックス中心の格好の人のほうが、かえって違和感を周囲に与えない、落ち着いた雰囲気に辿り着いていたりもする。きわだった主張のファッション・ブランドを選んでいない分だけ、ライフスタイルとのギャップが浮き出ないということだろうか?服をヨレヨレにしすぎる人は論外としても、きちんと服装のメンテナンスが出来ている人の場合、やたら高価なブランドモノに手を出さずに廉価に手堅くまとめているほうが、むしろ違和感の少ない風采に到達している確率が高いようにみえる。
 
 

「服の独り歩き」を防ぐには?

 
 もちろん、見栄えの素晴らしい服はそれ自体魅力的だし、ファッションを介して優越感を得るにも向いているかもしれない。
 
 けれども、いくら主観レベルで優越感に浸れても、自分自身のライフスタイルとファッションとを摺り合わせることを度外視して突っ走れば、他人からみて「服だけが歩いているみたいにみえる」的な違和感は避けられない。特に、スタイルが明確で主張の強いブランドを選んだ際などは、慎重を期さなければならない*2。ところが脱オタクファッション者はこのことを無視しがちのようで、主張の派手なブランドの服に挑戦している人よりも、主張の穏やかなブランドの服を基軸にまとめている人のほうが、かえって違和感の少ない、しっくりとしたスタイルを提示できていることがままある。なんとも皮肉な話だが。
 
 いわゆる脱オタクファッション、あるいはファッション一般にも言えることかもしれないが、「服の独り歩き」を回避し、他人に違和感を与えないようにするためには、やたらとファッションを先鋭化させたり尖ったブランド物を買い漁るよりも、控えめでもいいから自分自身のライフスタイルとの適合というものを意識したほうが良さげだと思う。「ユニクロや無印良品は脱オタクファッションの初心者向き」とみなし、高価なブランドだけを選びたがる人も多いかもしれないが、ちょっと立ち止まってみて欲しい。確かに、ユニクロや無印良品は強烈な自己主張をするブランドではないかもしれない。けれども、ライフスタイルとの摺り合わせという観点からみた時、あんなに違和感無く使いやすく、なおかつコストパフォーマンスにも優れたブランドが他にあるだろうか?*3
 
 もちろん、ファッションには“あそび”があっても良いと思うし、今の自分に似合わなくともリスペクトしているブランドを敢えて選び、そこに自分自身を近づけていくというのもアリだとは思う。けれども自分自身のライフスタイルやコミュニケーションスタイルというものを度外視してひたすら“偏差値の高そうなブランド”“自己主張の強い服”ばかりを購入するのは絶対にヤバく、違和感を生むもとになるだろう。
 「その服、独り歩きしてませんか?」
 
 
 
 [関連:]*オタク定番NGリスト*(『脱オタクファッションガイド』より)
 [関連:]アキバをファッションタウンにする会 : アキバガイドBlog 
 
 
 

*1:ブランド偏差値というのは、2chのファッション板に出回っているテンプレートである。参考:http://janba.blog58.fc2.com/blog-entry-8083.html

*2:だからこそ主張の強いブランド・主張の強い服を選ぶのはそれなりに勇気がいるし、自分のライフスタイルとの摺り合わせや、服飾と自己主張についてのセンス、または緻密な計算なりが求められることになる。無論、その手の難易度の高いセレクトはファッション求道者達にとって魅惑的に違いなく、彼らはリスクを敢えて乗り越え、強靱な主張を伴ったスタイルまで到達するのだろうが。

*3:個人的には、ユニクロの類は他のブランドと組み合わせることによって服の主張総量をコントロールするにも向いていると思う。よほど尖ったファッションを志向する人でない限り、あれば必ず重宝すると思うし、手放すなんてとんでもない!