シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

気をつけろ!『分裂勘違い君劇場』は“壊れた原子炉”だ!

 
はてなグループ
 
 ああ、巨大はてな劇場『分裂勘違い君劇場』のid:fromdusktildawnさんから注意されちゃった!“利己的欲求”言葉は「放射性物質なみに取り扱いの危険な言葉」だから慎重に書こうね!というニュアンスらしい。巨大アクセスを誇る頭のいい人にこう言われるとプレッシャーが凄くて、チキンな僕の心臓がバクバク音をたてています。目には涙が浮かび、殆どパニック寸前でした。ああ、人間の行動のなかに利己的動機・インセンティブを探すのを趣味にしている僕は、もう怖くてエントリ書けなくなっちゃうかも。言葉に気をつけないと。読者さんにヘンテコな影響を与えるのも注意されるのも怖くなった僕は、冷蔵庫からウォッカを取り出して一杯やって気を紛らせようと思ったのでした。
 
 よく冷えたアブソリュート・ウォッカはデンマークの至宝。ロックでやる一杯は最高です。なんだか気分が高揚してきて、僕のしょんぼりな気分も氷のように溶けていくようです。
 
 さて、ウォッカで気を取り直してもう一度『分裂勘違い君劇場』とそのブックマークを眺めてみましょう。あれれ?おかしいな?fromdusktildawnさんに注意されたばかりの僕の頭を、「放射性物質なみに取り扱いの危険な言葉」というセンテンスが駆けめぐります。読者にヘンテコな影響を与えそうな語彙や文章の取り扱いを注意されて凹んだ僕。だけどよく考えてみたら、読者にもっと多大にヘンテコ影響を与えていて、γ線を出しまくる言葉を連発しているブログがあるじゃないか!ここまで考えた僕は、ウォッカで(いつも以上に)鈍くなった頭でプンプン怒り始めました。
 
 酔った目をこらして『分裂勘違い君劇場』をもう一度みてみます。ワーキングプア、コミュニケーション能力、強者、弱者etc…。顔を真っ赤にしたくなるような、笑ったり、怒ったり、ひがんだりしたくなるような言葉の大洪水です。もう一度はてなブックマークを眺めてみましょう。ほらね!赤くなった人や青くなった人ばかりか、真っ黒に燃え尽きた人でいっぱいです!fromdusktildawnさんの、“これはネタです!真に受けないでください!”という但し書きにも関わらず、みんな凄い影響を受けてますね!いや、「ネタ」「ネタ」「ネタ」という頑なな姿勢自体、健全な青少年の育成にどんな影響を与えているか知れたものではありません!
 
 すっかり頭にきた僕は、冷凍ウォッカを瓶ごと取り出してきて呷らずにはいられませんでした(そしてむせてゲホゲホと1分ばかり転げ回ったわけですが、それはまた別のお話です)。ちぇっ。注意されてしょんぼりしてみたけれど、放射性物質を扱っているのは、そっちも同じじゃないか。しかも、僕の『「人間の全行動は利己的動機・意図」を含んでいるという前提で考える方法論 - シロクマの屑籠』は6ブクマしか汚染していないけれど、『はてなブックマーク - 弱者を弱者にしている、唯一にして決定的な要因は、「強者を理解していない」ということ - 劇場管理人のコメント - 分裂勘違い君劇場グループ』は229ブクマも汚染してるじゃないか。そのうえ二転三転、掌を返す文章の連続、ネタ耐性がついていない人達のなかには、喜怒哀楽のジェットコースターで目を回している人や、“放射性物質”のなかで自分好みの加工が施された品だけを持ち帰る人もいるようです。刺激的な語彙が万華鏡のようにきらめくブログのなかで、めいめいが自分が一番好きな汚染解釈を選んでポケットにねじこみ、ニヤニヤしながら帰宅する姿をみる頃には、僕はすっかり義憤に駆られていたのでした。
 
 さあ大変だ。『分裂勘違い君劇場』に入り浸っている人は、ネタを楽しんだり文書を楽しんだりしているけれども、みんなみんな、すっかり汚染されているぞ!「ワーキングプア」という言葉の放射性同位体(それも、なんか青白く輝いているやつ)を脳内ポケットにねじ込んで、「いやぁ、勉強になるなぁ」とか言っている人もいるみたいですね。僕のはてなダイアリーも確かに放射線物質な語彙を取り扱っているけれども、『分裂勘違い君劇場』はそんなもんじゃないね。僕のダイアリーと違って、あそこは面白くて人気があって“楽しませることに特化”しているから、影響力と汚染力は圧倒的だ。僕のところよりもずっと沢山の人を惹きつけて、刺激的な語彙を右に左に魔法のように煌めかせ、観客の脳内ポケットに詰め込みきれないほどの諸々を放り込む『分裂勘違い君劇場』。だから、あそこを読む人は十分注意して、メインテーマの語彙についてどんな理解や誤解を(自分の脳内ポケットに)放り込んでいるのかチェックしたほうがいいと思う。僕のウェブサイトよりもずっと面白くてずっと魅力的だから、ちょっと油断したらたちまち放射能まみれになっちゃうぞ!読む人は、しっかり放射能防護服を着てエントリーを読まなきゃね!
 
 気をつけろ!『分裂勘違い君劇場』は“壊れた原子炉”だ!
 

 【ネタが終わって日が暮れて】
 実際は、ネタとメタとベタと執着がいっぱいに詰まったはてな界隈・ブログ界隈なんて、どこもかしこも見渡す限り“壊れた原子炉”に喩えられると思います。短い文章で出来るだけ沢山の影響と感情とブックマークとアクセス数を稼ぐように特化した人気ブログなどは、短さと分かり易さ故にこうした『放射能汚染』のリスクがとりわけ高いと言えるでしょう。実際はfromdusktildawnさんの文章のなかからは、こうしたリスクを心得て自分基準のリテラシーを設けているらしき形跡がみてとれますが、影響力の大きいブログ故に沢山の読者を惹きつけ、色々な人を勘違いさせる結果もを生んでいるようにみえます。一定以上聡明な方や、一定以上慣れてらっしゃる方にとっては、この『放射能』は全く問題ないものには違いないかもしれませんが…。
 
 まぁ、それがいけない事だと思いませんし、むしろ読者を洗脳するようなγ線ブロガーがいたところで「娑婆はそういうもの」と心得ますが、ともかく、人にみられる場所で書く以上、我田引水などに由来する勘違いや誤解は必然的に発生しやすく、自分の書いた意図と読者の意図が乖離してヘンテコな影響を与え得ることは心得ておきたい(または諦念しておきたい)シロクマでした。でも書くぜーエヘヘー
 
 [関連]http://simple-u.jp/pd200312.html#2003-12-21
 

「利己的行動」という言葉を使う際の慎重さと軽率さ・メリットとコストに関して

 
 【注意!】
 以下のテキストは面白くありません。また、文章力が無い癖に誤解を少なくすべく頑張っているせいもあって、大変読みにくい文章に仕上がっています。娯楽を求めて読んでも、何も良いことはありません!ネタも仕込んでありません!お勧めタグは[後で読む]ではなく[長いから読まない]です!なにせ、書いた私自身が読み返すのを躊躇うぐらいですからね!
 
はてなグループ
「人間の全行動は利己的動機・意図」を含んでいるという前提で考える方法論 - シロクマの屑籠
 
 私は、(自分は勿論のこと)全ての人間の行動は何らかの利己的動機・インセンティブによって選択される行動だという前提でいつも思考実験を進めている。しばしば議論となる「利他的行動」もまた、様々なレイヤーの少なくともどこかにおいて利己的メリットの期待値を向上させる(またはデメリットを被る期待値を低下させる)意図のもとに実行されると私は前提づける。それゆえ「利己的メリットが計算出来る状況・関係でこそ個人の利他的行動は発生しやすくなり、計算が困難な状況・関係では利他的行動は発生しにくくなる*1」と考えている。そしてその前提のもとに個人個人の行動・人間集団内の力動を追求していきたいと思っている。この前提で考察を行ったとしても、行動遺伝学的傾向・防衛機制を低レベルレイヤーとし大脳皮質レベルの計算・文化依存的行動を高レベルレイヤーとする、多層的な利己追求モデルをちゃんと記述しきれるならば、範疇的な人間の行動の殆ど全てについて再把握が可能だと私は妄想的に信じている。よしんば私一人では全てを記述しきれなかったとて、近似モデルぐらいなら提案可能だと思っている。その為の考察を積み上げる一助として、はてなでしばしば私はメモを書き散らしている。周りからの刺激があって、ここはとても便利なところだ。怠け者の私に考える事を強いるはてなのお陰で、この半年は随分収穫があったと思う。
 

 しかし、はてなグループに指摘されている通り、あるいはid:bluedeさんがしばしば誤解なさっているように、さらには2006-07-28 - すべての夢のたび。に書かれているところの「ドーキンスみたいで嫌なもの」のように、「全ての人間行動は利己的動機・インセンティブによって選択される」という言説は微妙な誤解を招きやすい。*2
 
 そのうえ私は進化生物学だけではなく(心理学・精神医学界隈でいう)防衛機制をも低レベルレイヤーとして仮定していて、この防衛機制がまた誤解されやすく説明しにくいときている*3。正直、私の脳内に立っているこの妄想樹を誤解を招かず描写するのは、自分のレベルではとても無理だ。ましてや、『分裂勘違い君劇場』の如く読者の願望を満たすような分かり易さに噛み砕いて提供するなんて絶対無理。そのうえ、私のテキストのなかでも「人間は利己的云々」テキストは、はてなダイアリーと本家のテキスト全部が繋がった多細胞生物のうちの一細胞片に過ぎないので、はてなブックマーク経由で個々のテキストだけ読んだ読者が私の意図に即した解釈をしてくれる確率は殆ど期待できない。正直、自分自身の考えをまとめ追求するのが精一杯で、「きちんとした理解」を読者に(ましてはてなブックマーク経由で個々の細胞片だけ拾い読みする読者に!)提供するのは不可能と諦めている。
 
 とはいえ、fromdusktildawnさんが仰るように、日常語における「利己的」と進化○○学における「利己的」の違いを招いてしまうリスクは確かにあるのは認めなければならない。まして、進化○○学よりももっと広いニュアンスで「人間の行動は何らかの利己的動機・インセンティブによって選択される」と私はほざいているわけで、一層誤解されやすいことと思う。実際、私の主旨に反対というよりも、むしろ勘違いがもとで原因で批判や非難されてるなぁと思うことは今までにもあったし、これからもあるんだと予想される。この手の問題を全部やっつけるのは無理だし、その為にコストをかけすぎるのは愚かなことだろうけれども、、確かにある程度気をつけなければならないし、気をつけることはまさに「私個人の利益を誘導し、損益を回避しやすくする」うえでも有利に違いない。何かやってみよう。そうだ、例えばはてなの関連記事に「汎適応論」というタグを貼り付けて回ろうかな(そんな事をしても非難する人がいちいち読んでくれるとは思えないが、私の損益を回避しやすくする一助としては機能するだろう。ただ、私はネットの色々を再設定する事を高価なコストとして取り扱うため、作業は遅れがちだろう)。私自身のネット上における色々を精一杯勘案して、必要と見積もられる範囲で努力をしてみようとは思います。このような努力でどれぐらいの読者が誤解しにくくなるのか、逆にどれぐらいの読者が「読みにくいぞコノヤロー」と思うのか、ゆっくりトライアンドエラーしてみるつもりです。
 

*1:もっと正確を期して書くなら、「利己的メリットの期待値が高いと計算可能な個体が多いであろう状況では、利他的行動を選択する個体が増加する&利己的メリットの期待値が低いか計算不能な状況では、利他的行動を選択する個体が減少する」という表現を用いなければならないか。実際、私の独り善がりな議論は、せめてリチャード・ドーキンス『利己的な遺伝子』ぐらいの用心深い注釈や長ったらしくも正確な表現を心がけるのが好ましいとは思う。fromdusktildawnさんが仰るようなリスクを減らすにはそうするしかない。でも、それをやりすぎると誰も読まなくなるのがオチだし、自分自身も議論していられなくなる。だから、私は多少の誤解をコストとして支払いながら、「はてな側では自分が誤解しなければそれで良し」という前提でメモっていくつもりだ。幾らかの誤解は、私にとって不可避のコストとして支払われなければならない。だが、汎適本家で計画中のアレにおいては、多少の読みにくさとまだるっこしさを犠牲にしてでも自分に可能な限りの的確な表現を目標にしていかなければと覚悟している。せめて『利己的な遺伝子』の慎重さが私にあればいいけれど、なんか無理そうだなぁ。

*2:とはいえ、「言説という言説が読み解かれる時には程度の差こそあれ必ず誤解を含んでいる」なんて考え方もあるぐらいで、「誤解を招きやすい」「誤解を招きにくい」といのは数直線上の程度問題なんだと私は思っている。例えば分裂勘違い君劇場のわかりやすくてキャッチーで「これはネタです!」なんて言ってもベタとして捉えられる確率の高いブログもまたこうした問題とは無縁ではいられない。放射性物質を扱っているのは、あっちも同じである。

*3:本当は、他の精神医学や心理学の概念も用いたいけれど、今のところ、自分がそれなりに理解していて、自分がそれなりに納得していて、行動遺伝学に絶対に矛盾しなさげなのが防衛機制しかないので、防衛機制は議論に含めている

ここがヘンだと思ったところや、疑問に思ったところ

 
 【注意!】
 以下のテキストは面白くありません。また、文章力が無い癖に誤解を少なくすべく頑張っているせいもあって、大変読みにくい文章に仕上がっています。娯楽を求めて読んでも、何も良いことはありません!ネタも仕込んでありません!お勧めタグは[後で読む]ではなく[長いから読まない]です!なにせ、書いた私自身が読み返すのを躊躇うぐらいですからね!
 
 さて、「利己的行動」という言葉を使う際の慎重さと軽率さ・メリットとコストに関して - シロクマの屑籠は私の姿勢と事情について言い訳をさせていただきました。こっちのテキストでは、行動遺伝学を視野に入れたものとおぼしきfromdusktildawnさんとみちあきさんの記述の幾つかに個人的レスポンスを行ってみたいと思います。んじゃ、爆撃モードに切り替えますね。
 
はてなグループ

 単純に、とくに悪いことをしているわけでもない子供が、いじめられていたら、「おい、こら、ちょっとまてよ。酷いことするなよ」って、止めに入りたくなりますよね。
目の前に、困っている人がいたら、つい助けたくなりますよね。
 
ttp://eizu777.exblog.jp/4177618/を見て、何とかしてあげたいとか思いますよね。
 
そういうのは、利他的な欲求という言葉で呼ぶべきだと思いますよ。
少なくとも、科学者が論文を書くとき以外は。

 
 だとすれば、私は何も書けなくなってしまいそうですね(笑)。私の妄想体系に基づくなら、「利己的な動機やインセンティブに誘導された利他的欲求」と書くことでしょう。ところで…この喩えにあるような、いじめを止めに入りたい気持ちがfromdusktildawnさんの心の中に沸いたのは何故でしょうか?何のメリットも期待できない(≠何のメリットも無い)状況下において、人は何故利他的行動を欲求するのでしょうか?共産主義を演説するのも、世界丸見え特捜部の8:30以降のプログラムを見て涙を流すのも、見知らぬ妊婦さんに席を譲るのも、私には「利己的な動機やインセンティブに誘導された利他的欲求」に導かれての行動だと思います――チンパンジーでは計算しきれないレベルを多分に含んだ、もっと複雑利己的動機やインセンティブが隠れていると思います。一方でこうした行動のなかには、「勘違い利他的欲求」とも言うべき、automaticなレベルにおいて利己的欲求が沸いているんだけれども冷静に前頭葉を回転させてみたらstopしちゃうかもしれない行動も含まれているんじゃないでしょうかね?
 
 さて、私の考えを披瀝するのはこれぐらいにして、おかしいなぁと思った点を指摘してみます。えっと、目の前に困っている人がいたとして、fromdusktildawnさんが助けたい気分になる確率は常に一律でしょうかね?相手によって違うでしょう、状況によって違うでしょう、fromdusktildawnさん自身の体調によってすら違うでしょう。身近な人やよく会う人に対しては、より助けたい気分になりやすいんじゃないですかね?知らない人や敵対的な人に対しては助けたい気分になりにくいんじゃないですかね?余裕のある時は助けやすい気分になりやすく、忙しい時や急いでいる時には助けやすい気分になりにくいんじゃないですかね?あなたや私の動機やインセンティブによって、利他的行動の多寡はレギュレートされてませんかね?ここら辺のことはfromdusktildawnさんなら全てご承知の筈ですし、この確率変化の存在もまた、私の考えを補強する所見のひとつです。あなたがこれに気付かない筈が無い。にも関わらずそこを触れずに通り過ぎてあーゆー言質をやるのは、どうかと思いますよ?
 
「目の前に、困っている人がいたら、つい助けたくなりますよね。」という言葉は、精製プルトニウムほど慎重に取り扱う必要はないでしょう。ですが、人形峠の石ぐらいの慎重さをもって取り扱って欲しいなぁと思う瞬間でした。
 
 また蛇足ですが、世の中の人間が自分も含めて全員利己的な意図で動いていると考えることが、即ニヒリズムに繋がるのはおかしくね?とせんせい思いまーす。『いかにさもしくとも力無くとも人間は人間であることによってのみ尊い 』という有島武郎の言葉を私は気に入っています。いや、誰もがそれを思えるわけじゃないのは知っていますが、人間の尊厳なり人間の生きる意味なりは、「人間が利己的行動を繰り返すという洞察」によって消滅する類のものではない筈ですし、そんなもので消滅する尊厳なり生きる意味なりって何よ?って思いますよ。fromdusktildawnさんがお好みであろうニー何とかさんも、「ふざけんな」とか「そんなので消える尊厳やら意味やらなんてインチキだ!」とかって言いそうな気がするんですが、如何でしょうか。
 
 では次いきます。
 

はてなグループ
 

チンパンジーやボノボなどのサルですら、この利他性と利己性の二つの欲望がベースになって、社会を形成している。

 チンパンジーやボノボが互恵的行動を含んだ、社会的な小集団を形成する事を引用して色々と説得なさっているid:fromdusktildawnさんが心優しい天使にみえる、ほのぼのとしたテキストです。「シロクマの屑籠」みたいな殺伐サイトに飽きた人にお勧めの一文です。みんな仲良く!
 
 しかし、この引用はどうなんでしょうか!確かにチンパンジーやボノボは、利他的行動をしばしばとりますし、それが社会を形成しているのも事実のようです。彼らはお互いの毛繕いをしたり、共同で子どもを守ったり、様々な利他的行動(というより互恵的行動)を発達させている。だけど、どのような場面でチンパンジーが利他的行動をとるかフィールドワークした人達は「お礼をしてくれる仲間にやる傾向」「同じ群れの仲間にやる傾向」「血の繋がった仲間にやる傾向」などを発見してびっくりしているらしいですよ!つまり、利他的行動が巡り巡って(遺伝子を残す、という事も含めて)個体または遺伝子残存に関するメリットを促進するような利他的傾向ばかりをサル達は身につけているようなんです。この点を見過ごして、サル達の利他的行動と社会福祉を同列で論ずるのは、それこそ「プルトニウムの桶に首を突っ込む」ぐらい危険だと思います。サル属に限らず、鳥類や昆虫などでも利他的行動は多々みられますが、人間以外の生物の利他的行動は(個体または遺伝子残存の観点から)利己的利益の期待値が上昇するような場面に徹底的に限られていることを指摘しておきます。途方もない長さにわたって加えられてきた淘汰圧が、そのような行動形質を含んだ遺伝子の個体だけを遺伝子プールに残したのでしょう。
 
 その点、人間の利他的行動は、極めてユニークで複雑なわけのわからないもので、(考察対象として)ロマンに満ちていると思います。性淘汰・自然淘汰によってガチガチに本能づけられた、プリミティブな利他的行動だけではなく、防衛機制・文化的偏向・判断力などなどによって無限のバリエーションを持った利他的行動を利己的に選択出来る人間というイキモノ。この人間というイキモノのとる利他的行動、とりわけ福祉だの寄付だのといったものを論じるにあたって、行動遺伝学的知見は必要には違いないけれども十分なものではないというのが私の考えです。
 
 さて、あとひとつ。次、次。
 
2006-07-28 - すべての夢のたび。
 
 id:fromdusktildawnさんが指摘してないようなので、代わりに私が指摘してみたいと思います。ただし、fromdusktildawnさんの言う「利他性の欲求」と、私の言う「利他性の欲求」の間にあるギャップはほったらかしだという事は、ご了承ください。

 fromdusktildawnさんのいう利他性の欲求って、要するに、他人のために行動したときにも脳に快楽物質が出る、という話ですよね?(もし違ったら指摘お願いします) つまり、あの人が幸せでないと私も幸せでない、みたいな。ぼくはそれを利己性の欲求に分類している、ということです

 ドーパミンなりβエンドルフィンなりを介して行動を規定する、というのは(昆虫とかは知らないけれども少なくとも哺乳類レベルでは)よくある事なので、個々の動物において、特定の条件下で特定の利他的行動をとるように脳内麻薬を分泌する遺伝子を持った個体が遺伝子プールに溜まっちゃう可能性は十分にあることでしょう。人間においても、(例えば)子どもが運動会で一等賞をとった時なんかは、脳内麻薬がドバドバ出る際に遺伝子も一枚噛んでいるんじゃないかな、とは思っています。
 
 でも、人間の行動はもうちょっと面白くて複雑ですよね。前頭葉をしっかり発達させた人間の場合、A10神経からβエンドルフィンやドーパミンが放出されなくても、長期的視野において利得が期待できると大脳皮質が判断する状況下では抑制をきかせることが出来る程度にお利口ですし*1。みちあきさんが仰る話だけでは、例えば嫌な上司にお世辞をいう人間の利己性は説明出来ない。脳から快楽物質が出ないか、むしろ不快な時でも、ある程度知恵の働く人間なら、政治的メリットや社会的メリットや長期的ビジョンを頭に入れて行動することが出来ます。凄いですねー。これは、動物で広く認められる快−不快による行動制御だけでは絶対に為し得ない、まさに人間ならではの賢い(または浅はかな)ところだと思います。ついでに、幸か不幸か心的葛藤を調整する防衛機制が一枚噛んでいて、一層人間の利他的行動の利己的目論見は読みにくくなっているのも面白いところですね*2!この、人間ならではの複雑な利他行動の利己的動機を踏まえて予測を行うには、チンパンジーの利他行動を予測するよりもずっと複雑なモデルや仮説が必要となることでしょう。目下私は、行動遺伝学的行動傾向・防衛機制を低レベルレイヤーとし、大脳皮質レベルの計算や文化依存的行動を高レベルレイヤーとする多層的な利己追求モデルを仮組みして他人の動機やインセンティブ探知を実施しています。この近似モデルをもっともっと洗練させて煮詰めていくのが私の夢のひとつです。もし、人間がどのような場面でどのような利他的行動をとるのかについてもっと詳しく知ることが出来れば、(悪いことや利己的なことに使えるばかりか)福祉や支援などの分野でも効率化等の貢献が出来るんではないでしょうか。
 

【以上、爆撃終了】
 
 以上、目についた範囲で「あれれれなんだかおかしいな」と思った点について突っ込んでみました。ネットを散策していると、例えば「遺伝子は利己的だから俺は利己的でもいいんだ」的なトンデモ議論に出会ったり、ネオダーウィニズムによって明確に否定された(1900年代前半ぐらいのカビ生えた)社会進化説を「正しいモノ」と信じている人に出会ったりすることがあります。そこまでいかなくても、「人間の行動や性格は全て環境因によって後天的に決定される」と決めつける意見や、その逆の決めつけに出会う事もあります。それら全部説得して回るのは愚かな事に違いないですし私の望んでいることでもありませんが、「fromdusktildawnさんやみちあきさんの文章にこうしたツッコミを入れる」という行動は、さしあたり私個人の利己的インセンティブを刺激したようです。ご覧のように、また長くて読みにくい、自分で読んでも吐き気のしそうなモノを書いてしまいました。お目汚しすいませんでしたです。ぺこり。 
 

*1:ですが、十分に大脳皮質なり前頭葉なりが発達していない親も勿論いますよね。最近そういう親がやたら目立つようになっている点について色々書きたいけれども今日はやめときます

*2:そうそう、利他的行動の利己的目論見が読まれちゃまずい状況が多々ある事にご留意くださいね。天使のフリをする事が利益を最大化させる時に黒い尻尾をみせていては、信じて貰えません!だから、天使のフリする時は騙しあいです!情報戦です!ディスプレイです!