シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

では、君が失敗したら思いっきり笑ってさしあげようぞ。

 
 
www.ishidanohanashi.com
 
 「決まりきったレールには乗りたくない」
 「“普通”のサラリーマンにはなりたくない」
 
 いやいや!
 若々しい、潤いに満ちた表現ですね!
 
 最近の若い人には少なくなりましたが、90年代の、まだバブルの残り香が残っていた頃には、あなたのような事を言ってわけのわからない人生選択をする人がたくさんいたんですよ。「私が私であるために」「他の連中とは違った自分であるために」みたいな気分が、社会全体にフワーンと漂っていたのでした。
 
 でも、歳月が流れて、みんな生活に余裕がなくなって、“普通”のサラリーマンがつまらない職種から理想の職種になっちゃって、「決まりきったレールには乗りたくない」なんて言う人は少なくなってしまいました。
 
 それはさておき。
 
 あなたのブログ記事を通読して、「これは本当に自分で選択した人生なんだろうか?」と首を傾げました。
 
 ブログの文中、あなたはこのように書いておられます。
 

ぼくは、中3まで趣味もなく、人生についてもなにも考えず、人の目をすごく気にして生きていて周りと同じことで安心するような人でした。
高校も勉強が嫌いで偏差値の低いところに推薦で入り、
楽に生きたく自分の好きなことしかやりたくない人間だったんですよね。
友達と遊んでばっか、ずっとヘラヘラしてるような人間でした。

 
 楽に生きたくて好きなことしかやりたくない人間だった、と。
 別にそれは罪ではありません。さしあたりそういう性質だったのでしょう。
 
 しかし、その後の吹奏楽部のくだりを読んでも、結局「遊ぶ友達がいなくなる」という消極的な理由でスタートしたのであって、楽器がやりたくて始めたわけではないのですよね。吹奏楽部に入る前も、他にやりたいことがあって帰宅部を選ぼうとしていたわけでもなさそうです。
 
 で、ブログで月商100万を稼ぐとかなんとか、そういう外部情報を見て「これなら自分にもできそうだ」と思ってブログを始めたそうですが、これだって、自分の意思でやったっていうより、ブログで仰山儲かるぜって喧伝している人達にそそのかされてスタートしたように私にはみえます。
 
 もしこれが、ブログで収入を稼いでいる人がほとんどいない、未踏の状態で「ブログで金儲けしてやるぜ!」みたいな事をあなたが言っているとしたら、それは凄いパイオニアだと思いますし、ああ、この人はそういう冒険的なことがやりたくてやったんだな、と理解することができます。この点において、プロブロガーとかブログ飯とかをスタートした人達ってのはやはり大したもんですよ。
  
 でも、今はそうじゃないですよね? インターネットのあちこちに「ブログでお金儲け」「ブログで○万稼ぎました!」みたいな売り文句がペタペタ貼られているじゃないですか。そして「ブログでお金儲けをする方法」自体が有料コンテンツとして販売されてもいます。手垢のついた、ベタな方法ってわけですよ。
 
 これって、「ブログでお金儲けをする方法」を喧伝している人が敷いたレールの上を、あなたはいいように走らされているってことじゃないですか。
 
 

「レールの上を走る」にも良し悪しがある

 
 私は、あなたほどには「レールの上を走る人生」が悪いものだとは思っていません。長らく“普通”のサラリーマンをやっていた人が重要部署をまとめるリーダーとして活躍していくこともあれば、サラリーマン時代に培ったノウハウや人脈を生かして中途から独立していくこともあります。彼らのキャリアは、まさに在来線のようなスタートだったかもしれない。けれどもそのレールの行く先ははじめから決まりきっていたわけではないし、中途で何度も人生の選択はあったはずです。
 
 「レールの上を走るような人生」を目の敵にする人がいるけれども、レールって、終着駅まで一本道ってわけじゃないんですよね。いろんな場所に繋がっているレールもあるし、ものすごい速さで遠くまでいけるレールだってあります。乗り換えポイントが滅茶苦茶いっぱいあるレールだってある。
 
 それに、それこそ“普通”のサラリーマンのような人生のレールを走り続けたからといって、見える人生の風景まで“普通”だなんて限らないのです。まだ働いていない人が満員電車に見出す、同じ格好をしたサラリーマン達は、一見、同じような、それこそ“普通”の生活をしているようにみえるかもしれないけれども、その内実はさまざまです。なんていうんですか、“同じような恰好のサラリーマン”はたくさんいるけれども“同じような中身のサラリーマン”って、実はそんなにいないんじゃないでしょうか
 
 もちろんサラリーマンというからには、ホワイトカラー的なワークスタイルは共通していると言えますが、公私ともに彼らのやっている事には相当なバリエーションがあって、到底、“普通”って言葉では切り捨てられません。
 
 他方で、「このレールに乗ったら危ないよね」ってレールもあるように思われます。
 
 世の中には、甘い儲け話で他人をそそのかして、時間やお金や人生を吸い取って栄養にする、食虫植物のような輩がたくさんいます。そういう輩が差し出した、いかにも甘美で特別そうにみえるレールは、たいてい、可能性と発展性に満ちているように飾り立てられていて、しかも自分の足で歩いているかのような錯覚を伴うものです。本当は、陳腐で、もう何人も先人が通った後の、痛みきったレールだったとしても、です。
 
 そういう「カモを転がすためのレール」「甘美な夢で乗せるだけ乗せて後は知らんレール」のほとんどは、可能性と発展性に乏しく、いざ、レールから降りたり隣のレールに乗り換えたりする時につぶしのきくようなスキルも与えてもくれません。
 
 どんなレールに乗ったって構いやしません。が、そんなレールで大丈夫なんですか?
 
 

やりたい事がない人こそ、“普通”のレールに乗るべきでは

 
 そもそも、あなたには、やりたい事なんてあるんでしょうか。
 
 あなたは学生をやめて起業されるとおっしゃいます。
 
 しかし、起業するとは書いていても「なんのために起業するのか」「どう起業するのか」がちっとも書いてありません。
 
 まるで「俺は有名小説家になりたい!」みたいですね。
 
 小説家としてヒットするためには、自分が書きたいこと、あるいは自分がトライしたいことがあって然るべきです。ただ有名になりたい、ただ成功したいと望んでいるだけでは、絶対に小説家として成功しません。
 
 それと同じで、起業して成功するからには、起業をとおしてやりたいこと・成功できる見込みがある狙いがあって然るべきではないでしょうか。ところが、あなたの文章からはそういう匂いがちっとも漂って来ません。本当に起業したいんですか?「これで成功する」って計算や見込みはあるんですか?
 
 しかも、大学を辞めて起業を選ぶとか書いてあります*1。大学が思ったほどキラキラしていないとか、そういう理由で、大学をやめるための口実として起業なんて口にしておられるのではないでしょうか?
 
 私には、あなたが本当に「やりたいこと」として起業を口にしているというより、大学でキラキラできないところに甘言にたぶらかされた結果として、清水の舞台から飛び降りるような選択を、ビジョンもないまま選ぼうとされているようにみえます。
  
 あなたは、
 

迷うこともありませんでした。
不安もありません。
もちろん、成功する保証はないし、むしろ失敗の確率の方が高い。
いや、99%失敗するくらいの確率だろう。
でも、自分で選択した道で失敗するならぼくはそれでもいいって思うんです。
どうしても挑戦したい。
そんなのやめろという人は、ぼくが失敗したら思いっきり笑ってバカにしてくれればいいと思います。

 と書いておられます。
 
 よろしい、ならば私は、あなたが失敗したら思いっきり笑ってさしあげましょうぞ。
 
 ビジョンも構想もなく「カッコイイ社長になりたい!」なんてドラマのイメージばかりが先行して、それで起業をぼんやり夢想しているだけだとしたら、起業に成功するとは思えません。くわえて、あなたは「楽に生きたく自分の好きなことしかやりたくない人間」を自称しておられるわけですから、そんな人間が、起業という、自律した精神と忍耐力を必要とする生業に向いているとは考えられないのです。
 
 むしろあなたのようなタイプは、自律した起業家を目指すのでなく、規則正しい就労規則や社則を与えてもらえる“普通”のサラリーマンになったほうが、堕落せずに生き延びやすいのではないでしょうか。ルールや規則って、案外ありがたいものですよ? サラリーマン稼業の良いところのひとつは、ともかくも就労習慣を続けさせてくれることです。
 
 まあ、若いうちは一度きりの選択や挑戦で成功しなければならない道理なんてどこにも無いんですから、たとえこの件で笑われたとしても再起のチャンスはまだまだあるでしょうし、もっと良さそうなレールを見つけたら起業に固執せずに乗り換えたって良いと思います。
 
 でも、失敗してもただで転んではいけませんからね。選ぶと痛い目をみること・人間社会で生きるために必要なこと、そういったことをしっかり見定めて次のトライアルに繋げてください。何をやってもなにも学ばない人間には、改善した未来などありません。これは、起業家でも“普通”のサラリーマンでも同じはず。
 
 インターネット上で「起業宣言」しちゃって、大勢の人が見つめてしまった以上、ともあれ全身全霊を傾けて、私達を見返すくらいの心持ちで挑戦してください。あなたが失敗したら、私はあなたを嘲笑しなければならないので、そうならないように頑張って欲しいと願います。
 

*1:ということは、学生ブロガーって肩書きも失うってことですよね?