シロクマの屑籠

はてなダイアリーから引っ越してきた、はてな村の精神科医のブログです。

実践性の高いSST(social skill training)の本を発見!

 

わかりやすいSSTステップガイド―統合失調症をもつ人の援助に生かす〈上巻〉基礎・技法編

わかりやすいSSTステップガイド―統合失調症をもつ人の援助に生かす〈上巻〉基礎・技法編

  • 作者: アラン・S.ベラック,スーザンギンガリッチ,キム・T.ミューザー,ジュリーアグレスタ,Alan S. Bellack,Susan Gingerich,Kim T. Mueser,Julie Agresta,熊谷直樹,岩田和彦,天笠崇
  • 出版社/メーカー: 星和書店
  • 発売日: 2005/07
  • メディア: 単行本
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わかりやすいSSTステップガイド―統合失調症をもつ人の援助に生かす〈下巻〉実用付録編

わかりやすいSSTステップガイド―統合失調症をもつ人の援助に生かす〈下巻〉実用付録編

  • 作者: アラン・S.ベラック,スーザンギンガリッチ,ジュリーアグレスタ,キム・T.ミューザー,Alan S. Bellack,Julie Agresta,Susan Gingerich,Kim T. Mueser,熊谷直樹,天笠崇,岩田和彦
  • 出版社/メーカー: 星和書店
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 精神科で使われているSST(social skill training)は、患者さんの社会適応を少しでも幅広いものにするために使われている手法だ。最近、わかりやすくて具体的なSSTの本を発見したので、SSTを施行する側の人だけでなく、社会適応に関する技能を幅広くしたいと思っている人にも参考になりそうな具体例がいっぱい載っている下巻を紹介してみます。誰かがちょっとでも興味を持ってくれたら嬉しいです。
 

九つの章別に生活技能が並んでます

 この本では、九つの章に分けて生活技能が紹介されている。精神機能の障害が重い人向けにつくられている、とされているけれども、幾つかの項目は娑婆に生きる人なら誰であっても求められそうな重要な技能で、障害が重い人以外がロールプレイしてもウムムと考え込んでしまいそうだ。コミュニケーションスキル/スペックに関して悩みを持つ人が集まってdiscussionする際に如何。
 

  • 四つの基礎的な技能

・うれしい気持ちを伝える/頼み事をする/相手の言うことに耳を傾ける/不愉快な気持ちを伝える この四つが、基礎的な技能として挙げられている。確かに世間で生きていくための基本技能に違いない。 

  • 会話技能群

・初対面の人や苦手な人と会話を切り出す方法や、終える時の作法、話題をどうするのか、などなどについての技能紹介。

  • 自己主張技能群

・適切に自分の思っていることや望んでいることを相手に伝えるための方法に関するロールプレイが多数掲載。例えば苦情を言う/望まないことを断る といった行動を感情コントロールを失わずに過不足無く相手に伝えるのは(精神疾患の有無に関わらず)なかなか難しく、突き詰めると興味深い。

  • 地域生活技能群

・食事の作法を守る、同居人の不衛生な行動に対して意見する、自分のなくしたものを探す、といった、人の間で生きていくうえで必要な技能を紹介。

  • 友達付き合いとデートの技能群

・アメリカ生まれの本だからか、友達付き合い“と”デートの技能群が一緒になって紹介。「ほめる」「ほめ言葉を受け容れる」「共通の関心事をみつける」といった知己づくりに必須の技能だけでなく、「デートに誘う」「好意を伝える」「危険な性行為を迫られたときに断る」といったデートに際してのtipsも掲載されている。

  • 健康維持技能群

・「電話で診察予約をとる方法」や「薬の副作用について相談する」などの方法が書かれている。医者にかかるという事自体がsocial skillに左右されがちである以上、一章がわざわざ設けられていることに違和感は無い。必要な通院・専門家への相談・福祉サービス利用といった事自体が(例えば)重い統合失調症残遺状態などでは困難になるため、その為の技能獲得や手助けが注目される。

  • 就労関連技能群

・就労し、職場環境のなかで生きていくことが楽勝な人もいるかもしれないが、大半の人は苦労を感じているんじゃないかと思うし、様々な技能が帰趨を左右することも知っていると思う。「就職面接を受ける」「上司からの注意に対応」「問題を解決したい時」などは、ロールプレイの恰好の題材を与えてくれる。

  • アルコールや薬物乱用を避ける技能群

・ドラッグの国アメリカらしい項目だが、薬物の乱用が精神や社会適応に与える影響を考えれば、日本でも軽視は出来ない。実際、統合失調症の人が覚醒剤やアルコールなどによって酷い影響を受けるという状況は決して少なくなく、乱用問題は無視出来ない。精神障害の有無に関わらずsubstance乱用問題は身を持ち崩す大きな要因。お酒の断り方も、変な空気のあるコミュニティではとりわけ問題になりやすい。
 

具体例は、こんな風に書いてあります

 この本に掲載されたスキル訓練ロールプレイはどれも実践的で、かつコミュニケーション上いかにも重要そうなものばかり…と書いても具体性がわかりにくそうなので、『第六章:友達付き合いとデートの技能群』から、技能:デートに誘うを紹介してみます。
 
【技能:デートに誘う】
解説:自分がある人に心を奪われていることに気付くことがあると思いますが、その相手の人は会ったばかりの人かもしれませんし、すでに知り合いの人かもしれません。どちらの場合であっても、その人とデートをしてみたいと思うでしょう。以下のステップに従うことで、誰かをデートに誘うことが、少しは簡単になるはずです。
 
技能のステップ:
1.デートに誘うのに適当な相手を決める*1
2.自分と一緒に何をするか相手に提案する
3.相手の返事を聞き、以下のどちらか一つの行動をとる。
 a.もし相手の返事があなたの提案に対して前向きであれば、会う場所・会う時間を決める。喜んで折り合うようにする。
 b.もし相手があなたとのデートに興味がないようだったら、正直にそう表現してくれたことについて相手に感謝する。
 
ロールプレイ場面の例:
1.あなたが通うデイケアに新しい人が入ってきて、あなたはその人と知り合いになりたいと思った。
2.職場で自分とたくさん共通点のある人が見つかり、その人をデートに誘うことにする。
3.一緒にボランティアをしている人がいて、その人と知り合いになりたいと思った。
4.友人の家のパーティーに行って、デートに誘いたいと思う人に会った。
5.最近近所に引っ越してきた人をデートに誘うことに決めた。
 
 このほか、この技能を教える際に注意すべき点として、
1.デートの相手を選ぶ際に考慮しなければならない因子として「どれだけ自分は相手のことを知っているのか」「デートしてくれそうか?結婚はしていないか?」「デートできない立場の人かどうか」「この人と共通しそうなものが自分にあるか?」などを参加者に考えてもらうとよさげ。
2.デートを相手が断る可能性がいつでもあることを参加者に注意しておくようにする。断られた際、落ち着きを保ち、相手を怒ったりしてはならないといった点や、断られてしまった事を友人や信頼している人と話すことが出来て自分の気持ちを分かち合うことのメリットなどについても紹介。

 
 こんな感じになっている。デートに誘うというのは慣れない人には大変かもしれないが、例えば上記についてロールプレイを通して学習していく要素が拙い人の場合、とりわけ困難になりやすいだろう。各章の技能は概ねこんな感じで紹介されていて、具体的状況に関するロールプレイの場を提供する材料やヒントを提供している。紹介した“技能:デートに誘う”のように、SSTをやる側の人だけでなく、社会適応に関して悩みをもつ人が考えたりdiscussionしたりする材料も結構混じっている。
 

充実の付録

 社会適応技能の評価尺度やロールプレイの評価方法(非言語シグナルの取り扱いを含む)、などについて巻末にあれこれ載っている。見たい人は本屋さんかAmazonへどうぞ。
 

興味のある方はどうでしょうか

 SSTを施行する人だけでなく、コミュニケーションが関連した社会的状況に困っている人が色々考えたり話し合ったりする材料も提供してくれる本だと思います。一応この本は、比較的重めの統合失調症の患者さんをターゲットとしたSST教本ですが、精神医療やSSTに普段関わりの無い人でも、コミュニケーションに関して色々チェックする材料を提供してくれると思います。*2
 
 

*1:紹介者注:決めるというより、決まる?

*2:おことわり:教本なので、新書とかよりは高めです。お値段1900円で133ページ、です