シロクマの屑籠

はてなダイアリーから引っ越してきた、はてな村の精神科医のブログです。

ブレイクしたオタクコンテンツは、祭りとして消費されるだけでなくコミュニケーション媒体として長く利用される

 
オタク同士のコミュニケーションが、オタク界隈の細分化・多様化によって受ける影響 - シロクマの屑籠
 
 上のリンク先にも書いたけれども、コミュニケーション媒体としての「共通体験」「共通理解」としてオタクコンテンツを要しているオタクにとって、秀逸でメジャーなオタクコンテンツは単なる娯楽ではない。彼らにとってのオタクコンテンツは、コミュニケーションの為の重要なツールとしても機能している*1。かつて、そしておそらくはこれからも、オタク達はオタク仲間とのコミュニケーションのツールとして、個々のオタクコンテンツに関する蓄積を用いていくことだろう。非言語コミュニケーションが不得手なオタク(そして今現在オタク趣味に深く傾倒している人の過半数以上が、そのような人達だと私は確信する)にとっては尚更だ。
 
 だから、オタクコンテンツをコミュニケーション媒体として多用するorせざるを得ないオタク達にとって、オタク界隈全体を席巻するようなブーム――各オタクニッチだけを席巻するようなブームぐらいも含めて――は単なる熱狂や祭り以上の意味合いを持っているんじゃないかな、と思う。祭りやブームは楽しく心地よいにしても、夢は一瞬で醒めてしまうが、祭りの後には記憶が残る。いったん祭りやブームになった作品は、多くのオタク達が経験した事として共有されることになる。かつて、幾つものオタクコンテンツがメジャーとなり、ブームとなり、そしてオタク達の過半が知るような「共通体験」「共通基盤」として確立していった経緯を、私は鮮明に思い出すことが出来る。ブームが去り、アニメの再放送すら終了した作品であっても、オタク仲間との会話を支える触媒として今も大切な役割を担い続けている。とりわけ、同じニッチのオタクなら誰もが知っているほどの浸透度の高さを持つ作品の場合は(コミュニケーションの媒体としての)有用性は高い。
 
 こうした視点で昨今のオタク達がブームを求めている姿をもう一度眺めやってみると、“ああ、一時の熱狂を求める以上の意義を待望しているオタクもいるのかなぁ”と想像してしまった。即ち、コミュニケーションの媒介として利用可能なほどにメジャーなオタクコンテンツが減少してきている昨今、ブームになるようなメジャーな作品や、該当分野のオタク達への浸透度が9割を超えるような作品は、(コミュニケーションの媒体としてオタクコンテンツを要するような多くのオタク達にとって)必要にも関わらずなかなか出てこなくて、だからこそ渇望する度合いも一層高くなっているのでは?と疑ってしまったわけだ。確かに、ごく単純にフィーバーを求める為や自分の先見の明を誇った優越感に浸る為に、自分の贔屓作品がブレイクすることを望む部分はあると思う。でもそれだけじゃなくて、ひょっとしてひょっとしたら、オタク間コミュニケーションを媒介する触媒たり得る“共通基盤となるオタクコンテンツ”の出現を待望している部分もあるんじゃないか?私は、ハルヒを持ち上げてエヴァのトラウマを忘れたがるオタク - シロクマの屑籠なんてものも書いたけれど、一つの現象や一つの願望には、複合的な理由が混在しているのが常の筈。例えば2006年にハルヒフィーバーを追い求める声が高まった理由・要因のなかには、細切れ化・多様化の一途を辿るオタク界隈において共通基盤に渇望するオタク達の切実な要請がちょっとぐらい含まれているかもしれない。
 
 あのラノベが(例えば銀河英雄伝説やTo Heartのように)特定分野のオタク達にとっての共通理解・共通基盤になり得るのかは分からないが、やはり現在のオタク達もまた共通理解・共通基盤たりえる新たなオタクコンテンツを必要としているに違いない筈だ。とりわけ、オタクコンテンツを媒介としたコミュニケーションを必要とするオタク達にとっては、どんなオタクも知っている“オタク内コミュニケーションの基軸通貨たり得る作品”の要請は大きいことだろう。ブレイクを求めるオタク達の声のうちに、こうしたコミュニケーションツール待望の声がどれぐらい含まれているのかは実際にはわからないが、ただ間違いなく言えるのは、いったんブレイクしたメジャーオタクコンテンツは、その後長きにわたってブームを経験したオタク達の貴重なコミュニケーションツールとして役立つであろう、ということだ。
 
 ※例えば、あのラノベがどこまでそれに近づくのかは現時点では未知数といえる。だが願わくは、五年後のオタク会話においても名前が出た時に「通じ合う」ような作品として記憶に残りますように。
 

*1:言うまでもなく、オタク趣味をコミュニケーションの媒体として利用出来る対象は、オタク分野に造詣のある人間だけである。オタク趣味への過度な傾倒は、非オタクとのコミュニケーションに供することの出来るリソースを食い荒らす事は忘れないように!