シロクマの屑籠

はてなダイアリーから引っ越してきた、はてな村の精神科医のブログです。

目や顔を読みとる際のリスク

 
 「心を読んでるんじゃない。顔を読んでるだけなんだよ」 - シロクマの屑籠
 
 前回記事では、「相手の心を読むなら、相手をよく見ろ、顔を見ろ」と書きました。もし、コミュニケーションを円滑にやりたいなら、是非とも身につけておきたい習慣です。
 
 ところが、相手の目や顔をまなざすことには、相応のリスクやコストが含まれています。そこを踏まえておかなければ片手落ちなので、今日はそちらを紹介します。
 
 

人の顔にはしんどいほど情報が詰まっている

 
 実は、人の顔って“しんどい”んですよ。
 
 表情の一瞬一瞬に情報がミッチリ詰まっているうえ、それらのエモーショナルな情報が、読み取る側の感情に直接影響を与えやすいのが厄介です。「もらい泣き」ぐらいならまだいいですが、怒られるときや拒絶されるときに相手の顔を凝視し続けるのは、俯いているよりもずっと大変です。じゃあ、笑っているときなら平気かというと、案外そうでもありません。怒られているときと違って、笑顔を見るのは“心地よい”ものですが、いくら笑顔でも、短時間にたくさん凝視し過ぎると意外と消耗します*1
 
 そして、目が曲者です。
 “目は口ほどにものを言う”と言いますが、実際、目は情報の坩堝です。まばたき・瞳孔の散大/縮小・目線の動き など、すべてが相手の動機や情緒を反映しているとしても、それらの情報をくまなく読み取ろうとすると、物凄く疲れてしまいます。
 
 このため、ふだん目を覗き慣れていない人や疲れが溜まっている人が頑張りすぎると、パンクしてしまうおそれがあります。疲れている時には少し加減をしたほうが良いでしょうし、慣れていない人は少しずつ挑戦したほうが安全です。
 
 

人の顔を見る時、あなたの顔も見られる

 
 もう一つのリスク。相手の目や顔から情報を集めるということは、相手にこちらの目や顔の情報を晒してしまう、ということでもあります。
 
 自分が相手を見ていれば相手も自分のほうを見ますから、これは仕方の無いことです。しかし、等しい時間見つめ合った人間が同じ量の情報を手に入れるかというとそうではなく、読み取り能力の高低や、ポーカーフェイス能力の高低によって、かなりの差が生じるものです。読み取り能力が著しく低い人や何でも顔に出てしまうような人にとって、レートの悪い情報交換になってしまう可能性は高く、それぐらいなら、いっそ目や顔をあわせないほうがマシという状況は少なくない筈です。
 
 なお、この観点からみれば、サングラスや仮面をつければ一方的に有利かもしれませんが、一般に、目や顔を覆う行為は非礼とみなされることが多いため、お勧めできません。そのうえ「私は目や顔を見られるとまずい人間です」という強い印象を相手に与えてしまいます。俯き加減になりながら、時々相手の目や顔をチラ見するぐらいのほうが現実的でしょう*2
 
 

「てめぇ、ガン飛ばしてんじゃねーよ」

 
 逆に、目や表情をジロジロ見すぎるのもマナー違反とみなされることが多い点も忘れるべきではありません。恋人同士ならともかく、一般的には、凝視され過ぎると人間はしんどくなったり不快になったりしてしまいます。知らないお兄さんを凝視すれば「てめぇ、因縁つけてんのか?」と凄まれるでしょうし、知らないお姉さんを凝視すれば「あの人、ジロジロ見ててキモい」と言われるのも無理の無いことです。
 
 相手の目や顔を見ないのもマナー違反ですが、その逆もマナー違反であることは、よく心得ておかなければなりません。
 
 

結論:無理せず、マナーを守り、自分の身の丈に合わせて

 
 以上のように、表情や目を見つめるコミュニケーションには、色々なリスクやコストが付きまといます。出来るに越したことはありませんが、リスクやコストを度外視して無理矢理がんばり過ぎれば、ひどいしっぺ返しが待っているかもしれません。苦手意識のある人は、あくまで少しずつ、身の丈にあわせたレベルで、マナーを意識しながらやってみるのが適当でしょう。
 
 そして、疲労が溜まっている人や、ストレスへの極端な脆弱性を持っている人の場合、そうした問題が解決するまでは、チャレンジを控えたほうが良いのかもしれません。世の中には、目や表情から遠ざかるコミュニケーションによって神経の磨耗やストレスから身を守っている人も存在します――そのような人の場合、ちょっと考えものです。
 
 誰にだって向き不向きはありますし、慣れてないことを急にやったって身体が追いつきません;そのあたりに注意を払いながら、目や表情を駆使したコミュニケーションを習熟していくのが良いような気がします。
 

*1:ちょっと考えてみてください:「“心地よい”けれども消耗する」という状況は、なんだか危ないクスリみたいで恐ろしくありませんか?

*2:その場合も「私は俯きながらチラ見するしかない人間です」という情報は相手に持っていかれてしまいますが、仕方ありません