シロクマの屑籠

はてなダイアリーから引っ越してきた、はてな村の精神科医のブログです。

21世紀の居酒屋ジャンヌダルクについて

 
 ハーメルンの笛吹きにせよ運動家にせよ、理念を説き、人々を教え導く人達は、理想を説きながらも先頭に立って、率先して行動を起こす。
 
 例えば、フランスの運命に殉じ、10代でありながら戦場に赴いて勇猛果敢に活躍したジャンヌダルク。
 例えば、公民権運動を強力に展開し、自らも強靱な非暴力主義を貫いたキング牧師。
 
 運動や理念や理想をただ語るばかりでなく、自らの実践を通して体現した彼らだからこそ、多くの人達を力づけ、支持者を集め、大きなうねりを生み出したのだろうなぁ、と思う。まただからこそ、こうした旗士達の伝記をみるとき、ある種の感動と感銘や説得力に胸をうたれるのだなぁとも思う。
 
 
 翻って、21世紀の娑婆世界。
 気持ちだけはジャンヌダルクになったつもりだけど、戦線の遙か後方で「理想を推進せよ!」「運動を実現せよ!」と叫ぶ人達が溢れている。前線の兵士達には、「死んで社会の為に尽くせ」「理想に殉じる機会に、喜んで身を差し出すのが筋だろう?」と督戦しつつ、自分は安全地帯で暖衣飽食している人。あるいは、最前線の兵士達には「理想の為には、いかなるコストや出血も我慢するべきだ」「理想に殉じるのが美徳というものだろう」と言いつつも、自分自身はコストや出血のいちばん少ない場所から大音量で突撃を督戦する人。しかも、具体的な解決法や巧いやり方を授けてくれるでもなく、戦車や弾薬をまわしてくれるでもなく、「理想を叶えろ!後退するな!」と命じる人達。命じられる兵士の側としては、困った味方というか、なんというか。
 
 
 ちょっと想像してみる。
 後方の首都から、最前線のフランス兵に「お前ら、国の運命に殉じる気合いが足りない。教科書のなかのあたしのように、火あぶりになっても文句言わないぐらいの気持ちで戦え」って説教して回るジャンヌダルクって、嫌だなぁ。最前線の聖女じゃなく、後方で政治委員や督戦隊をやってるジャンヌダルク。…ちっとも聖女じゃない。21世紀のジャンヌダルク政治委員やジャンヌダルク督戦隊は、メディアや居酒屋や井戸端会議に頻繁に出没するようだ*1。そして今のところ、最前線の兵士達のもとに伝説の聖女が現れる気配は無い。
 
 
 やんごとない人達のやんごとない会話を耳にして、ふと、そんな事を思った。
 

*1:もっと言えば、何らかの分野で、こうなってしまいがち、と言える