シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

親子で『ポケモンGO』を遊んでいるうちに、昆虫採集もやるようになった

 
 今年の夏は、親子でポケモンと昆虫採集に飛び回った。
 
www.4gamer.net

 
 リンク先は『ポケモンGO』が広く愛されるようになった背景についてのインタビュー記事だが、ここに、すごく納得のいく一文が載っていた。ちょっと長いが抜粋・引用すると、
 

野村氏:
 僕が考えたのは,ポケモンのコンセプトである“昆虫採集の楽しさ”が,いったんゲームボーイを通じてバーチャルの世界へ行っただけで,それが「Pokémon GO」を通じて現実世界に戻ってきた,ということなんだと思うんです。
4Gamer:
 遊びが変わったのではなく,遊びのフィールドが変わったと。
野村氏:
 ええ。バーチャルでさまざまな世界へ行くよりも,現実世界を探索して新たな発見をすることのほうが楽しいんです。この土地に何がいるのかを確かめたくなる,人間がもともと持っている“見つけたい”という欲求に,うまく訴えかけられているとも言えます。
河合氏:
 結局のところ私達は,外に出て遊ぶ面白さをいつの間にか忘れてしまっていたんですよね。通勤,通学の間でも,「ポケストップを目指して歩いたら小さな神社を見つけた」といった,発見に満ちあふれている。こういった体験をとおして,街歩きはこんなにも面白かったのかとプレイヤーに気付かせることができたんです。外に出て街を楽しむことと,ポケモンを探して捕まえるゲーム性が,うまく重なったのかもしれません。

 
 “昆虫採集の楽しさ”。
 “見つけたい”という欲求。
 そのために“出かけたい”という渇望。
 
 これらは、『ポケモンGO』にはあっても他のゲームには乏しいものだった。もともと私は、ゲームを遊ぶために遠くのゲーセンまで足を延ばす人間だったが、行先はいつもゲーセンだった。出会ったことのないポケモンをゲットするために上野公園や明治神宮に出かけたのも、普段は降りることのない駅に降りてみたのも、これが初めてだった。知らない街の知らないポケモン、知らないポケストップ。
 

 
 最近は、こんな風にポケモンと出会った場所が表示されるようになったので、強い弱いの問題だけでポケモンを選ぶだけでなく「○○市で手に入れたポケモン」「お盆の帰省で手に入れたポケモン」にも思い入れが沸くようになった。どこか遠くに旅に出て、旅先で良いポケモンを捕まえたら、それが素晴らしい思い出の品&お土産品になる。ポケモンに好きなニックネームをつけられるのも楽しい。ポケモンへの思い入れが深まる機能がこれから増えるとしたら、大歓迎だ。
 

 
 さて、そうやってあちこちでポケモンを捕まえているうちに、本物の昆虫を捕まえたい気持ちがムラムラ高まってきたのだった。
 
 好都合なことに、手軽に昆虫を捕まえられるエリアにはポケストップが多い。大都会の公園はどうだか知らないが、地方の森林公園のたぐいには結構な数のポケストップが集中しているため*1、あちこちの森林公園に出かけてはポケモンと昆虫を追い回した。
 
 すると。
 いるわいるわ、昆虫って、いるところにはちゃんといるんですね。
 

 
 山がちな公園に出向くと、大きなオニヤンマやギンヤンマが我が物顔に飛び回っていた。動きが早く、まともに追いかけても絶対に歯が立たない。彼らの縄張りを把握して、停まりそうな場所でじっと待ち伏せして捕まえた。大型のトンボは迫力があって、子どもは少しびびっている様子だったが、やがて、モノサシトンボやアキアカネぐらいは自分で捕ってくるようになった。
 
ぼく、あぶらぜみ(かがくのとも傑作集)

ぼく、あぶらぜみ(かがくのとも傑作集)

 
 セミも、種類によっては手ごわい。アブラゼミやミンミンゼミは子どもの良い遊び相手だが、見つけにくいニイニイゼミ、逃げ足の早いツクツクボウシ、人間が近づくと鳴くのをやめてしまうヒグラシは強敵だった。数十年ぶりにセミを捕まえて思い出したのは、「セミは目で追うのでなく耳で追う」こと。はじめに耳を澄ましてターゲットの居場所を絞っておかないと、こちらが発見する前に相手に発見されて逃げられてしまう。
  
 珍しいところではゲンゴロウも見つけた。この手の水生昆虫は昭和の頃よりも少なくなっていると聞いていたけれども、ポケストップ近くの田んぼが良い雰囲気だったので覗いてみたら、無防備なゲンゴロウが泳いでいたのでキャプチャーした。まさか、2016年にゲンゴロウを捕まえられるなんて! 探せばミズカマキリやテナガエビもいそうな雰囲気だったから、来年もまた探してみようと思う。
 
 「童心に帰る」という言葉があるけれど、『ポケモンGO』とそれに触発された昆虫採集に、私はすっかり夢中になってしまった。そして、子どもがバーチャルなポケモン採集とリアルな昆虫採集の両方に大喜びしているのを嬉しく思った。子どもの虫取り網の使い方も、この数カ月でだいぶサマになって、親子関係にも良い影響があったように思う。このきっかけを与えてくれた任天堂とナイアンティック社には、深く感謝せずにいられない。
 
 位置情報ゲームは、家の外へ外へプレイヤーをいざなう。そこには目新しい発見や意想外なコミュニケーションが溢れていて、ゲームを楽しんでいるのか、ゲームに付随する体験を楽しんでいるのか、とても曖昧だ。先発の『Ingress』ではたくさんのイベントが催され、“リアル課金”と称して装備や移動にお金をかけるプレイヤーがたくさんいるというが、それもわかるような気がする。“見つけたい”という欲求が“出かけたい”に繋がっていくというのは、コンピュータゲームとして、すごく興味深くてエキサイティングだ。
 
 季節は秋を迎えて、昆虫採集はオフシーズンを迎えつつある。けれでもポケモン達は冬の間も私達を家の外へといざない続けて、新しい発見や経験をたくさんもたらしてくれるのだろう。『ポケモンGO』に出会えて本当に良かった。冬も、できるだけ出かけよう。
 

*1:ということは、『Ingress』プレイヤーの人達は森林公園が好きだったのだろうか