シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

はてなブックマークの昔話と私の思い出

 
はてなブックマークが20周年を迎えたそうだ。
ユーザーの一人としてずっとお世話になってきたから、感謝しかないし、20周年おめでとうございます! としか言えない。いいことばかりではなかったし、はてなブックマークにはわからず屋もいる。それでも、たくさんの人とはてなブックマークをとおして知り合い、頂戴したコメントに助けられてきた。今回の「わたしのはてなブックマーク」キャンペーンに乗じて、ちょっと思い出話をしてみたい。
 
 

はてなブックマークが私にくれたもの

 
私ははてなブックマークからメチャクチャたくさんのものをいただいた。この20年間に集まった被ブックマーク数は、この『シロクマの屑籠』だけでも約19万、外部サイトなども含めれば20万件ほどになる。PVやアクセス数が増えたのは言うまでもない。でも、私がいただいたものはPVやアクセス数だけでは説明できないものだったと思う。
 
20年前の段階では、私ははてなダイアリーを使わずウェブサイトを持っているだけだった。オタクの社会適応について綴ったそのサイトは、当時、「かとゆー家断絶」や「かーずsp」や「まなめはうす」といったニュースサイトからアクセスが流入する状態で、私はそうしたニュースサイトを意識していた。
 
ところがある日、「はてなブックマーク」という見慣れないサービスから私のウェブサイトにアクセスしてくる訪問者に気づいた。しかも、彼らははてなブックマークのコメント機能を用いて好き勝手に批評している! 当時の私はオタクにとって耳障りの良くないことも書いていたから、その多くは否定的な内容だったけれども、私はすっかり気になってしまった。
 
「炎上」という言葉もまだ知られておらず、ウェブサイトに訪問者があるだけで嬉しくてしようがない時代だったから、否定的とはいえ、じかにコメントがつけられているのがとても嬉しかった。当時のコメントはその大半が消えてしまったとはいえ、一部は以下のように保存され、現在でも振り返ることができる。
 
b.hatena.ne.jp
 
私がはてなブックマークから最初に受け取った恩恵は、これらのブックマークと、これらのブックマークをとおして知り合ったオンラインの新しい知人や友人だった。
 
その少し後、スクールカーストという言葉を言い始めたたにしさんから「はてなダイアリー(現はてなブログ)に引っ越しておいでよ」と誘われて始めたのがこのブログ、『シロクマの屑籠』だ。ここでもはてなブックマークのユーザーの皆さんが私にかまってくれた。私自身、はてなブックマークユーザーとして他のブログやウェブサイトにコメントをつけたり、他のはてなブックマークユーザーと直接やりとりしたりした。
  
今では廃れたメソッドだけど、当時ははてなブックマークにはてなブックマークをつけ、さらにはてなブックマークをつけていく「二階」「三階」といったメソッドもよく用いられた。はてなブックマークはソーシャルブックマークとして、個人の栞として用いるのが本筋ではある。けれども100字以内のコメントがつけられるから、今日のX(旧twitter)のようにも利用できるし、コメントの通覧性という点では現在でもXに優越している。そうした利用方法をユーザーが見逃すわけがないわけで、思考や情念のこもった100字以内の応酬があちこちで行われた。その際、100字では足りなかったり、何か言ってきた相手に言い返したくなったりした時に、「二階」「三階」といった重複ブックマークがコミュニケーションの手段として利用されていた。
 
そうしてユーザーのコメントとアイコンが通覧できる稀有なサービスとして、twitterに先駆けてはてなブックマークは繁盛し、コミュニケーションの輪ができあがった。コミュニティがあったとも言えるだろう。はてなダイアリーの利用者に比べ、はてなブックマークの利用者同士のあいだにはコミュニティ感があり、実際、はてなブックマークがこ゚縁となってオフ会でお会いした人はたくさんいる。
 
ひとつ例を挙げたい。2012年の8月、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』の著者である岩崎夏海さんを招いてオフ会が開かれたことがあった。このオフ会は一部のはてなブックマーク利用者にもシェアされ、私をはじめ、幾人かはオフ会レポート(いわゆるオフレポ)を書いたりした。
 
p-shirokuma.hatenadiary.com
posfie.com
 
この二つのリンク先には、当時のはてなブックマークのユーザーの名前やアイコンがたくさん残っている。読んでみればわかるように、あくまでこれは、はてなブックマークを介してできあがった内輪的コミュニティでの出来事だった。が、現在のSNSよりずっと規模が小さいとはいえ、オープンなインターネットの一角でありつつもコミュニティ感があり、内部運動があり、はてなブログなどと強力に連携しているという点で、はてなブックマークは唯一無二の存在だった。twitterが登場してからも長い間、そうしたはてなブックマークは日本のインターネットの一角で独特の位置と影響力を持っていて、そこがネットユーザーとしての私の第二の故郷になった。
 
その第二の故郷であるはてなブックマークとはてなブログの世界で、私はたくさんのはてなブックマークユーザーに“鍛えられ”、次第に社会適応と現代社会について考える習慣やヒントを蓄積していった。はてなブログを書いていてしばしば思ったのは、私自身が知らないことでも、はてなブックマークユーザーが知っていて、教えてくれることは非常によくある、ということだった。率直に言えば、はてなブックマークユーザーのなかには言い方の悪い人や口さがない人、分別を弁えていない人も混じっている。けれども私の知らないことをたくさん知っている人、私が思いつかない視点を次々に提供してくれる人がもっとたくさん存在している。
 
私は、知識や視点をたくさんわけてくれるはてなブックマークユーザーを「はてなブックマークお気に入り機能」を用いて慎重に集めていった。今でも「はてなブックマークお気に入り機能」は私のオンライン情報収集の大事なところを担っていて、たとえば「ライトノベル担当ブックマーカー」「日本の旅担当ブックマーカー」「IT担当ブックマーカー」と私が勝手に任命しているユーザーのブックマークから、私は知識や情報をわけていただいている。
 
オンライン情報収集に関しては、この20年間に、RSSリーダーが廃れたりSNSがキュレーションの場として注目されたり色々なことが起こった。最近は、AI普及のインパクトが大きい。時代ごとに情報の導線が変わっていくのは否めない。けれどもはてなブックマークは情報収集ツールのひとつとして今なお現役で、あらゆる分野でさまざまなコメント付きの情報を提供してくれる。はてなブックマークには色々な人が混じっている。それは短所でもあり長所でもあるから、ユーザーとしての私は、その短所をかわし長所を得るために「はてなブックマークお気に入り」機能や「非表示」機能などを組み合わせて、なるべく良い状態をキープするようメンテナンスをしている。
 
 

最適なはてなブックマークの使いかたは門外不出

 
そうしたはてなブックマークの使いかたについて、黄金頭さんが以下のようなことを書いていた。
 
goldhead.hatenablog.com
 
この文章は、はてなブックマークを使うにあたって重要な教訓で、はてなブックマークをヘビーに使う人には一読をすすめたい。はてなブックマークには何も言及しないことが最も重要な瞬間があり、無言及を貫く最上級の手段が「はてなブックマークをつけない」となる。ただし、これははてなブックマークの内輪を意識しすぎた考え方で、ほとんどの場合、はてなブックマークを非表示でつけておいて、後で読み返すのに必要な程度のコメントを残しておくぶんには問題ないと思われる。
 
ただし、なにかの間違いで非表示のはてなブックマークが表示されてしまう可能性はゼロではないので、非表示だからといって口汚いことをコメントするのはやめたほうがいいと思う。これに限らず、非表示だからといって好き勝手に書く・悪口や悪態をつくのはバレた時のダメージが大きいことに加えて、自分自身の心が汚れてしまうので薦められない。
 
それからもうひとつ。はてなブックマークでもXでもそうだけど、自分のネットユースの秘訣はむやみに明かしてはいけない、と思う。私は今までに色々なネットユースの秘訣をブログなどに書いてきたけれども、それは必ず最新の方法ではなく「型落ちの方法」を書いてきた。今、自分がどんな風にネットサービスを使っているのかの大事なところはあまり人に言わないほうがいいと思う。それははてなブックマークでも、それ以外のネットサービスでも、同じじゃないだろうか。
 
 

20年間、本当にありがとうございます

 
いや、そんな話がしたいんじゃなくて、思い出話がしたかったのだった。
ただのブロガーだった私もいつしか本を書くようになり、気が付けば、本を書くことが生活の一部になった。そのせいでブログを書く時間がすっかり減ってしまったけれども、それは嬉しい悲鳴だ。はてなブックマークを使い始めた頃、私は「単著もないのに」というコメントを(はてなブックマークか、はてなブログのどこかで)見かけた。その頃、本を出版すれば何かが変わる、何か凄いことが起こると思っていた。実際は何も変わらなかったし何も起こらなかった。でも、本を書き続けたことで何かが変わったし、人間と社会について知りたい気持ちはますます高まっている。その興味関心の膨張は、とても良かったと思っているし、それもはてなブックマークのおかげじゃないかなと思う。
 
十代の頃、私は人間のことが知りたくて哲学か心理学をやりたいと願ったけれども、いろいろな理由によって不可能になり、二十代の終わりには諦めていた。けれどもその夢を思い出させてくれたのは、はてなブックマークとそのユーザーの皆さんだった。そんな恩義のあるサービスだから、はてなブックマークには、これからも日本発のソーシャルブックマークサービスとして健在であって欲しいと願う。そのためにも、私ははてなブックマークに恩返しがしたい。恩返しの方法のひとつは、はてなブックマークを使い続けること、特に面白い記事を見つけてきてはてなブックマークに登録し、他のユーザーと共有することだと思う。もうひとつは、私の場合、少しでもはてなブックマークユーザーに関心を持っていただけるような文章をはてなブログに投稿すること、はてなブックマーク圏を賑わせるような活動に参加することだ。
 
でも、今日は未来のことより20周年のお祝いにワインをあけたい。はてなブックマーク20周年おめでとうございます。そしてありがとうございます。この機会に、ここを訪れてくださったはてなブックマークユーザーの皆様にも御礼申し上げます。今後とも、どうかよろしくお願い申し上げます。
 
 
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はてなブックマーク20周年 特別お題キャンペーン
by はてなブックマーク20周年