シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

患者満足度はあてにできるか?(いや、できないよね)


 
先日、開業医★チョココルネさんが、「ゆうメンタルクリニックでは患者満足度で医師をランク分けして良い医師が高待遇で確保される仕組みになっている」、とXでコメントされていた。それに対して、AMAPSYMEDさんが、「患者の主観的満足度でインセンティブを与えたら、短期的に患者を気持ち良くさせることに全振りしたモンスターが増殖するだけでは? それは医療か?」と問いかけているのを見かけた。
 
精神科の病院やクリニックをgoogle検索すると、ひどい評価がつけられていることがしばしばある。身体疾患を診る病院や総合病院、歯科クリニックなどにもひどい評価がつけられていることは珍しくない。ひょっとしたら、あれは病院にひどい評価をつけたい人の意見だけ拾っていて、すべての患者さんにアンケートをとれば違った結果が出てくるのかもしれない。現状、私が感じるのは「患者満足度的なものと、医療機関がマトモかどうかはイコールではない」「患者満足度が低いから駄目なドクターがやっている医療機関とは限らない」といったものだ。
 
患者満足度の高い医院やクリニックが良く、そうでない医院やクリニックが悪い……というのは確かに医療っぽくなくて、サービス業っぽさがある。逆に考えると、サービス業としてお客様が満足するサービスを提供する、という観点からみれば、「短期的に患者を気持ち良くさせることに全振りしたモンスター」こそが最も正当なサービス事業者なのであって、医師免許証などの資格を用いながらサービスを提供しているサービス事業者においては、それこそが正解なのだろう。
 
でもって、医師免許証などの資格を用いてサービスを提供しているサービス事業者は自由診療領域に存在する。ということは、「短期的に患者を気持ち良くさせることに全振りしたモンスター」は、おそらく実在していて、お客様から高い評価をいただき、ご愛顧いただいているはずだ。
 
だが、それは医療か?
そうじゃないよね、サービスだよね。
各領域で救命救急をやっている病院、緊急受け入れをしなければならない病院、治療ガイドラインなどを遵守しエビデンスに基づいた医療を推進する病院、等々は、患者満足度という評価尺度にどうしても馴染まない部分がある。精神科の場合、その極北とも言えるシチュエーションがある:病識の欠如した患者さんに非同意入院の決定を伝えなければならない状態や疾患が少なからず存在するため、そのような場合、患者満足度という評価尺度にそぐわない決定を下さなければならない場合もあり得る。
 
そうでなくても、多くの精神疾患において患者さんの喜ばないことを言ったりやったりしなければならない場面は多い。たとえばベンゾジアゼピン系抗不安薬/睡眠薬の取り扱いについて、精神科医は慎重を期したいが、患者さんはそう考えていないことはままある。身体疾患の場合も、そういうのは少なくないと思う。たとえば糖尿病や高血圧などの生活習慣病について患者さんが聞きたくもないことを説明し、やりたくもないライフスタイルを勧めるのは本当は大事なことだ。しかし、患者満足度という評価尺度、とりわけ短期的な顧客満足度といった評価尺度は、そのようにマトモに説明しマトモに勧めるマトモなドクターをきっと低く評価してしまう。
 
患者さんたちが、そういう"良薬は口に苦し"な助言をするドクターを高く評価し、患者満足度も高まる人々ばかりなら、医療的にマトモな言動のドクターの評価がうなぎのぼりで、イエスマンみたいなドクターの評価が地を這うはずだが、現実はそうではない。イエスマンになってくれなければgoogleマップに★1をつけちゃう患者さんが存在する以上、患者満足度の高低とマトモな医療機関か否かが等号で結べるとは考えないほうがいいだろう。そもそも、何が腕の良い医療で何がそうでない医療かを評価(推定)できる人間がいったいどこにどれだけいる? ほとんどどこにもいるまい。同業者の間でさえ、ドクターの腕の良し悪しや医療機関の評価は割れることがある。せいぜい可能なのは、同業者集団のなかで明らかに鼻つまみ者になるほど素行の悪いドクターや医療機関を、悪いものとみなす程度のことだ。同業でさえそうなのだから、患者さんサイドからドクターの良し悪し、医療機関の良し悪しについて考えることは著しく困難、というより不可能だと思う。
 
さて、そうなるとグルリと回って「患者満足度ぐらいしか、あてにできる指標はないじゃないか」となってしまう。医療上の妥当性や技量の高低を評価できるウルトラ患者さまもいらっしゃるかもしれないが、そうではないほとんどすべての患者さんは患者満足度以外にそのドクター、その医院やクリニックを云々する評価尺度が存在しない。本来なら「患者さん側からみて妥当な評価尺度など、一切存在しないのだ」と腹をくくるしかないのだろうけど、それができないのが人情ってものですよね。かくして、気休めにもならない患者満足度が、googleマップ上を独り歩きし、フェイクニュースのごとく患者さんたちを欺き始める。患者満足度を評価するのは患者さん自身であるから、この場合、欺いているのは患者さん自身(世間に存在する患者さんのまとまり)とも言える。
 
ポストモダンっぽい話になってきて少しだけワクワクしてきたが、今回はそこに深入りしない。
医療が典型的なサービス業とは言い切れず、(たとえば)エンターテインメント産業などに比べて腕の良し悪しと満足度が乖離しやすい領域である以上、患者満足度という評価尺度はあてにしすぎるべきではないだろう。もちろん、それが医療機関やドクターのサービス業的側面を反映している、とは言える。しかし、逆に言えばサービス業的側面に引っ張られ過ぎていること、医療としてのマトモさとは関係のないかたちで上げ下げでき得ることは、もっと知られていいんじゃないかなあと思うので、この文章の無料パートにはそういうことを書きました。
 
 
※以下の有料記事パートは、常連さんと共有したい文章しか書いてないので、通常、読まなくていいと思います。
 
 

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