2025年も半分が過ぎた。この半年間は、とにかく色々なところでおしゃべりやプレゼンテーションをした。そういうことには幾らか慣れたのは良かったが、長い目で見れば「もっと勉強をしなければ」という思いが膨らんだ半年だったと思う。
この文章は、この2025年の4~6月に読んだ本、読もうとしている本についてダラダラ書いたものだ。半分ぐらい公開し、半分ぐらいを課金エリアに安置しておきたい。
【豆の歴史】
前々から、ホモ・サピエンスの農業についての話のなかで豆の重要性がどうなのか、もっと突っ込んだ内容を読んでみたいと思っていた。で、たまたまこの本とご縁があって読むことに。ところが記述内容は人文社会科学系に寄っている感じで、生物学系については論拠が少し古い感じがした。豆とホモ・サピエンスというテーマで考える際には、ちょっと遅れているかもしれない……という警戒ランプが灯った。
この本で面白いのは、なんといっても世界各地の豆、および豆に関連する文化が知れることだ。人類にとって豆がどんなに重要なのか、どう重要なのかを知るには良かったし、お料理の話が豊富で楽しかった。それから原書房さんがこの手の○○の歴史をシリーズ化していること、この『豆の歴史』はその一冊に過ぎないことが知れたのも良かった。シリーズのなかには読んでみたいものが色々ある。全部買うのはきついので、図書館で試し読みしてみるのがよさそう。
【はじめての子ども論】
フィリップ・アリエス『<子供>の誕生』はアナール学派の名著にして、子ども史の草分けなんだけど、当然、その内容や論拠には批判もある。アリエスの本は面白いし、批判を集めているという点では古典でもあるけれど、それゆえ賛否もあるし、そこから発展した議論もある。そういうのを専門の人がまとめた本。この本も、有斐閣が出している「はじめての○○」シリーズの一冊のひとつで、他にも色々と気になる品がある。
中盤以降は日本における展開、日本における児童保護や行政の挙動、障碍児や外国人の子どもの問題なども記されていて、ああ、専門家の本だぁという読み応えがある。講義が本になっているためか、あちこちに学生向け(そして読者向けの)クエスチョンがあるのも良かった。『<子供>の誕生』を読んで関心を持った人が次にステップアップする解説書としてはこれがいいように思えた。
【リキッド・ライフ】
ポーランド人の社会学者、バウマンの本。後期近代(現代社会)を論じる「リキッド・モダニティ」という視点は前々から知っていたけれども、この『リキッド・ライフ』はなかでもアイデンティティ形成に関連した本で、後期近代においてアイデンティティ形成がどうであるのかを、社会学者の視点から記述している。イギリスの社会学者であるアンソニー・ギデンズが著書で書いていることとの互換性は高いように感じられた。後期近代の論者って感じがぷんぷんする。
心理発達の一環としてアイデンティティ論を読みがちな私みたいな読者からみると、バウマンのアイデンティティ論とそこに登場する人間像は、流動化した社会の現状にあまりに素直に適合させられ過ぎている、と感じる。リキッド・モダニティだから、人はひとところに留まってはいられないし、親密圏においても労働者としても消費者としてもアイデンティティの構成要素は流動的でなければならないし、また、そうだって話は理解できる。だけど生の人間、生物学的与件に制約された人間は、そんな簡単に流動化した社会に適応できるわけがない、いや、控えめにいっても好条件に恵まれなければ無理でしょ、って思う一面もある。
ただしバウマンはそこもわかっていて、そういう流動化した社会に置いていかれる人間、本書のなかで頻繁に出てくる言葉を借りるなら「廃棄物」になってしまう人間についても色々と書いてはいる。リキッド・モダニティが、ある種の疎外を含んでいることなんて百も承知だろう。それから子ども。子どもが後期近代のなかでどういう位置づけなのかを読むのは、とても参考になった。ちょうど『はじめての子ども論』を読んだ少し後に触れたこともあって、良い意味で社会学者らしい目線で後期近代の子どもの立場と、その子どもの立場をでっちあげている大人たちについて復習できた気がした。
心理発達という観点から読むとちょっと物足りないけれども、後期近代における人々の課題を知るうえではいけていると思います。いい本なんじゃないでしょうか。
【法治の獣】
自分が読みたいSFは、こういうSFです! 私の好物がぎゅうぎゅう詰めになったSF。サイエンスフィクションであるだけでなく、ソーシャルフィクションめいた一面もあり、それでいて未来、それでいて星系探査モノめいたところがある。ゲーム『stellaris』の序盤パートが好きな人にも向いていると思うし、ここでとりあげられているSF成分のほとんどは、『stellaris』でいえば社会科学分野研究が該当する。『プロジェクト・ヘイル・メアリー』が好きな人にもお勧めかもだけど、文体は違う感じ。私はすごく気に入ったので、他の作品もまとめて買いました。時間ができたら読むつもりです。
こんな感じで、忙しいなりに色んな分野の色んな本を読んでまわっています。
※記事としてはここまでです。
以下は、常連さん向けのメッセージとなります。
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