シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

90~00年代にアキバを闊歩していたオタクはどこへ行った?

 


ドラマ『電車男』に登場したような、かつてのオタクの典型像に相当するオタクたちはどこへ行ってしまったのか? これについて、私がこの30年ほど観察を続けてきた結果についてしゃべってみる。
 
 

そもそも、当時のような服を買って着るのが一苦労

 
本題に入る前に、かつてのオタクの典型的服装を再現する難しさについて書いてみたい。
 

 
当時のオタクの典型的服装としてイメージされるのは、よれたTシャツ、見栄えのしないチェック柄のシャツ、安物のジーンズ、などだったように思われる。TVドラマ『電車男』に登場するオタクたちは当時を非常によく再現しているので、思い出すには良いように思う。
 
問題は、そうした服が今、どこにどれだけ売っているかだ。
今でも頑張れば手に入る。でも少し頑張らなければ手に入らない。いまどきはユニクロやGUなどが幅をきかせ、そこで手に入る服にはユニクロやGUの雰囲気がついている。ユニクロやGUで一番買い求められる服を買っても、20年前の再現とはいかない。たぶん2020年代らしい、ちょっと控えめな服に落ち着いてしまうんじゃないかなと思う。
 
00年代までだったら、郊外の国道沿いの量販店に出かければオタク然としたアイテムはまだまだ揃えやすかった。けれども20年もの歳月が経つと、郊外の国道沿いの量販店のラインナップもさすがに現代風になってしまうわけで、かなり意識して買い求めなければ昔のオタクの恰好そのものにはまとまらない。そもそも外見に頓着しないオタクは意識して自分の服を買い求めたりはしない。2020年代になっても外見を気にしない中年~老年オタクがいたとして、彼/彼女がめんどくさそうに服を選んだり、親に買ってきてもらったりした場合には、もっといまどきの恰好になってしまうだろう。
 
衣服の調達という視点から考えても、20年前のアキバで典型的だった服装を続けるのはそれなり難しい。だからもし、20年後の今も彼らがオタクを続けていたとしても、同じ格好をしているとは考えないほうがいいと思う。
 
 

20~30歳でオタクをやっていた人らが40~50歳でオタクを続けていられるか問題

 
うちのブログでは繰り返しの話題になるけど、ライフスタイルとしてのオタク、つまりオタク然とした活動は自然に続けられるものじゃない。オタクを自称する愛好家たちはしばしば、「オタクってのは自然になるものなんだ」みたいなことを言うし、確かにオタクになるまでは自然経過かもしれない。でも「オタクを続ける」ってのは自然なことじゃない。少なくとも私が観察している限りでは、オタクは、オタクになるのは自然でも継続するには人為的な努力が必要になる。特にユースカルチャー領域のオタクはそうだ。
 
その努力は、はじめのうちは不要かもしれない。しかし歳月を積み重ねるにつれて必要になり、やがて必須になる。
 


 
私は今年で50歳になるが、30年以上アニメやゲームを楽しんできたなかで、いろいろな愛好家やオタクに出会い、別れてきた。その全員の現在を知っているわけではないけれども、幾人かは現在でも消息がわかるし、オタクを続けられなくなってフェードアウトしていった時までは消息がわかる人もいる。昔はあんなに自然に・熱心にゲーオタやアニオタをやっていた人でも、40歳時点、50歳時点ではゲーオタでもアニオタでもなくなっている人は珍しくない。
 
そうした人たちが完全にゲームやアニメと切れているとは限らないことは断っておく。たとえば先月までの『機動戦士ガンダムジークアクス』のオンエアー中は、昔はガンダムにうるさかった人が一時的に帰ってくる現象があった。でも、「かつては毎クールごとに複数本のアニメを観ていたはずの人も、今ではたまにしかアニメを観ない」なんてよくあることだ。昔のアニメのことはよく思い出せても、2020年代につくられたアニメのタイトルはほとんど知らない、なんてこともよくあることだ。
 
これは私自身の話になるけれども、今の私はゲームやアニメと付き合うにあたって相当な努力が必要になってしまっている。妥協やあきらめもだ。
 

 
たとえば私は『艦これ』はどうにか第一線で遊ばせてもらっているが、これは他の幾つかのゲームとトレードオフの関係にある。アニメやゲームに限ったことではないが、エンタメと向き合うには時間と体力が必要で、忙しい中年の今、そのための時間や体力を捻出するのは楽なことじゃない。
 
それから登場人物たちの年齢。
アニメやゲームはユースカルチャーとして発展してきたもので、基本的に中年の顔をしていない。中年向けの作品も最近は増えてきたが、すべての作品がそう創られているわけではない。
 
昨今はマスボリュームの大きな私たちの世代を狙ってのリメイク作品なども作られているが、リメイクされた作品に登場する主要キャラクターも基本的には若者だ。「登場人物に感情移入するばかりが作品の鑑賞スタイルではない」のは確かにそのとおりだし、私も、感情移入に依存しない鑑賞態度の割合は次第に大きくなってきた。とはいえ、ティーンエージャーのキャラクターたちがワチャワチャやっているのを眺める際の姿勢は20年前と同じではない。
 
でもって、私の観測範囲では、そこまでしてアニメやゲームに食らいつくのをやめてしまった人がかなりいる。やめた時期はさまざまだ。35歳前後でやめた人、40歳前後でやめた人、45歳前後でやめた人。コミケや現地イベントに行っていた人が、ある時から行かなくなる。毎シーズンアニメを10本ぐらい見ていた人が3本ぐらいしか見なくなり、1本しか見なくなり、見ないシーズンのほうが多いぐらいになる。
 
ゲームについても、人気タイトルの最前線でプレイしなくなったり、新しいタイトルでは遊ばなくなったり、steamの積みゲーの数を誇るばかりになったり。ゲームの場合は、動体視力の低下やかすみ目、老眼といった問題もついてまわる。ゲームは中年の顔をしていない。経験を生かせば戦えないことはないけれども、十代や二十代の頃のような身体性にまかせたプレイはもうできない。腰痛も怖いし、長時間座りっぱなしによる血液循環の問題も怖い。中年~老年のプレイヤーは、若年のプレイヤーよりもエコノミークラス症候群などの危険な状態に陥りやすいことは、中年以降のゲームプレイヤーは全員知っておくべきだと思うし、それを防ぐための小休止や水分補給などに自覚的であって欲しいと思う。
 
オタクだから人間であることを免れるわけではない。
オタクだからフリーレンのように生きられるわけでもない。
年を取ればオタクだって身体の加齢に直面するし、集中力やバイタリティを維持するのも大変になってくる。社会的加齢も問題だ。中年はしばしば忙しい。子育てをしている人は子育てにリソースを割くことになるし、職場で責任ある立場を引き受けている割合も高くなる。そういう身上で20年前と同じようにオタクをするのは苦労なことだ。20年前にアキバを歩き回っていたオタクのなかにも、子育てや仕事に本腰を入れるなかでアニメやゲームなどに触れていられなくなる人、オタクというにはすっかり薄くなってしまう人はいると思う。
 
それがその人の選択なら、決して悪いことじゃない。
 
 

20年以上活躍している人には、プロかセミプロっぽい人が多い

 
それとは別に、20年前とほとんど変わらずにオタクらしく活躍している人もいる。私の観測範囲では、そういう人の数は無視できるほど少なくはない。ただ、そういう人の多くはコンテンツを作る側に回っている。プロと言って構わない立場だったり、セミプロと言いたくなるような立場だったり。
 
つまり、なんらか商業出版に携わっていたり、同人誌を定期的に作っていたりする人たちだ。インフルエンサーやキュレーターとして活躍している人もいる。こうした人たちは、現在も20年前とあまり変わらず、作品を盛んに摂取し、作品についてたくさんおしゃべりをしている。ただ、そうした人たちは趣味という水準をはみ出している気配もあり、オタクと仕事、オタクと収入、オタクと人生の境目が消費者としてのオタクたちに比べて曖昧にみえる。こう言ってはなんだが、オタクを続けることができるだけでなくオタクを続けなければならない立場にあるようにも見える。金銭が絡んでいる場合、それはもう仕方のないことではある。
 
だけど、こうしたプロやセミプロっぽい人たちを見ていても、「タフだなぁ」という思いは禁じ得ない。なかには健康を損ねかけながら続けているようにみえる人もいるが、そうは言っても根性やガッツや強い意志がなければ続けられないことを続けているのも事実。彼らが何の工夫も努力も制約もなしに活動を続けているとはまったく思えない。
 
同世代の人がそうやって現役でアニメやゲームを追究しているのを見るのは嬉しいことだし、あやかりたいと私は思う。だけど、そうして現役を続けている人々の陰には努力や運や才能の恩寵があり、ひょっとしたら人脈やコミュニケーション能力の恩寵もあるだろうってことは忘れないでおきたい。思春期から遠く離れてもしっかりオタクを続けるってのは、本来そんなに簡単なことではなく、たぶん、自然なことでもないと私は思うからだ。
 
 
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