シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。現在、忙しいうえブログは実験モードに移行しています。

『何者かになりたい』が出版されます

 

何者かになりたい

何者かになりたい

  • 作者:熊代 亨
  • 発売日: 2021/06/12
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 
このたび私は、「何者かになりたい」という願い、「何者にもなれない」という悩みについての本を出していただく運びとなりました。
 
 

 
 



   

SNS時代の「何者」とは、いまどきのアイデンティティの問題とは

 
 中年期を迎えた私自身にとって、「何者かになりたい」という願いや悩みは新しい問題ではありませんでした。先達が残したアイデンティティ論のおかげもあり、私のなかでは回答が出ている問題だと思っていました。もう回答があるから、わざわざ語るまでもあるまい──そうも考えていました。
 
 ところが2020年、ある編集者さんから「何者かになりたい」「何者にもなれない」について熊代亨の本を読んでみたいとお誘いをいただき、アップトゥデイトな"何者問題"の本、さらに2020年代の個人のアイデンティティのありかたについての本を書く機会を得ました。
 
 改めて書き起こしてみると、SNS時代ならではのアドバンテージやリスク、さらに中年期以降の何者問題について、自分の捉えかたが昔と変わっていることに気付き、驚いてしまいました。とりわけ、自分が何者なのかを規定する要素、ひいてはアイデンティティを獲得する要素を、私は以前よりもずっと動的・群体的に捉えていると今は自覚していて、この本は、それに基づいて書きました。
 
 たとえば、自分は何者でもないと感じている人に必要なのは、他者からの称賛や承認でしょうか? もちろん! でも、直接的な称賛や承認が得られなくても、なんらかの居場所やメンバーシップの一員だと感じていれば悩む度合いは減るでしょう。いや、それどころか、twitterやFacebookでインフルエンサーの発言に「いいね」や「シェア」をしている瞬間も、"何者問題"がインスタントに緩和されているのではないでしょうか。
 
 逆に言うと、"何者問題"に悩んでいる人はそのインスタントな緩和のために「いいね」や「シェア」に溺れてしまうことがあり得る、ともいえます。ネット上で展開されるあれこれの極論に「いいね」や「リツイート」をつけている人達も、その大半は思想家や主義者ではなく、"何者問題"を解決したり緩和したりするインスタントな行動として、あれをやっているのではないでしょうか。
 
 あるいは他者からの称賛や承認を獲得して何者かになろうとするあまり、ソーシャルゲームに多額の課金をしてしまったり、危なっかしい配信をやってしまう人もいるでしょう。
 
 「何者かになりたい」「自分は何者でもない」といった"何者問題"は、こんな風にさまざまに人を動機づけます。悪い結果にばかり動機づけるのでなく、向上心やライバル意識などをとおして良い結果へと動機づけることもあるでしょう。それだけに、"何者問題"を取り扱う巧拙によって人の運命は大きく変わるとも想定されます。どうせなら、あなたの"何者問題"をできるだけ望ましい結果へと結びつけるよう、いろいろ知ったうえで工夫してみませんか。
 
 ……と、こんな具合に、この本は"何者問題"に今向き合っている人を主な想定読者として書いています。私が書いた本のなかでは、『認められたい』や『「若者」をやめて、「大人」を始める』にコンセプトが近くて、タイトルどおりの願いや悩みを持っている人に届けるべく作られた本だと思います。ご興味・関心のある方、「何者かになりたい」「自分は何者でもない」といった気持ちを持っている方に特におすすめします。よろしければ手に取ってやってください。(以下に、この本の"はじめに"を抜粋して貼り付けておきます)
 

『何者かになりたい』はじめに

 自分とは、いったい何者なのでしょうか。

 小さな子どもは自分が一体何者なのか、自分とはどういう人間なのかを深く考えることがありません。自分が何者なのかを知らなくても困らないまま、小さな子どもはそのままでいられます。
 
 ところが成長し、思春期を迎える頃にもなると、私たちは自分についてあれこれ考えはじめます。自分はこんな風になりたい……なりたい自分になれていない……こんなことを考える動物は、思春期以降の人間をおいてほかにありません。この本を手にするあなたも、「自分は何者なのか」「自分は何者になれるのか」考えたり悩んだりするのではないでしょうか。
 
 それともあなたは、名声や地位を確立した人と自分自身を見比べて「自分はまだ何者でもない」と落胆したり、「自分は何者にもなれそうにない」と焦っていたりするかもしれません。そうした落胆や焦りは思春期特有のものではなく、時には中年の男女がそう思うこともあります。
 
 どうして私たちは自分についてこんなに考えてしまうのでしょう?
 どうして私たちは「何者かになりたい」と願い、「何者にもなれない」と悩むので
しょう?
 
 この本では、こうした願い・悩みを「何者問題」と呼び、その分析と解決策の考案を行っていきたいと思います。
 
 この何者問題については、20世紀の心理学者や精神科医の先達がさまざまなヒントを書いています。たとえば私が自分について考えずにいられなかった頃、小此木啓吾という精神科医が書いた『モラトリアム人間の時代』という本を読み、自分の成長戦略のヒントにさせてもらいました。この『モラトリアム人間の時代』は優れた解説書ですが、出版されたのが1978年と古く、さすがに今の時代には合わない部分も出てきています。また、全体的に文章が硬く感じられ、読みにくいと感じる人もいらっしゃるかもしれません。

 そこで私は、2020年代にふさわしい内容と文体の何者問題についての本をつくろうと考えました。バブル景気が崩壊する前と後や、スマホやSNSが当たり前になる前と後では、私たちのコミュニケーションも、社会状況もかなり違っています。それに伴って、「何者かになりたい」ときに頼るべき手段も、「何者にもなれない」と悩んでいる人が注意しなければならないことも、変わってきていると私は見ています。
「何者かになりたい」という願いのために成長戦略を立てるにしろ、「何者にもなれない」という悩みを解消していく方法を考えるにしろ、20世紀の解説書のコピーアンドペーストではたぶんうまくいきません。控えめに言っても、20世紀の心理学者や精神科医が考えなくてもよかったことを考えておく必要性があるでしょう。
 
 私自身がもっとも強く「何者かになりたい」と願っていた時期は、インターネットが普及期を迎えていた1995 〜2010年くらいで、当時の私は自分の成長戦略の一部としてオンライン化されたコミュニケーションをあてにしていました。私の成長戦略はウェブサイトやブログやツイッターのおかげで少しずつ実を結び、2011年に最初の書籍を出版して以来、私の人生はだいぶ変わりました。いわば、私はオンライン化されたコミュニケーションをとおして「何者かになった」わけです。一方で、同じように成長戦略を達成していく人だけでなく、どんどん何者問題の深みにはまっていく人や、何者問題によって誰かに搾取されていく人もたくさん見てきました。
 
 いまどきの「何者かになりたい」や「何者にもなれない」について考える際、コミュニケーションがある程度までオンライン化されている前提は避けて通れません。私は平成生まれの方に比べて古い人間かもしれませんが、それでもインターネットの普及期からオンラインコミュニケーションと共に生きてきたぶん、そうでない同世代よりは若い人々に近いところがあるだろうと思っています。この本は、そういう精神科医が書いた「何者かになりたい」についての本だとご理解いただいたうえで、お読みいただければと思います。
 
 以下、簡単にこの本の章立てをご紹介します。
 第1章は、他人から褒められたり評価されたりすることで「何者かになる」ことの難しさについてです。昨今は競争社会といわれ、高学歴や高収入を目指す人が増えています。フォロワー数の多いSNSのアカウントや、登録数の多い動画配信チャンネルを持つことで何者かになろうとする人もいらっしゃるでしょう。でも、実際はそうシンプルに「何者かになれる」わけではありません。こうした、いわゆる承認欲求を充たす方向性の成長戦略は、時に自分が何者かわからなくなってしまうリスクを伴っています。そうした注意点についても触れていきます。
 
 第2章は、人間関係や仲間意識が何者問題にもたらす影響についてです。「何者かになりたい」「何者にもなれない」というと、どこまでも自分自身のことだから他人は関係ない、と思う方もいらっしゃるでしょう。ところがそうでもないのです。たとえばバーベキューの輪のなかにあなたがうまく溶け込めているとき、少なくともその最中は何者問題に悩まなくなるのではないでしょうか。こんな具合に、人間関係や仲間意識によって何者問題は大きな影響を受けます。その影響について、注意点もまじえながら紹介します。
 
 第3章は、何者問題を「アイデンティティ」という心理学の言葉で説明し、願いや悩みにどう向き合えばいいのかまとめました。何者問題を解決していく方法を心理学の言葉で言い換えるなら、それは「アイデンティティを獲得・確立していきましょう」となります。ただし、たとえばクラスの人気者と不登校の人ではそのための方策はだいぶ違ったものになるはずです。同様に、「何者かになりたい」という願いが優勢な人と「何者にもなれない」という悩みが優勢な人でも、とるべき解決法は変わってくるでしょう。そうしたケースバイケースな部分を意識しながら解決策を示してみます。
 
 第4章は、何者問題と恋愛や結婚、パートナーシップについての章です。恋愛や結婚やパートナーシップが、何者でもない自分の最終的な解決策になると考える人もなかにはいるかもしれません。確かにそれらはあなたの何者問題と大きく関係していますし、強い影響を与える可能性があります。しかし本当にそれらは何者問題の特効薬になるのでしょうか? 恋愛や結婚やパートナーシップがもたらすものについて、のちのち家族をつくる段階も含めてここで展望してみます。
 
 第5章は、子ども時代が何者問題に与える影響についてです。はじめに書いたように、小さな子どもは自分がどういう人間なのか自問自答することはありません。だからといって、子ども時代がこの問題に与える影響が小さいかといったら、そうでもありません。子どもの心理発達の視点からみた何者問題について、ここで紹介してみます。
 
 第6章は、思春期を過ぎたあとに起こり得る何者問題に迫ります。親になったあとや中年期を過ぎたあとでも、何者問題は起こり得ます。しかも、それまでとは形を変えて。年をとって人生の残り時間が短くなっていくなかで、人は若者から大人へと変わっていかなければなりません。また、子離れや死別など、自分自身のアイデンティティの一部をなしていたものと別れるライフイベントもあります。そうした変化のなかで何者問題がどのように変化し、どのような新しい課題が現れてくるのか、予習をしていただきます。
 
 メインの章はここまでになりますが、何者問題についてのいくつかのハウツーや具体的な問題についてまとめた補論を最後に付け加えました。そちらもあわせてお読みください。
この本を読めば、「何者かになりたい」願いや「何者にもなれない」悩みについて、だいたいの見通しと、あなたが取り組むべき課題がおおよそ把握できるのではないかと思います──。
 
 (はじめに、ここまで)



 
何者かになりたい

何者かになりたい

  • 作者:熊代 亨
  • 発売日: 2021/06/12
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 
※以下の2冊は、近いコンセプトでつくられた兄弟みたいな本です。よろしければどうぞ。
 
認められたい

認められたい

  • 作者:熊代亨
  • 発売日: 2017/02/28
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)