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国立新美術館で開催されている『MANGA都市TOKYO ニッポンのマンガ・アニメ・ゲーム・特撮2020』を見てきた。目当ての作品があったからではなく、たまたま乃木坂を通りがかったこと、雨が降っていたこと、それから「美術館の人たちが漫画やアニメやゲームをどう紹介し、どんな見せ方をしてくるのか」を知ってみたくて寄ってみた。
コロナ禍のために、現在の国立新美術館は完全予約制となっている。入場2時間前にスマホで予約をしたのだけど、そのときの空き残り人数は20人を切っていた。展示が11月3日までなので、そろそろ混んできたのかもしれない。
それでも会場は広々としているというか、上の写真を撮るのがわけないぐらいスペースに余裕があった。人の流れもゆったりしていて、好きなものを好きなだけ眺めることができた。あちこちのディスプレイでアニメやゲームや特撮のムービーを流していて、目がうつって困る。
そうしたなかで、ひときわ目立っていたのは、会場中心に据え付けられた巨大な東京の模型と、そのジオラマと連動した巨大スクリーンだった。『シン・ゴジラ』や『機動警察パトレイバー2 the Movie』や『三月のライオン』といった、東京にゆかりのある作品が上映されるたび、ジオラマの該当エリアが光る仕掛けとなっている。
東京の模型と巨大スクリーンに次々に映し出される名シーンをぼんやり眺めていると、ただそれだけで楽しい。あまり難しいことを考えなくても、東京が広くて、その広い東京がさまざまに描かれてきたさまが頭に入ってくるようになっていた。
模型とスクリーンの周辺には、作中で描かれた東京の景色や風物が時系列順に展示されていて、たとえば江戸時代を描いた作品として『竹光侍』や『るろうに剣心』が、戦前期の作品として『『坊ちゃん』の時代』や『サクラ大戦』などが解説付きで展示されている。
戦前の作品には知らない漫画作品が多かったためか、東京とはいっても遠い世界の話だな、と思った。しかし戦後を舞台にした作品はそうもいかない。昭和の社会を覚えている人なら、今の社会と比べずにはいられないのではないかと思う。
高度経済成長期の東京は、薄汚くはあってもエネルギーにあふれた世界として描かれていた。バブル景気の前後は消費文化の爛熟する街として。または世紀末の東京として。そうした時系列の後に提示される"日常系"アニメのいじましさ。展示作品を見ていると、活力ある大東京を描く作風から、衰退しつつある東京の小さな美しさを描く作風へと変わっていっている、と感じられる。
会場の中央の模型とディスプレイの周辺に、それぞれの時代の東京を描いた作品が配置されているためか、そうした作風の変化と東京の移り変わりを意識せずにはいられなくなった。美術館の企画展示なのだから、これは、来館者がそういう意識というかパースペクティブを持てるよう、意図された配置なのだろう。
私はアニメやゲームを見る時には小難しいことをゴチャゴチャ考えたくないほうなので、展示が押しつけがましかったら嫌な気持ちになっていたかもしれない。が、今回はそういう押しつけがましさがなく、面白がって展示作品を見ているだけでおのずと作品たちの移り変わりと東京の移り変わりが重なってみえて、とても良かった。
とにかく展示作品を見てニヤニヤしたい! という人でも自然に展示コンセプトが頭に入ってくる催しじゃないかと思う。
販売コーナーの節操の無さがまた良い
会場の出口付近には、美術館ではおなじみの販売コーナーがあったのだけど、これもなんだか良かった。何が良いかというと、とにかく無節操に、今が旬のアニメやゲームの関連グッズがたくさん売られていたからだ。私のような人間が美術館に来た時に感じてしまいがちな、ある種の高踏的な雰囲気・教導的な雰囲気は、この販売コーナーからは感じなかった。
出入口に近い側には、こんな風に『鬼滅の刃』グッズがたくさん並んでいる。もちろん、今回の展示作品一覧のなかに『鬼滅の刃』は入っていない。その隣には『ヱヴァンゲリヲン』のグッズがあり、このカメラの撮影位置の近くには『Fate』のグッズが積まれていた。売れそうな作品のグッズなら置いてもらえるらしい。
こちら側には『ラブライブ!』や『ポプテピピック』、『転スラ』など。よそのアニメショップで買えなかった『ゆるキャン△』の耐水ステッカーが売られていたのを見つけて、迷わず保護した。こんなところで出会えるなんて!
この販売コーナーにも「漫画やアニメやゲームや特撮が好きな人はちょっと寄ってみてよ」という千客万来な雰囲気が漂っていて、難しい感じがしなくて良かった。
この、間口の広そうな展覧会は11月3日まで開催しているとのこと*1なので、東京を舞台にした漫画やアニメに思い入れのある人は、寄ってみると楽しいんじゃないかと思う。
*1:注:火曜日はお休みなので注意