シロクマの屑籠

はてな村から引っ越してきた精神科医シロクマ(熊代亨)のブログです。

4月5月は"やっている感"のハイシーズン(だからしんどい)

 
日本社会では成果よりも「みんなと一緒に」という美徳が信頼の源泉になっている。 | Books&Apps
 
books&appsさんに、"やっている感"について寄稿させていただいた。
 

  • 「みんな一緒に」の同調圧力が強まりやすい職場や現場では、仕事の効率や成果とは別に、みんなと一緒に手を動かしている"やっている感"を出すよう求められがち。
  • また、お互いのことをよく知らないメンバー同士の職場や現場では、「あいつ、本当に仕事をちゃんとやっているのか?」と誤解されないようにするために、シグナルとして積極的に"やっている感"を出しておいたほうがいい。

……といったことを書いた。
 
寄稿した文章を読み終わり、"やっている感"のハイシーズンとオフシーズンについて補足しておきたいと思ったので、書いておく。
 
一般に、"やっている感"を否応なく出さなければならない季節は、4月~5月、それと7月や10月だと思う。つまり新しい学校や職場に入っていく時期、転勤や異動がある時期だ。教室や職場のメンバーがお互いのことをよく知らないこの時期は、"やっている感"を出しておいたほうが無難なことが多い。リンク先で私は以下のように書いた。
 

一緒に働いているメンバー同士がお互いのことをよく知っていたり、進捗がガラス張りになっていたりする環境ならいざ知らず、そうでない環境では、仕事を進めているジェスチャーを出しておいたほうが誤解は避けやすい。
特に、あなたが短時間に一気に仕事を片付けるタイプで、仕事の合間にクールタイムを必要とするタイプの場合はとりわけそうだ。
「みんな一緒に」「みんなで力をあわせて」をルールとして重視していない人でも、プロジェクトメンバーの一人がマトモに働いていないようにみれば心配になるのは理解できることだ。
というのも、誰だってマトモに働かないメンバーのしりぬぐいなんてしたくはないだろうからだ。
そうした誤解や懸念を避けるためには、自分の進捗を明らかにしつつ、”やっている感”をメッセージとしてしっかり出しておくことには意味がある。
着任して間もない新しい職場や現場では、とりわけそうだろう。

 
世の中にはマイペースに働き、それで成果や結果を出せる人もたくさんいる。引用文にあるような、"短時間に一気に仕事を片付けるが""仕事の合間にクールタイムを必要とする"タイプもそれほど珍しくない。しかし、転勤や異動があった直後はお互いがお互いのことをよく知らないから、マイペース丸出しで働いたり、短時間に仕事を片付けるスタイルそのままに働いたりすると、「あいつ、ひょっとしてちゃんと仕事しない(できない)奴なんじゃないか?」という不信感を生んでしまう可能性がある。
 
不信感を生むリスクを減らし、職場で信用をスムーズに獲得するためには、ある程度意識して"やっている感"を出しておいたほうが無難ではある。
 
もちろんこれは、新しい職場に着任した人だけに問われるものではない。以前から職場にいた人も、新任者から「あの人、職場のお荷物なんじゃないか?」と思われないようにするためには、ある程度"やっている感"を出しておいたほうが安全だ。実際には実働5時間で仕事のほとんどを片付け、残り時間をフリーに過ごすワークスタイルを得意としている人でも、新任者にはすぐさま理解してもらえないかもしれない。はじめのうちは"やっている感"をある程度出しておき、徐々にそのワークスタイルを理解してもらったほうが不要の誤解や不信を避けやすいだろう。
 
それと規律や規則の問題。
ワークスタイルが概ねフリーな職場でも、イレギュラーなワークスタイルを新任者に積極的にはオススメしたくない、新任者にはまずテンプレート的なワークスタイルを提示しておきたい、という職場は意外に多いと思う。または、ちゃんと仕事をこなせる限りにおいてイレギュラーなワークスタイルを"許容"はしているけれども、表向きの規則としてはテンプレートどおりのワークスタイルを尊重してもらいたい、としている職場だってある。
 
そういう職場では、最終的には新任者にもイレギュラーなワークスタイルを許すことになるかもしれないけれども、少なくとも初手の段階ではテンプレート的なワークスタイルを、それこそ「和と協調を重んじて」「みんなが手を動かしている時にはあなたも手を動かして」的な規律を示しておかなければならなかったりする。規律を示しておかなければならない場面では、イレギュラーなワークスタイルが許容されているメンバーにも、ある程度の協力が期待される。「新任者にウチのテンプレを教えている横で、おまえさんのイレギュラーなワークスタイルを丸出しにされると少し困ります」という暗黙の期待には応えておいたほうが、ゴタゴタを避けやすいだろう。
 
こうしたニーズがあるため、"やっている感"を出さなければならない時期には一定の季節性がある。自分が新任の側であれ、新任者を迎える側であれ、お互いのことをよく知らない状況下でイレギュラーなワークスタイルを丸出しにするのは誤解や不信を招いてしまうリスクが高すぎる。本当はイレギュラーなワークスタイルでなければ本領を発揮できない人でも、はじめのうちは"やっている感"にコストを割き、「みんなと一緒に」をやってみせておいたほうが安全ではないだろうか。
 
そして相互理解の進行状況をみながら、自分のイレギュラーなワークスタイルを小出しにしていくのが、処世術としてはベターなんじゃないか。
 
 

それでも"やっている感"を出すのはラクじゃない

 
こんな風に、職場や現場のメンバーが入れ替わる状況では"やっている感"のニーズが高まる。4月5月、7月や10月は"やっている感"のハイシーズンと言っても過言ではないだろう。逆に、卒業式や送別会のシーズンは一年のなかでお互いのことを見知っている時期なので、"やっている感"のオフシーズンと言えるかもしれない。
 
とはいえ、処世術としての"やっている感"はやはりコストに違いない。少なくとも、マイペースなワークスタイルやイレギュラーなワークスタイルの時に仕事がトップギアに入るタイプの人にとって、わざわざ"やっている感"を出すために時間的・精神的・肉体的コストを支払うのは快いものではない。
 
今年は感染症対策の影響のため、顔合わせの時期が大幅にズレている学校や職場もあるだろうから、今まさに"やっている感"を出しておかなければならない人も少なくないのではないだろうか。
 
お互いの理解が進んで、自分のワークスタイルを出していけるようになるまで、なんとか頑張っていきましょう。