シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

雑感・『ゾンビランドサガ』

 
 

 
 今年もいろいろなアニメを味わい、楽しんだけれども、10月からのアニメで生活の質を一番良くしてくれたのは『ゾンビランドサガ』で、ゾンビ、アイドル、佐賀県がこれ以上ないぐらいに噛み合っているさまを楽しんだ。年末、思い出してスマホで書き殴りたくなったので書き残しておく。
 
 
 
・深夜アニメなので子ども向けの作品ではないだろうが、『ゾンビランドサガ』はうちの子どもには好評だった。特にガタリンピック、【たえの四肢がバラバラになって残りのメンバーが有明海を這い回る→ドライブイン鳥のTシャツが現れる】までのシーンのウケが良かった。「首がもげて、四肢がバラバラになって、ガブガブかみつくゾンビをコミカルに描こう」という強い意志の賜物だと思う。
 
・ガタリンピックの回はほかにも見所いっぱい。泥だらけになったさくらの髪がなぜか風にたなびくという、意図的に描いたとしか思えない、いかにもアニメ的な不自然さを描いていて、それがさまになっていた。司会の女性の、やる気のない声も似つかわしいもので、場面の雰囲気のつくりかたに一役買っているようにみえた。他の回もだいたいこんな感じで、見せたい場面のセッティング、視聴者の構えを誘導する巧みさみたいなものを感じた。
 
・私はあまりアイドルものをたくさん見ていないので、もしかしたら『ゾンビランドサガ』よりも命の輝きを印象づけられるアイドルアニメがあるのかもしれない。というか、リアルを含めてアイドルとは命を輝かせるものなのだろう。ただ、日常生活ではそういうことはあまり考えないわけで、「一度しか訪れない時間のなかで、命を燃やすアイドル」なるものをここまで意識したのは自分にとって新鮮な気付きだった。アイドルであること、生前が語られること、ゾンビであることが噛み合っていたから、ひとりひとりの命の輝きをことさら意識できたのだと思う。
 
 
・ところで、ある程度歳をとってから実物のアイドルにのめり込むおじさんが世の中にはいたりするが、あれも、今更若い娘さんの外見に魅了されているというより、命の燃焼や青春の燃焼に魅了されていたりするのだろうか? 生身の人間アイドルというのは実物の人生、そのひとの魂を宿した存在であり、その、取り返しのつかない一回性の存在が、歌って踊って汗や涙を流すエンターテイメントとはどういうものだろう? ……といったことをふと思った。
 
 
・とにかくゾンビというギミックが活きている。ブラックな労働も四肢バラバラパートの面白さも命の輝きも、すべてゾンビというギミックのおかげで辻褄が合っていた。生前の活躍と死後のトラウマ、死者を思い続ける人々を巡る物語にインパクトが宿っているのも、一度死んで、蘇っているからに他ならない。
 

 
・リリィの回の、この涙にはやられた。くそっ! ベタな涙ではあるし、いまどき深夜アニメの世界には無駄といっていいほど涙があふれている。「お涙頂戴」という言葉があるとおり、涙という記号自体はチープなものでしかないけれども、そこでベタな演出に白けるのか、乗っかって感極まるのかは、細部に宿る神の御業によるものであり、『ゾンビランドサガ』という作品には細部に宿る神がおはしましたらしく、不覚にも、何度か涙腺が決壊してしまった。
 
 
・とにかく細かいところに気が利いている。素晴らしい主題歌、再視聴した時に発見のある細かな気配りや伏線の数々。気持ち良く動き、ちゃんとかわいいフランシュシュのメンバーたち。作画にお金がかかっているだけでなく、ゾンビ・アイドル・佐賀県というギミックとストーリーラインの統合性、視聴者を楽しませてやろうという執念*1、どれも一線級。製作に携わった人達とサイゲームスには感謝しかない。
  
 
・それだけに、10話~12話は相対的にモタっとしてみえた。あくまで相対的なもので、並みのアニメに比べれば十分なのだけど。続編を見据え、アクセルの踏み具合を変えたのではないか、とも感じた。12話のラストは強制的に続編をみるように促すもので、1期単体アニメとしてみれば尻切れトンボではある。そのかわり、今後に期待を持たせる終わりかたではあった。
 
 
・佐賀県のご当地アニメとしても強力、ドライブイン鳥の社長さんの棒読みはほとんど反則だ。社長さん本人を連れてくればリアルな棒読みになるわけで、ご当地アニメに似つかわしかった。エンディングテーマ『光へ』は、すでに更地になっているコーヒーショップボガも相まって、(これは佐賀県に限ったことではないけれども)衰退していくジモトの風景の儚さを思い起こさせるところがあり、その衰退していく佐賀県のご当地アイドルがゾンビであることに4割のシンパシーと4割の応援と2割の皮肉を感じずにいられなかった。
 
 

 
・でもって、『光へ』以外のエンディングテーマの時も、「佐賀県」というテロップがベストショツトでうつっていた(上記貼り付け画像参照)。これ、サブリミナル効果があるんじゃなかろうか。佐賀県に来い、という強いアピールを感じる。遠いけれども行ってみたくなった。
 
 
・個人的には、二階堂サキがツボにはまった。世代的にも近いし、ヤンキーという種族そのものが絶滅に瀕している2018年から見ると、彼女の振る舞いのひとつひとつが思い出であり、20世紀の地方や郊外を思い起こさせる。自分が生きた時代と文化圏を代表しているのはサキだし、ああいう振る舞いは自分のどストライクゾーンなので、とにかく良かった。
 
 
・とはいえみんなやたらかわいい。誰一人欠けてはいけないし、誰の動きにフォーカスして眺めてもうっとりする。愛と純子、リリィやたえの動きをじっと見ていても発見があって幸せになる。ゆうぎりの過去話はDVDを買って見ろ、なんだろうか。そんな気はする。
 
 
・次回予告以上に、冒頭の前回のおさらいが良くできていて、飛び飛びに再視聴するときに目当ての回を探すのが楽だった。とてもまとまっているし早口な語りも似合っているし、一話飛ばしてしまった人もなんとかなるだろうし、そのうえ面白い。こういうところにも心遣いが感じられてかたじけない。
 
 

続きが楽しみです

 
 そんなこんなで、楽しんでしまった。それだけに、ゾンビアイドルグループの核心に迫りそうな続編が待ち遠しくてたまらない。かわいらしくゾンビアイドルしている歌を聴きながら、続編リリースを待っていたいと思います。
 
 ※このブログの更新は、今年はこれでおしまいです。皆さん良いお年を。
 

徒花ネクロマンシー

徒花ネクロマンシー

光へ

光へ

 
 

 
 

 

*1:方向性は違うけれども『GRIDDMAN』も相当なものだった。今年前半の『宇宙よりも遠い場所』や『ゆるキャン』もよくできていた。私自身のアニメ視聴としては、今年はこれらだけでも大豊作で、アニメ頑張っているなーと感じた。