シロクマの屑籠

はてなダイアリーから引っ越してきたシロクマ(熊代亨)のブログです。

「小説家になろう」を読んでいると「どけ、俺が書く!」と言いたくなる

 
 屋外はうだるような暑さのなか、エアコンの効いた部屋でスパークリングワインを飲みながら物語を読むのは至福のひとときだ。疲れた頭でも読みこなせる読み物が、いまどきはweb上にたくさんある。
 
 そんなこんなで、「小説家になろう」を読む。
 
 我が家のPCには「小説家になろう」のブックマーク入れがあって、ここに、なろう小説がどこからともなく集まってくる。のどを鳴らしたくなる作品が入っていることもあれば、水っぽいワインのような作品が入っていることもある。何がブックマークされているのかはわからない。ともあれ、自分で一から探すのに比べればありがたいことではある。
 
 で、エアコンの効いた部屋でスパークリングワインを飲みながら読んでいるせいで、ときどき、「どけ!俺が書く!」と言いたくなることがある。
 
 「中世~近世ファンタジー風に書くなら、透明感のあるワインを居酒屋で出しちゃあ駄目だ、そんなのは最高級品だ」
 
 「蒸留酒?なんで蒸留酒なんてものが出てくるんだ?おまえらは米で作ったどぶろくでも飲んでろ」
 
 「別に冷えた発泡酒を出すなとは言いませんが、せめて冷気魔法を使っているとか、なんか適当な言い訳をお願いできませんかー」
 
 こういう難癖は、テレビに向かってブツブツとつぶやき続ける、孤独なテレビ視聴者のソレと変わらない。
 
 ところが、言い訳なり説明なりがあったならあったで、別の難癖をつけ始める俺がいる。
 
 「冷気魔法で食品を保存できる世界なのはわかりました。でも、この場面で、その説明にくだくだしい説明を書き連ねるよりも、3話前の貴族様のお話しで触れてしまっておけばスマートだったのでは?」
 
 「これが、ヒロインの後輩君の内面パートなのはわかっているんですが、この後輩君の内面、すごく……昭和後半っぽいです……」
 
 「この世界で金属や穀物がユニバーサルに流通しているのは交易網のおかげとありますが、魔物がこんなにいる世界で、交易網をどうやって成立させているんでしょうか?」
 
 小姑のような難癖をつけ始めると、ツッコミどころを楽しめるような作風でない限り、興ざめしてしまう。優れたweb小説の場合は、ツッコミどころを楽しめるか、むしろ優れたデフォルメとみなせて「設定に乗れてしまう」けれども、そういう作品はそんなに多くはない。そりゃあそうだろう、あらゆる書き手が参加している・参加できるのがweb小説の世界なのだから。
 
 

「だったらお前が書けよ」→「どけ!俺が書く!」と言いたくなる

 
 そんなに難癖をつけるぐらいなら、お前が書けよ!と突っ込む人もいるかもしれない。実際、そのとおりだと思う。なろう小説を読んでいると、「どけ!俺が書く!」と言いたくなることがよくある。
 

ダンジョンズ&ドラゴンズ ダンジョン・マスターズ・ガイド第5版(改訂版)

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 魔物と魔法の系統はD&Dに近いものにしていこう。D&Dとわざわざ書かなくても、伝わる人には伝わるし、そのほうが設定のブレが少なくて済むはずだ。
 
地図でみる図鑑 世界のワイン (GAIA BOOKS)

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  • 作者: ヒュー・ジョンソン,ジャンシス・ロビンソン,山本博,遠藤誠,戸塚昭,塩田正志,福西英三,大田直子,緒方典子,宮田攝子,大野尚江,豊倉省子,藤沢邦子,乙須敏紀
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 ワインは甘みがぜいたく品だった時代に近づけて、糖尿病になりそうな甘いワインをドカドカ出そう。甘くないワインなどというヘルシーな志向が、近現代のテクノロジーを崇め奉るような異世界で珍重されるわけがない。
 
金と香辛料 〈新装版〉: 中世における実業家の誕生

金と香辛料 〈新装版〉: 中世における実業家の誕生

 
 ギルドカードにお金が振り込まれるような異世界なら、クレジットのあり方を根本的に変えなければならないし、通貨として金貨を登場させるなら、金と銀の産出量をいじらなければならず、それなら、惑星の重金属比率が違っている前提で進めたほうが良いかもしれない。
 
 
  
 いまどきは、異世界の物語を書くための「種本」や、先行作品が無尽蔵に存在している。だから、自分にとっての「それらしい」作品を創ろうと思ったら幾らでも資料が存在するし、言い方を変えると、各人にとっての「それらしい」作品は、各人が参考にした「種本」や先行作品によってバラバラになってくるはずだ。
 
 そうなると、他人の創ったweb小説を読むぐらいなら、「自分が手持ちの資料や作品と矛盾しない、自分で創ったweb小説を読んだほうがきっと満足できる」という怪しげな結論に辿り着いてしまう。だからついつい、「どけ、俺が書く!」と言いたくなってしまう。
 
 

でも「参りました。」と言わせる作品だってある

 
 ところが、実際には「どけ、俺が書く!」とはいかない。
 
 時間が無い、体力が無い、甲斐性も無い。ブログをはじめ、自分の領分で自分が書かなければならないことが山積しているのに、web小説に時間をかけるわけにはいかない。そういったお決まりの言い訳を乗り越えて、かりにweb小説づくりにリソースを突っ込んでも、早々、うまくまとまるとは思えない。
 
 web小説づくりは、自分が書きたい設定や世界背景を定めただけではうまくいかないことを、私は知っている。異世界にリアリティを与えようとゴテゴテやってしまうと、「クドクドとした、知識開陳の目立つ腐った何か」ができあがってしまう。だからといって、異世界の説明や風景描写を飛ばしすぎると「スッカラカンの何か」ができあがってしまう。
 
 してみれば、商業的に成功しているweb小説、あるいはライトノベルあたりは、たいてい、本当にうまくできているのだと思う。
 
 その世界の説明に無駄な行数を費やすことなく、知識の押し売りになってしまうことなく、できるだけ少ない文字数で、それでもスッカラカンとは感じさせずに気持ち良く異世界を読ませてくれる作品には、真似できるようで真似しきれない何かがある。ああいうのは、相応のテクニックや才能があればこそなのだと私は思う。作り込まれた異世界を見せてくれるけれども、読者への負担や知識開陳は最小限とし、キャラクターの挙動が異世界のスタイルと調和している作品は、とても素晴らしい。
 
 世の中は広い。優れた書き手はたくさんいる。
 
 だから「どけ、俺が書く!」と言いたくなった時は、「素晴らしい書き手の作品を待とう」と思ったほうが精神衛生に良いのだろう。もっとも、そこを突き詰めてしまうと、web小説なんて読まずに商業化された上澄みだけつまみ食いするのが効率的、ってことになってしまうのだろうけれども。
 
 エアコンの効いた部屋で「小説家になろう」を読んでいる時に、独りでつまらなさがヒートアップしてしまった時に思ったことを書きました。オチはありません。