- 作者: 藤野恵美
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2018/04/25
- メディア: 文庫
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本日発売の藤野恵美さんの作品『おなじ世界のどこかで』で、巻末解説を担当させていただきました。
本作は、もともとNHKオンラインで公開されていた作品を文庫化したものだそうです。これからスマホやSNSを本格的に使っていく方を主な想定読者として、インターネットやSNSのいろいろな側面を見知っていけるような話の筋になっています。と同時に、インターネットとは人と人とを繋ぐ媒体であって、人こそが肝心なのだということを思い起こさせてくれる作品でもあります。
作者の藤野恵美さんは、数多くの児童向け作品をはじめ、幅広い活動をされている作家さんです。私が初めて読んだ藤野さんの作品は『ハルさん』でしたが、そこで描かれる娘と父の物語の温かさに心動かされました。同じカドカワから出版されている青春三部作*1も、思春期のスピード感が気持ち良い作品なのに似たような温かさが根底で共通していて、本作品にもそういう部分があるように思われます。
他作品を読むにつけても、藤野さんは人の明るい部分だけを見ているわけではなく、いろいろな年頃の、いろいろな問題を視野におさめておられるのでしょう。インターネットに渦巻く悪や危機管理の問題についても、知らないわけではないと思います。
しかし本作品はインターネットの悪についてはそれほど掘り下げず、人と人がインターネットで繋がることの可能性を描き出すことに重心を置いていて、それで良かったのだと思います。いまどきの小中学生はインターネットについて沢山の警告や広告に曝されていて、ある面では意外といって良いほど"インターネット慣れ"しています。いやだからこそ、本作品のような、インターネットの向こう側に人肌が感じられるような切り取りの作品も世の中にはあったほうが良いように思われるのです。その点において、藤野さんは最適の人選だったのではないでしょうか。
ちなみに、巻末解説の末尾には、「どうか皆さんも、良いインターネットと、良い人生を。」というフレーズを用いました。このブログの常連さんのなかには、これが旧ニュースサイト『まなめはうす』管理人の、まなめさんの言葉によく似ていることに気づいた人もいるかもしれません。執筆中に私も気付きましたが、これ以外のフレーズはあり得ないと思って、そのまま採用しました。私がこの言葉を想起したのも、過去に『まなめはうす』を読んで影響を受けていたからに違いなく、それは『おなじ世界のどこかで』で描かれたインターネットの縁と同質のものだと思います。この場を借りて、まなめさんと『まなめはうす』に改めて御礼申し上げます。
個人的には、これからインターネットを始める人や、悪いインターネットばかり見つめ続けて擦れてしまった人に、おすすめの作品だと思います。
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*1:『わたしの恋人』『僕の嘘』『ふたりの文化祭』