シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

「メンヘラ芸」はプリントアウトして主治医に見せるべき症候では。

 
 メンヘラをネタにインターネットで人気者になることについて : 戦争だ、90年代に戻してやる
 http://hallucinyan.hatenablog.com/entry/2014/03/08/150824
 
 上記リンク先の文章は、「メンヘラ芸」「メンヘル芸人」的なものに警鐘を鳴らす目的で書かれたものと思われる。
 
 いわゆる「メンヘラ芸」と呼ばれるような、リストカット・大量服薬・希死念慮のアウトプットで不特定多数の注意を惹き、心理的欲求を充たす手段にしているようなアカウントは、ネット黎明期から存在していたと思われる。遅くとも、テキストサイト時代にはそういうアカウントを目にすることがあった。
 
 こうした「メンヘラ芸」「メンヘル芸」を見かけた時、どうすれば良いのか?一個人としてネット越しに出来ることはたぶん少ない。へたに言及すれば、その言及行為そのものがアテンションを提供することになり、彼/彼女の【メンヘラ芸を打つ→心理的欲求を充たす→ますます芸を打つ】の悪循環にポジティブフィードバックを返すことになるだろうからだ。
 
 最近は、そうしたメンヘラ芸的な個人同士が集まり、皆でリストカットしたり大量服薬を競ったりするようなケースもあると聞く。不特定多数からのまなざしが乏しくとも、仲間同士で「危険な逸脱行為の共犯関係」をつくれば、承認欲求や所属欲求は充たされよう。「ちょっと違った病者」としてのアイデンティティも得られるかもしれない。もし、彼/彼女がそのほかの手段では心理的欲求を充たし難く、アイデンティティも得にくい立場なら、【メンヘラ芸を打つ→心理的欲求を充たす→ますます芸を打つ】はたちまち加速していくだろう。
 
 しかも、そうした集団メンヘラ芸的オフ会には、(精神科臨床になぞらえるなら)デイケア職員や集団精神療法の担当者のような、場の暴走をレギュレートする存在が混じっていると思えない。集まりの主旨が集団リストカットや集団大量服薬を介して心理的に充たされることである以上、ことがエスカレートするリスクは小さくなかろう。断酒会のように、集団心理が歯止めになりそうな主旨の集まりはいいが、集団心理がブースターになりそうな主旨の集まりは、危険といわざるを得ない。
 
 だからもし、この文章を「メンヘラ芸」に該当する人がお読みになるとしたら、私は以下のように伝えたい。
 
 「あなたのメンヘラ芸のLINEやSNSのログをプリントアウトして、主治医にみせたほうが良いと思います」
 
 リストカットやODで他人のアテンションを集め、それでもって心理的欲求を充たす……をどこまでも繰り返し、ヒートアップさせていく行為は、とても危険な症候だ。誰もみていない空間でこっそりリストカットしたり大量服薬したりするのとは異なった危険を孕んだ、いかにも現代風の症候だと思う。
 
 メンヘラ芸は、心理的欲求と危険行為がフィードバックの糸で繋がっているので、心理的欲求のインフレによって危険行為のレベルも果てしなく上昇し得る。そうしたリスクと隣り合わせの行為を、情緒不安定なコンディションの人間が繰り返すとしたら……とんでもないことではないだろうか。命を落とすまではいかなくても、臓器がひとつ駄目になったり、大怪我をするかもしれない。そうでなくても、美容にはすこぶる悪かろうから、見た目を気にする人にはお勧めできない。
 
 以上を読んで「メンヘラ芸って、主治医に止められそうな行為だな……」と思ったなら、すぐに承認欲求の充たし方を路線変更するべきだと思う。承認欲求を充たすこと自体はいけないことではないけれど、社会的に不適切な承認欲求の充たし方はいけないし、自分の心身を破壊しやすい充たし方もいけない。その自覚がある人は、もう少し穏当な心の充たし方を模索すべきだと思う。よりにもよって「メンヘラ芸」などという底なし沼でやらなくてもよいのでは?
 
 そしてもし、以上を読んでも何も感じないという「メンヘラ芸」な人がいたら、この際、思い切って主治医のところに行為をプリントアウトして持参し、カミングアウトしてみて欲しい。そして、主治医のアドバイスに耳を傾けて欲しい*1
 
 

誤解のないように断っておくと。

 
 なお、私は、精神疾患を罹患している人や、なんらかの事由で心療内科に通っている人に「オフ会に出るな」「ネットをやるな」と言いたいわけではない。ネットやオフ会をやれるだけの元気があり、情緒的にも良好なコンディションの時には全然構わないと思っている。私自身も、あちこちでそうした人達とコミュニケートし、楽しいひとときを過ごしてきた。
 
 肝心なのは、社会人として礼節に適ったお付き合いが出来るか否か、お互いに良い時間を過ごせるようコミュニケートできるか否かであって、誰がどんな精神疾患にかかっているとか、主治医に告げられた診断名が何であるかではない。とにかくも、きちんとコミュニケートできる状態ならそれで良いし、きちんとコミュニケートできない状態なら良くない――ただそれだけである。
 
 逆に言うと、オンラインでもオフラインでも、新たに他人と会って一緒に時間を過ごす際には、お互いに礼節を弁え、社会的に不穏当ではないコミュニケーションを行えるだけの最低限度のコンディションを準備すべきではないか、ということでもある。自分の情緒に自信が無い時には、回線切って休んでいたほうが良いこともあるだろうし、オフ会への参加をキャンセルしたほうが良いこともあるだろう。それは、病名の有無とか、社会的立ち位置とかとは無関係な、万人共通の基準ではないか*2
 
 そういった観点で考えても、「メンヘラ芸」的情況とは、当人自身にとっても、おそらく周囲の人間にとっても、好ましいものとは思えない。もっと情緒的に安定したコンディションで、安定したコミュニケーションを志向するのが好ましい、と思う。
 

*1:普通は、主治医は心配するんじゃないかと思う。

*2:そして、心療内科に通っていると仰る人でも、ネットやオフ会に出てくる人の大半は、そうした基準をきちんと守っているのである