最近はたいていのスーパーマーケットに“お客様の声”を掲示するスペースがあって、たくさんの声が寄せられている。「お店のサービス向上のために」と銘打たれた、お客様からの、匿名の書き込みの群れ。「あれが欲しい」「この商品が置いてない」といったシンプルな内容のものもあれば、ほとんどモンスタークレーマーとしか言いようのない恐ろしい内容のものもある。特定の店員を誹謗中傷しまくった“お客様の声”が、店員の名前をマジックで消したうえで掲示されているのを見たこともあった。
こうした“お客様の声”を店舗ごとに比べてまわると、そのスーパーとお客さんとの関係というか、色々なものが浮かび上がってくるようで興味深い。内容はほとんど同じでも、用いられるレトリック、用語の適切さが違っていることもある。ヤバい書き込みの混入頻度も店ごとにまちまちだ。スーパーそのものの質を反映しているわけではないにせよ、何かがそこには反映されているのだろう。だから、持続観測の甲斐がある。
それにしても、スーパーマーケットの掲示板は2ちゃんねる・大手小町・はてな匿名ダイアリーによく似ている。踏みつけるがごときコメント、上から目線、ドヤ顔、粘着、誹謗中傷。どうしてこんなに似ているんだろうか?「そうか、匿名掲示板とは、オンラインでも、オフラインでも、こういう風になってしまうものなんだな」と私は納得してみることにした。なんら検閲を受けず、署名や責任を伴わず、好きなことを書いて良い場所が用意されると、おのずと匿名掲示板然とした書き込みがあつまるのではないか。あれは便所の落書きということか。
特定店員の誹謗中傷がマジックで消されていたように、スーパーマーケットの掲示板には、一応の検閲機能が備わっているのだろう。まあ、2ちゃんねるだって、一応の検閲機能が備わっている(ことになっている)のだから、検閲性の多少はあまり関係ないのかもしれない。そしてこちらに書いたように、“ここはネガティブな事、高飛車な事を書いて構わないんだ”といったん認知された匿名の場は、そのような書き込みを誘発し、場そのものが自己膨張していくのだろう。スーパーの掲示板も、それ自体が誹謗や上から目線の重力場を生み出し、きたないコメントを自己集積しているっぽい。
私の記憶が確かなら、たしか誰かが、“インターネットの書き込みは無意識の坩堝”みたいな比喩をおっしゃっていたように思う。そうした無意識の露出と共振は、ネットに限らず、匿名の場が与えられるとスーパーの掲示板であれ、便所の落書きであれ、起こるものなのかもしれない。スーパーマーケットの掲示板もまた、Facebook的な上っ面のコミュニケーションの水面下に蠢いている地虫のごとき精神が這い出す、娑婆世界の暗がりのひとつなのだろう。
まあいいや、昨日は大根が安かったので、今日は鰤大根にしますかね。