シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

ブログがSNSにトラフィックを奪われる時代は終わった。ブログがSNSからトラフィックを集める時代が始まっている。

 
 「TwitterやFacebookの次は何が来るか」だって?そりゃお前、ブログに決まってんだろ! | Tribal Marketing ❤ ikedanoriyuki.jp
 
 前から勘ぐっていたけれど、なんとなく言い辛かったことを後押ししてくれる記事をみかけた。「ブログはオワコン」ではなく「twitterやFacebookの次はブログ」。私もそう思う。
 

ブログがSNSにトラフィックを奪われる時代は終わった。

 
 twitterやSNSが流行しはじめた頃、ブログが終わった論が流行した。その際、根拠として言われていたのは「SNSにブログはトラフィックを奪われる」と「ブログは可処分時間をSNSに吸い取られる」だ。
 
 一見、これらは間違っていなさそうにみえる。2009〜2010年頃にブログのアクセス解析を眺めていた頃には“どうやらSNSにお客さんを持っていかれているらしい”という体感もあった。当時、ブログをやめてSNSを活動領域に移した人がたくさんいたけれど、確かにそういう誘惑に駆られやすい時期だった。
 
 ところが、2011年の終わり頃から雰囲気が変わってきた。「はてなブックマーク」が100程度の記事に対して、今までの1.5倍、ときには2倍近いトラフィックが流れ込んでくるようになったのだ。「巷ではブログはオワコンと言われているのに、うちのブログにはトラフィックがやたら流れてくる!!」――よく調べてみると、そうしたトラフィックの多くはtwitterやfacebookを経由したものだった。アクセス増加の全部とは言わないにせよ、かなりのトラフィックをSNSが肩代わりしてくれていた!
 
 “自分だけが例外かもしれない”と疑った私は、よそのブログ、特にトラフィックが中堅どころのブログで、なおかつトラフィック元上位を公開しているブログ数箇所を定点観測しはじめた。はたして、他のブログでもSNSからのトラフィックが少なからぬ割合を占めていた。また、他のブロガーから直接「SNSからのトラフィックはおいしい」「昔よりアクセス数を集めやすくなった」という声も聞いた。SNSからトラフィックを吸い上げているのは、どうやら『シロクマの屑籠』だけではないらしい。
 
 「ブログがSNSにトラフィックを奪われる時代」はもう終わったのだ。「ブログがSNSからトラフィックを集める時代」が始まった。いや、一年以上前からそうなっている。
  
 短い冬だった。
 
 

「ブログとSNSは可処分時間が競合する」論は本当か

 
 もう一つ反駁しておきたいのは「ブログとSNSは可処分時間が競合する」論だ。
 
 SNSに夢中になったネットユーザーは、そのぶん可処分時間を削られてブログを読まなくなる、という読みは一見正しい。しかし、実際にはSNSからブログに大量のトラフィックが流れてくるようになったわけで、SNSをやっていても長文を読みたい人が案外いる、という風に考えざるを得ない。
 
 こうした「可処分時間が競合しそうで実はあまり競合しない」現象は、SNSとブログだけではなく、テレビとインターネットの間にもみられるらしい。アメリカの著述家・ニコラス・G・カーは、著書『ネット・バカ』のなかで、ネットユースが増えてもテレビの視聴時間が減少しない調査結果を紹介している。引用すると、
 

 メディア活動研究の大部分が示すのは、ネット使用時間が増大するとき、テレビの視聴時間は横ばいのままである、か、増加するかだという事実である。ウェブ時代を通じてアメリカ人のテレビ視聴時間は増加し続けているということが、ニールセン社が実施した、長期にわたるメディア追跡研究によって明らかになっている。テレビの前でわれわれが過ごす時間は、2008年から2009年の間に2%増え、月153時間に達した。これはニールセン社がデータ収集を1950年代に始めて以来の最高水準である。
(中略)
 2006年にジュピター・リサーチ社によって行われた研究によれば、テレビの視聴者層とネットサーフィンをする層の「重なりの度合いはきわめて大きな」もので、最も熱心なテレビの視聴者は最もヘヴィなネットユーザーでもあるのだという。言い換えれば、オンラインで過ごす時間の増大は、スクリーンの前で費やす時間の拡大につながったということである。
 
ニコラス・G・カー 著 篠儀 直子 訳『ネット・バカ』青土社、2010、P125-126より抜粋

http://shirokumaice.tumblr.com/post/36658971064

 こんな具合だ。
 
 後半パラグラフを参照するなら、最も熱心なブログ読者もまた、最もヘビーなSNSユーザーかもしれない。このあたりは興味をそそるが憶測の域を出ない。
 
 さしあたり間違いないのは、PCであれスマホであれ、SNSとブログは直接的には競合しない、ということだ;つまり、ブログを読んでいる時にもFacebookは律儀に知らせを告げてくれるし、ブログ記事を開いたからと言ってSNSユースを中断してしまうわけでもない。テレビをつけながらインターネットができるのと同様に、SNSをつけながらブログを読むことは十分に可能だ。端末のインターフェースの仕様として、そうなっている。
 
 だから私は「ブログとSNSは可処分時間を競合する」論より「SNSは“ながら視聴”しやすいメディアだから、ブログとは必ずしも競合しない」論のほうのほうに軍配をあげたくなる。理屈としてだけでなく、実際、SNSからトラフィックが大量に流れ込んできてガッハッハである以上、そう思わざるを得ない。
 
 SNSとブログ、テレビとネットに限らず、「何と何とが競合し、何と何とが競合しないのか」問題は、なかなか一筋縄ではいかなさそうな問題で、熟慮に値すると思う。
 
 

当面、ブログは一定のプレゼンスを保ち続けるだろう

 
 たぶん、今後数年程度は、ブログはインターネットの生態系のなかで一定のプレゼンスを保ち続ける。ブログと可処分時間を直接競合するメディアは、SNSのようにみえて実際はそうではなく、おそらく雑誌社のウェブ記事や、雑誌媒体そのものと思われる。そしてウェブ記事はともかく、雑誌媒体そのものはSNSからトラフィックを誘導できず、24時間いつでもアクセスできる(ネットでは当然の)アドバンテージを欠いている*1
 
 そんなわけで、ネットメディアとしてのブログは捨てたものじゃないし、使い方・工夫の仕方次第ではまだまだ色んな事ができる、利便性の高いメディアであり続けると思う。いつかブログの完全上位互換なメディアが登場するまでは、きっと大丈夫。なので、向こう3年ほど先までを見越して、ブログを書き綴る・書き溜めるのは、今、すごく、アリなんじゃないか。
 
 
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*1:だから、かなり専門性の高い雑誌はともかく、ゴシップや専門性の低い雑誌を流通させる雑誌にとって、ブログの跳梁は深刻な問題に違いない、と私は推測する