シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

「真面目系クズ」と依存性

 
 「真面目系クズ」というのを知った 完全に俺のことでワロタwww : 妹はVIPPER
 
 リンク先には、比較的新しいネットスラングと思われる「真面目系クズ」について意見が集まっている。私の知る限り、この単語は1〜2年前ぐらいから時々見かけたような気がするが、「非モテ」「非コミュ」に比べればずっと歴史が浅い。
 
 さて、真面目系クズとはどういうネットスラングだろうか。ニコニコ大百科には、原典にあたる人物の発言を引用しながら、

・非リア充であり、DQNのような明るさはない
・資格や勉学に打ち込んでいるとアピールし、それを就職から逃げる理由にする
・かといって本気で打ち込んでいるわけではなく、他に勉強している者からすれば明らかにボロが出るレベル
・それでも自分は努力しているとアピールし、大言壮語を吐く。
努力しているけど要領の悪い者、自分がクズだと自覚している者とは明らかに異なるのである。現実から目を逸らし、大言壮語を吐き続けることこそ真面目系クズのあるべき姿と言えよう。

 と書いてある。
 
 また、はてなキーワードには

一見すると真面目なのに実は中身がクズな人のこと。自ら主体的にがんばったり努力することはないが、先生や親の言うことをきくので周りからの評判は良い。反抗しないのは楽な方へと流されれいるだけで、ルールを外れる勇気もない。周りに迷惑をかけないように真面目に生きてきたが、積極的に努力することは無い。最初の印象はよく、周囲から期待されるが、だんだんボロが出て人が離れていく。ひとことで言うと「エヴァのシンジの悪いところだけ集めた感じ」のクズ。

 と書かれている。両者の間には若干のニュアンスのずれがあり、多くのネットスラングと同じく、厳格な定義を持っているわけではなさそうである。
 
 

真面目系クズのエゴグラム

 
 ここからが本題。
 冒頭のリンク先には、この真面目系クズに該当するであろう当事者がエゴグラムをやってみた結果が張り出してある。その結果が興味深いものだったので紹介する。
 
 ・被験者1:bbbaa
 ・被験者2:cbbaa
 ・被験者3:cbcca
 ・被験者4:cccaa
 ・被験者5:cbbba
  
 この五人のエゴグラムの形は全員違っているが、一点で共通している。五つのアルファベットの末尾が全員aになっているのだ。
 
 エゴグラムは、その人の現在の心のスタンスを五つの要素に分けて評価する簡易心理検査である。五つの要素を大雑把に説明すると、
 
(CP)昔の親父っぽさ。(責任感、モラル遵守、頑固さ、権威的、など)
(NP)お母さんっぽさ。(面倒見、親切さ、おせっかい、許容的、など)
(A)合理性。(理性の重視、打算的、感情に振り回されない、など)
(FC)子どもの自由さ。(奔放さ、活気さ、豊かな表現、お調子者、など)
(AC)依存性。(従順、協調性が高い、我慢を溜め込みやすい、など)
 
 という感じになる。上のアルファベット5文字は(CP)(NP)(A)(FC)(AC)を順番に並べたもので、アルファベットのabcは、【a:傾向が強い b:普通 c:傾向が弱い】という意味である。例えば被験者5のcbbbaは、「親父っぽさが低く、依存性が高い。他は平均的」となる。
 
 つまり、真面目系クズは (AC)依存性 が高い
 
 (AC)が高いということは、従順で協調性が高く、親や教師から見れば扱いやすい、優等生に見えやすいタイプと言える。このため、真面目系クズが「生徒」という立場のうちは、意外と社会適応に優れていることも多い。誰かの指示に従っていればベストの結果が手に入る状況には、(AC)が高い人はよく馴染む。
 
 しかし、いったん「生徒」「子ども」という立場を卒業し、自己決定が必要な立場に立たされたり、しっかり自己表現をしなければならない場面を向かえたりすると、こういう人はどう行動すれば良いのか分からなくなってしまい、しばしば他人の意見や顔色に流され、後になって「こんな筈じゃなかったのに」と後悔しやすい。人の顔色には敏感な反面、自分の感情表出は苦手で、それどころか自分の感情を意識できていないこともあり、対人関係のストレスを溜め込みやすい。
 
 個人的には、(AC)が高すぎる状態は、社会適応上、あまり有利ではないと思う。なぜなら、現代社会においては仕事も結婚も自由選択・自己決定が必須で、自己主張するための意志と判断力を常に求められるからである。また、他人の顔色に流されやすく自分の感情表出が苦手な面は、ストレス管理の面でも有利とは思えない。
 
 このエゴグラムの結果に限らず、ネット上で「自分は真面目系クズだ」と主張している人達のメンションを読んでいても、ああ、この人達は依存性が高そうだなと感じることが多い。そんな彼らは、現代社会への適応があまり良くないか、控えめに言っても苦労しているのだろうと思う。
 
 

真面目系クズの苦労について考えてみる

 
 ここで、真面目系クズな人のライフコースについて考えてみよう。真面目系クズな人の場合、(AC)が高いので、親や教師からは聞き分けの良い優等生とみられやすく、大人に言われたとおりに勉強はするので学力が高めのケースも多い。そんな彼らにおいては、学齢期の少なくとも途中までは、社会適応はそれほど悪くないと思われる。プライドが高くても、この時点ではあまり問題にはならない。
 
 ところが、大学生活〜就職期を迎えるあたりからは、なにかと自主性が求められることになるので、(AC)が高い真面目系クズには苦手な場面が増え始める。もちろん真面目系クズとて、通学や就活はそれなりにやる――大人に言われたことにはおとなしく従うのが彼らの処世術なのだから――が、それ以上踏み込んだことはしないし、そもそも出来ない。大人に言われた事しかしていない度合いが特段に高い場合、社交スキルや遊びのスキルといった社会経験が乏しいため、それが地味に響きはじめる*1。さりとて、真面目系クズの人がそういった遅れを取り戻そうと努力を始めることは少ない。もともと消極的なことに加え、(特にプライドが高い場合は)周回遅れを取り戻そうにも「初心者の自分」に直面するのが恥ずかしくてトライアルに着手できない。
 
 また、社会人ぐらいの年齢になると、真面目系クズの処世術や性格はたちどころに察知されるようになるので、「こいつはNOとは言えない人間だ」という認識のもと、面倒な仕事を押し付けられる可能性が増えるかもしれない。あるいは重要な仕事をしても、「これは俺の功績だ」と適切に自己主張することができず、トンビに油揚げをさらわれるリスクもあるかもしれない。さりとて真面目系クズな人は面と向かってNOとは言えないので、心の中では恨みとストレスを募らせながらも、結局はどうすることも出来なかったりする*2。出世の面でもメンタルヘルスの面でも、これは大きなペナルティである。
 
 では、真面目系クズな人はどうすれば良いのか。
 あきらめるしかないのか。
 
 私は、だからあきらめるべき、とは思わない。エゴグラムで拾い出される心の傾向は固定的なものではない――依存性にしても、遊び心にしても、暮らしのなかで変化していく余地はある。そもそもエゴグラムは、「この人はこんな人と決め付けるための道具」として開発されたのではなく、「今の自分の心の傾向を知ったうえで、今後どうするかを考えるための道具」として開発されたものだ。もし、今(AC)が高い依存的な人だとしても、その問題点を知ったうえで暮らしを軌道修正させていけば、今後もそうだとは限らない。仮に、あなたが真面目系クズというネットスラングに当てはまると今感じていたとしても、未来においてもそうとは限らない。もし、真面目系クズな自分が嫌なら、ちょっとずつ、時間をかけて軌道修正していけばいい*3
 
 エゴグラムで示されるような性格傾向は、一ヶ月や二ヶ月ではそう変わらないかもしれない。だが、五年、十年という蓄積はしばしば人を大きく変える。とりわけ若い人の場合は、その変化の余地は大きいだろう。真面目系クズという言葉を自分自身に当てはめた後、そこで立ち止まることもできるけれども、そこから歩き出すことだってできる;そのことは忘れるべきではない。
 
 [補足:]自称「真面目系クズ」のエゴグラム集計結果報告 - シロクマの屑籠
 

*1:もし、小さい頃から大人に命令されていれば、このような人達は、せいぜい真面目に社交するのだろう。しかしそれは「遊び」ではない。「遊び」とは、命令されてやるものではなく自発的にやるものだから。

*2:万が一、「これは俺の功績だ」と言うとしても、言い慣れていないので適切な社会性を伴わない、ともすればアンコントーラブルな自己主張になってしまいやすく、結果として人望を損ねるような結果にも陥りやすい。

*3:ちなみに、こういうのは急いでやってもうまくいかない。